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2015.09.04

第7回

スタンドの「シーッ」が選手を助ける

岡田 仁志

スタンドの「シーッ」が選手を助ける

 雨の国立代々木競技場フットサルコートは、残念ながら満員にはならなかった。だが、応援は数ではない。それを思い知らされる光景だった。悪天候にもかかわらず、盲目の日本代表チームの奮闘を後押しすべく集まった人々のハートで、特設スタンドは満タンになった。両手を挙げ、大声でニッポンコールをする人々の表情は、一様に楽しそうだった。

 

ハーフタイムに手を上げて声援を送るスタンドの観客。

 

 日本がゴール前でチャンスを迎えたときには、客席から「シーッ」という無声音も聞こえた。私は何年も前から、事あるごとにそれを呼びかけてきた。聴覚情報の大事なこのサッカーでは、チャンスやピンチのときほど静寂が求められるが、そういう場面ほど観客は思わず声を上げてしまう。それを避けるには、興奮する場面で自ら「シーッ」と言うのがいちばんだ。自分を抑えるのと同時に、周囲への注意喚起にもなる。この日のイラン戦では、応援リーダーがハーフタイムに静寂を促して以降、徐々に「シーッ」の輪が広がった。今後もこれがブラインドサッカーならではの所作として根づいてほしい。

  日本は、前日の中国戦とはスターティングメンバーを変えてきた。川村怜、佐々木ロベルト泉、加藤健人、田中章仁、GK佐藤大介。エース黒田智成はベンチスタートだ。スタメンが発表された時点で、日本ベンチの意図は明白だった。序盤は自陣で守りを固めてイランを前のめりにさせ、頃合いを見計らって黒田を投入。それと同時にラインを上げて、攻撃に人数をかける。代表のコーチだった時代から、魚住稿監督が好む戦法だ。予想どおり、日本ベンチは前半10分を過ぎたところで加藤に代えて黒田を入れ、ラインを上げさせた。

 この試合でもっともゴールに近づいたのは、その黒田だった。前半終了直前に得たコーナーキック。それまではドリブラーとボールを抑える選手の2人にCKを任せていた日本は、ここでロベルトをゴール前に上げる。敵の「壁」をブロックしてドリブルコースを作る「勝負手」のひとつだ。ロベルトはその役割を練習どおりに果たし、味方の切り開いた道を黒田がドリブルで突進する。ゴール前6メートルほぼ中央から左足で放たれたシュートは、完全にゴールマウス左端を捉えていた。だがイランのGKメイサム・ショジャエイヤンは197センチの長身に加えて、動きも俊敏だ。その長い右腕が、会心のシュートを弾き出した。前半は0-0。

 後半の日本も、攻守のメリハリをつけて戦った。選手たちの意思統一はほぼ完璧だった。引いて守るときのダイヤモンド陣形には、いささかの綻びもない。イランは盛んにサイドチェンジをして日本の守備を揺さぶったが、大きな脅威にはならなかった。むしろゴリゴリとドリブルで中央突破を図られたほうが、日本としてはイヤだっただろう。ゴールライン近くの角度のない位置から撃たれるシュートは、GK佐藤が難なくキャッチした。イラン攻撃陣は、雨で濡れたピッチにも苦しんでいるように見えた。長い脚を活かしたシュートがジャストミートしない。

 

イランのコーナーキックを待ち受けて耳を澄ます日本選手たち。手前から、田中、佐々木ロベルト、加藤、川村。

 日本は攻撃の形もイメージどおりに作ることができた。黒田と川村が、たびたびドリブルでゴール前に迫る。ふだんはボールを持つと味方に預けて守備に専念するロベルトが、自ら果敢にドリブルでゴール前まで豪快に突進するシーンもあった。しかし、なかなか前を向いてシュートを撃たせてもらえない。イランの守備もすばらしく集中していた。どちらも勝ち点3を求めた攻防は、スコアレスドロー。日本にとって良い結果とは言えないが、イランから2つの勝ち点を奪ったと見ることもできる。

 2010年のアジアパラ競技大会、ロンドン行きを阻まれた2011年のアジア選手権、2014年のアジアパラ競技大会と、日本はイランに3戦連続で0-2の敗北を喫した。その相手を危なげなく完封したのは、成長の証だ。試合後、DFとして獅子奮迅の活躍をした田中章仁も、「自分たちの守備がうまくいったので、去年のイラン戦と比べると怖さはなかった」と語った。

 それにしても田中の守備は凄まじかった。小さな体をイラン選手にしっかりと寄せてサイドフェンスに追い込む。常にボールとゴールを結ぶ線上にポジションを取り、シュートを体の真ん中でブロックする。中国戦もそうだったが、このイラン戦でも、体を張って失点を防いだ後、痛みでうずくまるシーンが何度かあった。前半には、いったんベンチに下がって山口修一に同じ仕事を任せている。しかし試合後に「大丈夫?」と聞くと、「あれが仕事ですから」と笑顔を見せた。彼がいるかぎり、日本は残り3戦も無失点で行ける。

 あとはゴールだ。自力での決勝進出=リオ行きがなくなり、最後は得失点差の争いになる可能性も高まってきた。まずは4日の韓国戦で早い時間帯に得点がほしい。韓国守備陣も3日の中国戦を1失点で終えており、決して楽な相手ではない。しかし、中国とイランの強固なディフェンスを経験した日本の攻撃陣は、「鉄ゲタ」を脱いだような状態だろう。ゴールが決まれば、観客はどんな大声を上げてもいい。「シーッ」と耐えるだけでなく、歓喜を爆発させる場面が何度もあるはずだ。ブラインドサッカーの観客にしか経験できない醍醐味が、代々木競技場であなたを待っている。

◎大会2日目の試合結果
 マレーシア 1-0 インド
 中国 1-0 韓国
 イラン 0-0 日本

 

※ チケットのご購入はこちらで!→「アジア選手権2015チケットガイド
※ BSスカパー!の放送予定はこちらで!→ 「
勝ち抜けろ! リオ・パラリンピックへの炎の最終予選 第1弾!」

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