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2013.01.01

連載エッセイ79

近親相姦、両性具有…奇妙奇天烈で異常な、精神分析家族物語
ホドロフスキー&ヒメネス『メタ・バロンの一族』

中条 省平

近親相姦、両性具有…奇妙奇天烈で異常な、精神分析家族物語<br />ホドロフスキー&ヒメネス『メタ・バロンの一族』

  アレハンドロ・ホドロフスキーという名前に私が初めて出会ったのは、1972年、高校3年のときでした。「季刊フィルム」という映画雑誌を読んでいたときのことです(ただし、当時は「ホドロスキー」と表記されていました)。
「季刊フィルム」は映画を主な批評の対象にしてはいましたが、当時の日本においてもっとも先鋭的な総合文化雑誌でもあり、編集同人には、文化のジャンルの枠をこえて、武満徹(作曲家)、勅使河原宏(映画監督)、粟津潔(グラフィックデザイナー)、中原佑介(美術批評家)、飯村隆彦(映画作家)、松本俊夫(映画作家・映画批評家)、山田宏一(映画批評家)という途方もない人材が結集していました(とはいえ山田宏一はすぐに同人をやめてしまいました。山田さんご本人から聞いたところによれば、粟津潔以外の全員と大げんかをしたのだそうです)。それはともかく、世界的な文化の激動期だった1970年前後に、「季刊フィルム」は、映画の最前線から表現の未来を真摯に探究するすばらしくカッコいい雑誌で、斬新なものに敏感な若者たちから強く支持されていました。
 その最終号となった第13号に、ホドロフスキーの西部劇映画『エル・トポ』の詳しいシナリオがいきなり全編掲載されたのです(こういう大胆な企画をさらりと実現してしまうところに「季刊フィルム」の特長がありました)。そこに掲載されたスチル写真をひと目見て私は魅せられてしまいました。主人公とおぼしき黒ずくめのガンマンが白馬に乗って砂漠を騎行している姿を後ろから撮ったワンカットなのですが、ガンマンは黒い雨傘を差し、白馬の尻にはなぜか山高帽をかぶった全裸の幼児が座り、黒い木の幹の細く長い樹影が白砂を斜めに横切り、手前の斜面には19世紀風の婦人の肖像写真を入れたバロック的意匠の額縁がなかば砂に埋もれているのです。その静謐な幻想的美学、奥行きの確かな構図、しかし、異質の要素がぶつかりあう、どこか変調をきたしたアンバランスな感覚には、有無をいわさず見る者を引きつける魅力がありました。
 私はこの『エル・トポ』という西部劇を見たくてたまらなくなりましたが、もちろん見るすべはありません。そのうち、ジョン・レノンやミック・ジャガーやアンディ・ウォーホルが『エル・トポ』を絶賛しているという噂が聞こえてきたり、日本では寺山修司が惚れこんだという記事もどこかで目にしたりました。
 それから長い年月が経過して、ようやく私が『エル・トポ』の実物を目にすることができたのは、1984年、パリに留学したときのことでした。到着してまもないパリの学生街カルティエ・ラタンの真ん中を通るブールヴァール・サン=ミシェルを歩いていると、大通りからすこし引っこんだ坂道に「アッカトーネ」(ピエル・パオロ・パゾリーニ監督の処女作のタイトルで「乞食」の意)という名前の小さな映画館があり、そのショーウィンドウのなかに、記憶に焼きついたあの黒ずくめのガンマンのスチル写真が貼ってありました。『エル・トポ』は世界的なカルト・ムーヴィとして名声を保持し、パリの小さな名画座で延々と上映されつづけていたのです。そして、ついに12年経って、私はここで『エル・トポ』を見ることができました。

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