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2015.09.03

第6回

美しい満員のスタンドをイラン戦でも

岡田 仁志

美しい満員のスタンドをイラン戦でも

 初戦のチケットが完売したことは、BSスカパー!の生中継(※1)が始まってから放送席で知った。9月2日に開幕したブラインドサッカーアジア選手権の第3試合、日本対中国。ベンチリポーターの女性が、それを伝えてくれた。後で聞いたところ、キックオフの約25分前に、朝の時点で270枚ほど残っていた当日券が売り切れたようだ。

 放送席はベンチ裏にあるので、正面と両ゴール裏のスタンドが一望できる。応援リーダーの求めに応じた観客全員がつないだ手を上げて声援を送ったシーンを、解説を務める私は特等席で見せてもらった。あの息を呑むような美しさを、どうすれば選手たちに言葉で伝えられるだろう。いや、私なんかが言葉にする必要はない。そこから生じるあたたかい空気は、きっと伝わったはずだ。見えないけど、見える。それだけの鋭敏なセンサーがなければ、いまの日本代表が見せる緻密な連携プレーはできない。

 

キックオフ前で「君が代」を歌う日本選手たち。左から、ガイドの藤井潤、田中章仁、佐々木ロベルト泉、黒田智成、川村怜、GK佐藤大介。 写真:増田茂樹

 前半の日本は、4年間かけて丹念に織り上げてきたその組織力を十分に発揮した。4人が1-2-1のダイヤモンド型に並び、その陣形を保ったまま、敵のドリブラーの揺さぶりに合わせて左右にスライドするディフェンス。世界最高レベルのドリブルテクニックを持つ中国のアタッカー陣といえども、なかなかゴール前には侵入できない。ときおり鋭いシュートは撃たれたが、そのコースには必ずといっていいほど最後方の田中章仁が立ちはだかっていた。危うい場面もいくつかあったが、GK佐藤大介が気迫のこもったファインセーブでチームを救う。

 0-0でハーフタイム。ここまでは、魚住監督の描いたゲームプランどおりだっただろうと思う。世界有数の攻撃陣を揃える中国相手に、最初から攻撃のスイッチを入れるわけにはいかない。じっくり守って無失点でしのぎ、後半で勝負をかける。初戦は引き分けでもかまわない。結果を求めるこの大会では、最低限の勝ち点を得るのがリアルな戦い方だ。

 中国は昨年10月のアジアパラ競技大会で、イランに初黒星を喫している。日本と同様、体格の大きな相手はやや苦手だ。したがって、おそらくこの日本戦は「必勝」の構えで臨んでいただろう。後半早々から、勝負をかけてきた。前半は2人のアタッカーが敵陣に攻め上がったが、後半は3人。後半7分のコーナーキック(CK)では、4人のフィールドプレーヤー全員を日本ゴール前に集結させた。ボールキープ力に絶対の自信があるからこそ選択できるハイリスクなやり方である。

 中国は、その4人のうち2人を、日本が4人で作る「壁」の前に立たせた。日本選手の動きをブロックして味方のドリブルコースを作るスクリーン・プレーだ。中国がこれをやってくることを、日本はあらかじめ想定していた。直前合宿では、相手のブロックをかいくぐって守る練習を何度もくり返し行っている。前半にあった中国のFKの場面では、それがうまく機能していた。

 だがそのCKでは、11番のワン・ヤーフェンを追おうとした川村怜が相手のブロックに行く手を阻まれた。黒田智成も、やや対応が遅れる。右45度から放たれたシュートは、ゴール左隅に吸い込まれた。0-1。こうなると、日本は攻撃のスイッチを入れざるを得ない。

 

後半7分、CKからゴールを決めてガッツポーズを見せる中国のワン・ヤーフェン。 写真:増田茂樹

 だが中国は、まだ試合時間が15分以上も残っている段階で、時間稼ぎを始めた。攻め込む姿勢を見せず、自陣で延々とボールキープ。彼らのいつものやり方だ。ボール奪取に失敗すれば、手薄になったゴール前がたちまちピンチを迎えるので、迂闊に前には出られない。しかし手をこまねいて放置すれば、時計はどんどん進んでしまう。きわめて難しい判断の迫られる状況になった。

 だが、点を取りに行くしかない。魚住監督は、明確に攻撃のスイッチを入れた。守備で奮闘していた佐々木ロベルト泉に代えて、加藤健人を投入。川村、黒田、加藤の3人を同時に使うのは、いまの日本でもっとも攻撃的な布陣だ。

 そこから日本は、昨年の世界選手権後から取り組んできた新しい攻撃の形を見せた。ダイヤモンド陣形をそのまま敵陣まで上げ、波状攻撃を仕掛ける。サイドをドリブルで攻め、後ろでフォローする味方にパスを出し、逆サイドに展開。そちらで再びダイヤモンドを作り、バックパスから逆サイドへの展開……それをくり返して敵を揺さぶる戦法だ。加藤がドリブルで積極的に斬り込むことで、日本は中国の守備網を脅かし始めた。これまでの中国戦では、見たことのない風景だった。

 しかし、ゴールは遠い。見事な切り返しで中国の4枚ディフェンスを振り切った川村のシュートもやや当たりが弱く、GKに抑えられた。0-1のままタイムアップ。放送席のモニターには、地面を叩いて悔しがる黒田の姿が映っていた。

 黒星スタートが痛くないといえば嘘になる。だが、下を向くような試合ではなかった。サッカーらしい駆け引きのある、中身の濃い「勝負」を見せてもらった。おそらく世界のブラインドサッカー関係者が、この試合には強い関心を抱くに違いない。守備面でも攻撃面でも、日本はこのサッカーの新しい可能性を切り開こうとしている。そして選手たちは、自分たちがやってきたことが間違っていないという手応えを得たはずだ。

 中国とは7日の決勝で再戦して、借りを返せばよい。そのためにも、続くイランをしっかりと叩くことだ。3日19時30分からの試合は、まさに天下分け目の「ブラインドサッカー版ジョホールバル」になる。当日券はまだ残っているはずだ(※2)。再びスタンドを満員の観衆で埋め尽くし、選手たちを美しくサポートしてもらいたい。

◎大会1日目の試合結果
 韓国 6-0 インド
 イラン 5-0 マレーシア
 中国 1-0 日本


※1 BSスカパー!の放送予定はこちらで!→ 「勝ち抜けろ! リオ・パラリンピックへの炎の最終予選 第1弾!」

※2 チケットのご購入はこちらで!→「
アジア選手権2015チケットガイド

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