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2015.09.22

惜しみなく描かれる
男がモテるための最新理論

羽田 圭介

惜しみなく描かれる<br />男がモテるための最新理論

ぼくは愛を証明しようと思う。』藤沢数希
幻冬舎刊/1400円(税別)

 

「この東京の街は、僕たちのでっかいソープランドみたいなもんですね」

「ああ無料のな」

 東京の街を見下ろしながら乾杯をする男二人の、信じられないような会話で物語は始まる。

〈恋愛工学。/金融や広告など様々な分野が数理モデルに従って動いている。かつては文系人間たちのガッツで回っていたこうした業界は、いまや複雑なアルゴリズムを操るオタクたちが牛耳っている〉〈最後にはいつだってテクノロジーが勝利する〉

 青木国際特許事務所に勤める主人公、渡辺正樹は二六歳の弁理士で、結婚まで考えていた恋人の麻衣子に手ひどくふられる。失意の中、友人と六本木ヒルズにあるバーで飲んでいると、突然現れた男がモデルのような美女三人と話し始め、一五分足らずで一番の美女とキスし連絡先まで交換する。やがてその男が、仕事のクライアントの永沢だと気づく。渡辺は後日、モテるためのテクニックを伝授してもらうために、プライベートで永沢に接触する。非モテコミット、フレンドシップ戦略、友だちフォルダ……本文中に太字で書かれる謎の単語を織り交ぜながら、永沢は渡辺が抱いていた恋愛観を崩し、〈恋愛工学〉に基づいた〈正しい方法論〉を伝授する。

「恋愛も、勉強や仕事といっしょだ。効率よくやるべきものなんだ。最小限の努力で最大限の成果を得る。生産性が大切ってことだよ」

 モテ技があまり発揮されない第1章までの、紋切り型の小説表現は全部カットした方がいい。それらの部分にストレスまで感じたのは、僕が「冗長な説明はいいから早くモテる方法教えろ!」という気持ちで急いていたからだろう。第2章から、「週末の街コン→ストナン→クラナンのサーキットで、一日で50人以上の女にアタックする」という、永沢に助けられての渡辺の修行が始まる。要はひたすら女に声をかけナンパの精度も上げてゆくという、やることはかなり体育会系かつ求道的なものだ。モテを期待して本書を買った読者のうち半数以上は、その過酷さに脱落するだろう。

 高校生の頃僕はモテ修行として、紀伊國屋書店新宿本店の場所を道行く女性たちに聞きまくったことがある。親切心につけこみ申し訳ないという自覚はありつつも、一人親切に教えてくれる度に、世界が開けてゆく感覚があり、嬉しかった。他にも、二〇歳を過ぎた頃、友人とナンパ目的で学園祭をウロついては「あの子はたぶん未成年じゃない? 逮捕怖いし」等々、ビビって声をかけられないことの言い訳を繰り返し、やけ酒を飲み寝たこともある。モテる男友達を作りその人を真似るといい、という論を聞けば、新宿でホストの一人と仲良くなり、埼玉の彼の自宅まで行き段ボールと陰毛だらけの空間で色々と語り一晩過ごしたがなにも変わらなかった。

 渡辺がモテるようになってゆく過程はそれなりに説得力があり、気づけば応援している。いっぽう、モテ伝道者の永沢がモテることの説得力が、不思議と薄れてゆく。たとえ永沢が披露する実践的なモテ技や女との会話等が、作者が現実に見聞きしたことをそのまま書いたのだとしても、プレイヤーの外見や仕草、声色など「非言語的」要素が大きいだろうし、それが小説の描写で表現されていないから説得力がなく、トンデモな感じになっていて笑える。全体的に、本書にはモテるための理論がたくさん詰め込まれているいっぽう、理論化や言語化しづらい重要な要素には、ほとんど言及していない。

 それでも、会ったこともない、素性の知れない人が書いた本作が信頼できるのは、共感できるシーンがあるからだ。作家デビューして一二年経つ僕には、自分が信じられない風景を見て、とんでもない体験をしているなと思うときがふと訪れる。しかし、当事者になってみると、もの凄く努力してそれを成し得たわけではなくて、地味な行動と結果という因果関係のシンプルさに気づかされる。その地点にいない人の立場からだと、それは解き明かせない難攻不落ななにかでしかなかったりする。“当事者”“できる人”の観点でなにかをやることの必要性はたしかにあって、それが恋愛工学にだけあてはまらないということはないだろう。

 最後に、僕が最も好きな文章を引用する。第2章でのストリートナンパ修行中、渡辺は道行く女たちから邪険に扱われたり、無視されたりする。しかし渡辺は、あることに気づく。

〈無視されるのはかっこ悪かったが、それでも僕は何も失っていない、という当たり前のことを認識した〉

 本を閉じて違う世界に接続したくなる本というのは、良い本だと思っている。だから、モテるために街へ出たくなってくるこの本は、良い本だ。

『パピルス』2015年9月号より

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