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2015.09.24

第二十回

23の夜

小嶋 陽太郎

23の夜

 マクドナルドの二階席でよく仕事をするんだけど、向かいの席におそらく中学一年生くらいだろうと思われる男子二人組が座ったことがあった。ひとりはやせっぽちで、ひとりは肥満だった。
 ハンバーガーやポテトの載ったトレーを手に、うれしそうに席に着くのでなんだかほほえましいなと思うのも束の間、彼らはバッグからそれぞれゲーム機を取り出した。ハンバーガーを食いながら、ひどく悪い姿勢でそれをやり始めた。
 うーん、友達と連れだってマックに来てゲームか……。
 少し釈然としない気持ちになったが、僕はたいして気にせず仕事を続けた。
 向かいからは、ずっとゲームのピコピコした電子音が聞こえている。
 数分がたった頃、最初に注文した分だけでは足りなかったのか、やせっぽちのほうが、もうちょっと何か食べようかなというようなことを言った。ハンバーガーにしようか、ソフトクリームにしようか……。
 むやみに腹が減るのが中学生というものだということを中学生だったことのある僕は知っている。
 ぞんぶんに食うがいい、少年よ。
 また少しほほえましい気持ちを取り戻しつつ、僕はパソコンのキーボードを叩いた。
 やせっぽちのほうはわりと親切なやつらしく、
「決めた。ソフトクリームにしよ。なんか追加で食べたいモノあったら、ついでに注文してくるよ」
 と肥満のほうに向かって言い、財布を握りしめて立ち上がった。
 すると肥満のほうが次のようなことを言った。
「えーとね、俺は……ビッグマックとポテトのL。あと、飲み物はコーラで」
 てめえ! と僕は言いたくなった。
 肥満のほうは、はっきり言って目もあてられないほど肥満だった。最初に見たとき、「おそろしく肥満の子が来たな」と思ったほどだったのだ。見ているほうが心配になるくらいの太り方をしていた(彦○呂を見たときと同じ気持ちになったのだから、けっこう深刻だと言わざるを得ない)。
 僕は思わず立ち上がり、肥満少年に対して「それは食いすぎだぜ、死ぬぞ少年」と忠告してあげたくなった。が、いきなりそんな忠告をすることなど実際にはできず、目の前で追加のビッグマックとポテトのLとコーラが肥満少年の巨大な腹に次々収まっていくのを見ていた。そして彼はまた、一言もしゃべらずにだらしない姿勢で延々とゲームを始めるのだった。それも、さらに追加で頼んだポテトを口に放り込みながら。
 お手本みたいな肥満少年だな……。
 怠惰と自制心のなさが如実に体形に反映された典型例みたいな少年を目撃した結果、憤りと心配が入り混じった妙な胸やけを覚えつつ、僕はマックを出ることになった。
 帰り道、国道沿いを自転車で走っていると、前方に徒歩のカップルを発見した。追い抜こうと五メートルほどの距離に近づいたとき、なんと男のほうが突然女に顔を近づけていわゆる接吻というものをかました(事実)。
「やめてよもぉー」
 女は楽しそうに男の頭をはたいた。
 その瞬間、頭の中でぷつんと何かが切れた音がして、僕は衝動的にビリー率いる地獄のキャンプ――ビリーズブートキャンプへの入隊を決めた。当時流行ったときに母親が買うだけ買って放置していたものが家にあるのだ。
 その日から僕は謎のエネルギーに突き動かされるようにして、毎日五十分のプログラムをビリーの指導のもと、こなした。
 キャンプの内容に関しては面倒なのでとくに書かないが、とにかくきつい。ビリーは僕たちを全然休ませてくれないし、最初はとにかく筋肉痛になる。
 ビリーはずっと、何かしゃべっている。少しうるさいなと思うくらい、ずっとしゃべっている。うるさいしきついし、もうこの辺でやめようかなと五十分のプログラムの中で何度も思う。しかし見計らったかのようなタイミングでビリーは、
「この世には二種類の人間がいる。最後までやるやつと、途中でやめるやつだ」
 とか言ってきたりする。
 すると不思議なもので、もう少し頑張ってみようかなという気持ちになる。 
 そんな調子で数日ビリーのキャンプを続けていたら、体にある異変が起こった。風呂上がりに鏡を見たら、腹筋が軽く割れかけていたのだ。
 割れかけの腹筋――なんだか曲のタイトルのようじゃないか……と悦に入るはずもなく、
「き、きもちわるいな……」
 僕は自分の割れかけた腹を見てそう思った。
 僕は全然腹が割れてそうな外見をしていない。
 いかにも腹が割れてそうな外見(EX○LE等)をしているならともかく、全然腹が割れてなさそうな外見をしている人間の腹が割れていたらなんとなく気持ち悪いと思うのは僕だけだろうか?
 ところで唐突だけど、あと数時間で二十四歳になることに気がついた(掲載されているときにはなっているんだけど)。
 ――なんだって二十三歳最後の日に肥満少年や接吻カップルや割れかけの腹筋についての話をしなきゃならないんだ? なんだかすごく不条理な感じがする。
 そんなモヤモヤを抱えながら、六年前に買ってずっと愛用している緑のチャリンコで行き先もわからぬまま走り出す二十三の夜、たどり着く先は、たぶんマックだ。

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