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2015.09.05

第8回

リオへの道を切り開いた完璧な初勝利

岡田 仁志

リオへの道を切り開いた完璧な初勝利

 日韓戦キックオフの2時間前、テレビ中継の打ち合わせの席で、コンビを組むアナウンサーに「今日のユニフォームはどちらですかね?」と聞かれた。資料を見ると、韓国は「Red」、日本は「White」。頭の中に、良いイメージが広がった。私にとって、「韓国戦の白」は好印象だ。0-1で敗れて北京行きを阻まれた2007年アジア選手権の韓国戦は「青」だった。2-1で勝った2009年と2011年の韓国戦は、どちらも「白」だった。2-0で勝った2013年の韓国戦は「青」だったようだが、私はその大会を現地(北京)で見ていない。白いユニフォームで劇的なゴールを決めた黒田智成と落合啓士の姿が、私の脳裏には焼きついている。生き残るためには勝ち点3が最低条件のシビれる試合だが、楽観的な気分で放送席に入ることができた。

 先発は、落合啓士、加藤健人、佐々木ロベルト泉、田中章仁、GK佐藤大介。前日のイラン戦に続いて、これも魚住稿監督の意図は明らかだった。「落合&加藤」のセットを、途中で「川村&黒田」のセットに入れ替える。8月中旬の練習試合で何度もくり返した起用法である。攻撃の爆発力を一気に高めて、相手のペースを攪乱するのがその狙いだ。

 特設スタンドには若干の空席があったものの、イラン戦よりは多い。熱烈な声援に迎えられた私たちの代表は、前の2試合とは違い、序盤からラインを上げて韓国を果敢に攻めた。ファーストシュートは、イラン戦で出番のなかった落合。力感あふれる強引な中央突破は、味方を勇気づけるキャプテンらしいプレーだった。

 予想どおり、日本は前半8分に落合と加藤を下げ、川村と黒田を同時に投入。2枚のアタッカーによる波状攻撃が、韓国の守備を混乱させた。前半14分、コーナーキックを得た日本は、ロベルトが相手の壁をブロックして作ったコースを川村がドリブルで攻め、韓国のファウルを誘う。ゴールまで10メートルの地点でのフリーキック。再びロベルトが相手の壁を抑えに入る。それによって生まれたスペースに黒田がドリブルで侵入し、左足を振り抜いた。

 そのとき黒田は「シュートがゴールキーパーに当たる音が聞こえた」という。しかしその直後、スタンドの大歓声が彼の耳に届いた。日本のエースが両手を高々と上げる。ガイドの藤井潤が電光石火のスピードでゴール裏から飛び出し、黒田に抱きつく。日本のファンが待ち望んでいた光景が、3戦目にしてようやく見られた。日本1-0韓国。脳裏に焼きつくゴールシーンが、またひとつ増えた。

 

先制ゴールを決めた黒田智成と、ガイドの藤井潤。 写真:増田茂樹

 だが日本には不安もあった。この試合の前半はファウルの基準が厳しく、早い時間帯から日本も韓国もチームファウルを重ねた。放送席のモニターには、納得いかない表情で首を振る魚住監督の姿も映し出されていた。韓国に第2PKを与えないことは、この試合の大きなテーマだ。

 前半22分、先に4つ目のファウルを取られたのは韓国。ロベルトのパワフルな第2PKは、惜しくも左ポストを叩いた。その2分後、ハーフタイムまで残り20秒を切ったところで、韓国の7番シン・ユンチョルに手を伸ばした加藤がファウルを取られる。このサッカーでは、手で触れて相手を確認するのがごくふつうのことだ。少なくとも私の目には、加藤が手で相手を止めたようには見えない。信じられないホイッスルだった。

 韓国の14番キム・キュンホが8メートルのペナルティ・スポットに立つ。8年前、第2PKを決めて日本の北京パラリンピック出場を阻止したのが彼だった。この前半終了間際に同点にされるのは、試合展開としては最悪だ。

 とはいえ私は、ここでも楽観していた。大会前、高田敏志GKコーチから「韓国の第2PK対策は完璧です」という頼もしい言葉を聞いていたからだ。合宿では、高田コーチが通常のPK(6メートル)よりも近い5メートルの距離からPKを蹴るなど、入念な練習を行っていた。高田コーチは、緊張感をほぐすための呼吸法も指導したという。かつて佐藤は「第2PKが苦手」という定評があったが、もうそんなことはない。「枠内に撃たれても、佐藤が止めます」。解説者席で、私はそう断言した。

 キムのキックはGKの正面近くに飛んだが、威力は強烈だった。以前の佐藤なら、両手を弾かれた可能性もある。しかし彼の両手はしっかりとボールをとらえ、外に弾き出した。1-0のままハーフタイム。8年前から日本がずっと引きずっていた「韓国の14番」というトラウマも、ここで払拭されたのではないだろうか。

 後半の日本はファウルも少なく、前半以上に安定したプレーを見せた。待望の追加点が入ったのは、後半10分。佐藤がフィールド中央に投げたゴールスローが、韓国選手たちをすり抜ける。前線の2人が両サイドに開く韓国の陣形に対して、試合前から狙っていたプレーだ。ボールは、ゴール前で待ち受ける川村の足下に正確に届いた。最後に股間を抜かれたのは、「韓国の14番」だった。

 2メートル×5メートルのGKエリアの手前。手を伸ばせば届く距離だが、GKはエリア内でシュートを待つしかない。反転した川村が右足を強く振り抜く。シュートはGKの脇の下を抜け、ゴール奥のポストを直撃した。はね返ってゴール内から飛び出たボールを、韓国GKが膝を抱えて見つめる。

 

追加点を決めた川村怜のシュート。これより前に出られないGKの守り方は、ブラインドサッカーならでは。写真:増田茂樹

 そのまま、日本2-0韓国で試合終了。日本が練習で積み重ねてきたものをすべて出し切ることでつかんだ、完璧な勝利だった。魚住JAPANの完成形がここにあったといってもいいだろう。

 もちろん、これで日本が何かを得たわけではない。だが、この大会初勝利でリオへの道は開かれた。前日の5位から、3位に浮上。2位イランとの勝ち点差は3。得失点差は、イラン+15、日本+1。5日のインド戦(17:30KO)と6日のマレーシア戦(19:30KO)では、大量得点が必要だ。イランはすでにインド戦とマレーシア戦を終えているので大差がついているが、十分に追撃可能。「スタンドの観客100人で1点」というぐらいの勢いで、国立代々木競技場フットサルコートへ足を運んでほしい。ゴールラッシュの週末を満員のスタンドで盛り立てよう。「総力戦」の真価が問われるのは、これからである。

◎大会3日目の試合結果
 中国 2-0 マレーシア
 イラン 10-0 インド
 日本 2-0 韓国


※ チケットのご購入はこちらで!→「アジア選手権2015チケットガイド

※ BSスカパー!の放送予定はこちらで!→ 「勝ち抜けろ! リオ・パラリンピックへの炎の最終予選 第1弾!」

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