毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

★がついた記事は無料会員限定

2015.10.09

第二十一回

夜のカントリーロード

小嶋 陽太郎

夜のカントリーロード

 夜の十時くらいにマックに行こうと街を歩いていたら駅前の広場から音楽が聞こえたのでそちらを見ると、三人組のバンドが路上ライブをやっているのを発見した。松本ではあまり見ない光景だ。
 彼らはカントリーロードを演奏していた。コントラバスとアコースティックギターとエレクトリックギターでまさにカントリー的な音を出していた。それぞれが弦楽器を演奏しながら足でバスドラを鳴らしたりタンバリンを叩いたり、もしくはハーモニカを吹いたりしていたので、器用な人たちだなと思った。しかもときおり三人でハモっていた。僕は思わず立ち止まって、その器用なカントリーロードを聴いた。
 カントリーロードといえば映画『耳をすませば』だけど、『耳をすませば』といえば思い出す授業があって、それは大学二年のときに受けた一般教養の授業である。その授業は「青年心理学」という題の授業だった。人気の授業だったのか、大学内でいちばん大きな、二百人ほど入る講義室でそれは行われていて、先生は関西弁をしゃべる人だった。
 たしか人間の青年期における心の成長を学ぶというような内容の授業だったが、はっきりいって面白かった。僕は基本、先生の話を聞いていないんだけど、この先生の話はけっこう聞いていた。
 あるとき、中学生の少年がパソコンでスケベなサイトを見ていることを、母親が閲覧履歴を確認することによって突き止め、「あんたいかがわしいもの見てるでしょ」と突きつけた――という話が講義の中で出てきた(どういう流れで出てきたのかは忘れてしまった。反抗期とか、親子関係の話だったか……)。
 この話を紹介して先生は、
 「こんなもん僕だったら母親ぶち殺してますわ」(関西弁で再生してほしい)
 と二百人の前で言った。
 こ、この人は信用できる……僕は先生に対してそのように思った。
 最終試験は「十年後の自分に手紙を書きなさい」という恥ずかしいものだった。
「お元気ですか? 僕は元気です。僕はいま大学生なんですが、バンドマンになろうかなあと思ってます。でもあっさりあきらめて、十年後、しれっと他のことをやったりしていたら、すごくいやだなあと思います。そういうのは、すごくダサい。あなたはいま何をやってますか? ダサい大人になってないといいんだけど」
 というダサい文章で僕はそれをクリアした。そしてその半年後くらいには、「ちょっとバンドマンは現実的じゃねーな」と思って小説に手を出し始めた。
 ところで、『耳をすませば』でなぜこの授業を思い出したかというと、ズバリ授業の中でこの映画を観たからである。二百人の若者が一斉に『耳をすませば』を観るという場面には立ち会ったことがなかったから、いったいどうなるのだろうかと思いつつ僕は大きなスクリーンに映し出された雫と聖司を見ていた。
 聖司が初めて、「月島」ではなく「雫」と、雫のことを下の名前で呼んだときに歓声が上がった。そしてラスト、「おれと結婚してくれないか?」からの「雫、大好きだ!」で、二百人分の盛大な拍手。そのとき、信州大学202講義室(だったっけ)は、天沢聖司と月島雫の愛と青春の力によって謎の一体感に包まれた――という四年前のできごとを、路上ライブの三人組は僕に思い出させてくれた。
 三人組はカントリーロードを歌い終えると、メジャーデビューを目指していると宣言してラストの曲を演奏した。カントリーロードで思い出された甘酸っぱさを引きずりながら、僕はそれを聴いた。彼らがあまりに楽しそうにギターを弾き、打楽器を鳴らし、ハモるので、見ているうちに、僕はだんだん胸のあたりがグググとなるのを感じた。
 ポーズでプロを目指しているようなフリをする人間や、本当はプロになりたいのに、そうでもないようなフリをする半端な人間がたくさんいる中で、堂々とメジャーデビューを目指していると宣言し、かつとびきり楽しそうに歌う姿に、うらやましさを覚えると同時に、何か痛いところを突かれたような気持ちがしていた。
 家へ帰って十年後の自分への手紙を書いた四年前の自分へ手紙を書いた。
「おまえはどれだけの覚悟でそれを書いたんだ?」
 切手がないし投函するのが面倒なので、引き出しの中にしまっておくことにする。

 

★がついた記事は無料会員限定

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

おすすめの商品
  • ピクシブ文芸、はじまりました!
  • 文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
  • 無理しないけど、諦めない、自分の磨き方
  • 時短、シンプル、ナチュラルでハッピーになれる!
  • ビジネスパーソンのためのマーケティング・バイブル。
  • 有名料理ブロガー4名が同じテーマでお弁当を競作!
  • ドラマこそ、今を映すジャーナリズム!
  • 砂の塔 ~知りすぎた隣人[上]
  • 小林賢太郎作品一挙電子化!
  • あなたがたった一人のヒーローになるためには?
文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
ピクシブ文芸、はじまりました!
エキサイトeブックス
今だけ!プレゼント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!