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2015.09.06

第9回

サッカーの神様は誰に微笑むのか

岡田 仁志

サッカーの神様は誰に微笑むのか

 大会第4日。前日の時点では「10点」が目標となりそうなインド戦だったが、第1試合で中国とイランが0-0で引き分けたことで、決勝進出が得失点差の争いになる可能性はなくなった。その中国対イランは物議を醸す一戦となったが、それについてはのちほど触れることにしよう。

 第2試合でインドと対戦した日本は、韓国戦の終盤で今大会初出場を果たして良い動きを見せたベテラン佐々木康裕が初先発。ゴールこそなかったが、得意のドリブル・テクニックを披露し、惜しいシュートも放った。また、日本ベンチは試合終盤にGKを佐藤大介から安部尚哉に交代。今回は正GKの座を譲ったが、同時に代表入りした2009年のアジア選手権から2014年の世界選手権の前までは、佐藤とほぼ同じ数の試合に出場していた選手だ。残念ながら(?)インドは一本もシュートを撃てず、安部にGKとしての見せ場はなかったが、サポーターに元気な姿を見せてくれた。これで日本は、ベンチ入りした全メンバーが出場したことになる。

 試合は5-0で日本が圧勝。黒田の先制ゴールは前日の韓国戦で決めたのと似たような位置からのFKだったが、昨日が左足だったのに対して今日は右足と、芸域の広さを見せつけた。あとの4ゴールは、すべて川村怜。第2PK、コーナーキックからのドリブル、田中章仁からサイドチェンジのパスを受けて流れの中でのシュート、通常のPKと、こちらも野球でいえばサイクルヒットのような幅広さである。いつの間にか、「PK職人」のような風格を身につけていたことにも驚いた。ほかにも、インドGKのゴールスローがサイドフェンスを越えて魚住稿監督の足元に飛び込むというビックリ事件があったが(9年間ブラインドサッカーを見てるがあんなの初めて)、日本は予定どおりの2連勝である。

 

インドの守備網をこじ開けてシュートを撃つ川村怜。写真:増田茂樹

 

 第3試合は、韓国がマレーシアに予想外の苦戦を強いられた。インドもマレーシアも、大会で試合を重ねるごとに成長している。しかしマレーシアを褒めている場合ではない。日本がリオ行きを決めるためには、6日の第1試合で中国がインドに負けるか、第2試合で韓国がイランに引き分け以上の結果を出すことが求められる。その上で第3試合のマレーシア戦に勝てば、2位以内に入ることができるのだ。中国がインドに負けることはまず考えられないので、日本としては韓国に頑張ってほしい。ここでマレーシアに勝てば韓国にも2位以内の可能性が残るので、イラン戦も本気で戦ってくれるだろう。その「本気」は日本がマレーシアに負けることを前提にしているとはいえ、ここは勝ってもらわないと困る。終盤に14番キム・キュンホのファインゴールが決まり、1-0で韓国が勝利を収めたときには、スタンドで偵察していた日本の首脳陣も安堵の表情を浮かべていた。

 これで4試合終了時点の順位(カッコ内は勝ち点)は、1位(10)中国、2位イラン(8)、3位(7)日本、4位(6)韓国、5位(3)マレーシア、6位(0)インド。4位の韓国まで決勝進出の可能性のある大混戦となった。

 さて、中国対イランである。試合を見た人の大半が同意すると思うが、どちらもほとんど戦う姿勢を見せない、きわめて醜悪なゲームだった。中国の選手が自陣でうろうろとドリブルしながらボールキープを続け、イランも自陣で1-2-1の陣形を作ったままボールを取りに行こうとしない。計測したわけではないが、印象としては、前後半50分のうち合計で20分ぐらいはそんな時間帯があったのではなかろうか。双方ともたまには敵陣に入って攻撃をするけれど、シュートのほとんどはゴールマウスをとらえず、相手のGKを脅かすことがなかった。終盤には、味方が延々とドリブルしているあいだ、中国のGKがゴール前で右に左にジョギングのような動きを見せるシーンもあったぐらいだ。

 

自陣で無気力にボールキープを続ける中国チーム。写真:増田茂樹

 試合終了直前には、中国とイランの選手が形だけはフェンス際でボールを奪い合いながら、苦笑を浮かべていた。両チームの選手が協力し合って時間稼ぎをするシーンを見たのは初めてだ。タイムアップを告げるホイッスルが鳴ると、双方の選手たちが「よしよし」と言わんばかりに拍手をし、親善試合のごとき和やかなムードで抱き合った。ブーイングを浴びせるスタンドにも、少しも悪びれることなく、にこやかに手を振ってみせる。静かに観戦しなければいけないから試合中はなかったが、そうでなければ50分間ずっとブーイングの嵐だったに違いない。

 中国は、勝てばリオ行きが決まる一戦だった。イランは引き分けると翌日の韓国戦が「必勝」になってしまう。にもかかわらず、両チームとも「負けない」ことを選んだ。アジアのトップクラスのブラインドサッカーを堪能するためにチケットを購入した観客は、あまりの退屈な展開に、バカにされた気分になったことだろう。主催者だって、あんな試合を見せるために特設スタンドを建てたつもりはないはずだ。初めての観戦であれに出会ってしまった人には、ブラインドサッカーがいつもあんなものだと思ってもらっては困る。あんな試合は、私も初めて見た。

 技術的なレベルは低くとも、両チームが全力でサッカーをした2日目のマレーシア対インドのほうが、圧倒的に見る価値のある試合だった。アジア選手権という晴れ舞台で「いいところを見せたい」「シュートを撃ちたい」という意欲を漲らせて奮闘した彼らに、私は敬意を表する。ファイティング・スピリットは、今大会でもっともハイレベルだったかもしれない。本当に見ていて楽しい試合だった。

 もちろん、中国とイランの行為にルール違反はない。実際、審判はいっさい咎めなかった。プレーを続けているので「遅延行為」でイエローカードやレッドカードを出すのも難しい。試合後、会場にいた多くの人々の口から「あれは何か罰せられないのか」という言葉を聞いたが、ルールの範囲内で行われたことである以上、(事前に談合があった明確な証拠でもなければ)処罰の対象にはできないだろう。だが彼らが、スポーツやサッカーを愛する人々の尊敬を得ることはない。

 どちらの国の選手も、パラリンピック出場によって得るものは日本の選手と比較にならないほど大きいと聞く。ある意味では、そこに生活がかかっていると言ってもいいのかもしれない。だとすれば、あれも彼らの懸命な「戦い方」のうちなのだろう。しかしそこに生活がかかってるならば、なおさらブラインドサッカーを大切にする必要がある。2020年東京パラリンピックの競技選考でも、このサッカーが採用されるかどうかは微妙な状況だった。今後も、「面白くない」と判断されれば、いつ外されても不思議ではない。

 また、パラリンピックのアジア枠は現在2つだが、それも永遠に約束されたものではない。「レベルが低い」とか「素行が悪い」など、ネガティブな要素があれば減らされる可能性はあるだろう。彼らはああいう試合をしてでもパラリンピックに出場したいのだろうが、ああいう試合をしたがゆえに将来の出場チャンスを失うかもしれないのである。自分の首を絞めるようなことはしないほうがよい。ブラインドサッカーの選手は、すばらしいブラインドサッカーのゲームを見せる努力をすべきだ。

 今日9月6日、国立代々木競技場フットサルコートでは、リオデジャネイロ・パラリンピックに出場するアジア代表2ヵ国が決定する。中国はほぼ間違いなく2位以内に入ると思われるが、残る1枠はイラン、日本、韓国のいずれかだ。もしサッカーの神様がいるのなら、それに愛されたチームが選ばれるだろう。そして、もしサッカーの神様がいるのなら、サッカーを愛する人がたくさん集まる場所に現れるような気がする。

 イラン対韓国は17時30分、日本対マレーシアは19時30分キックオフ。同じチケットで両方を見ることができる。どちらも観戦して、勝たせたいほうのチームに念力と声援を送ってほしい。きっと、神様が微笑む瞬間を目撃できると思う。

◎大会4日目の試合結果
 中国 0-0 イラン
 日本 5-0 インド
 韓国 1-0 マレーシア


※ チケットのご購入はこちらで!→「アジア選手権2015チケットガイド

※ BSスカパー!の放送予定はこちらで!→ 「勝ち抜けろ! リオ・パラリンピックへの炎の最終予選 第1弾!
 

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