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2015.09.01

第5回

彼らの「君が代」にあなたは何を感じるだろう

岡田 仁志

彼らの「君が代」にあなたは何を感じるだろう

 明日、ついに決戦の火蓋が切られる。9月2日から7日まで、国立代々木競技場フットサルコートで開催されるブラインドサッカーアジア選手権2015。8月26日から合宿に入った日本代表チームは、2日の初戦で当たる中国対策に練習時間の多くを割いてきた。昨年の世界選手権を見た人は、中国の強さをよくご存じだろう。ブラジルと準決勝で死闘を演じ、世界王者をあわやのところまで追い詰めたチームだ。

 しかし実は、あのときの中国代表は万全のメンバーではなかった。エース級のアタッカーが、2人も故障で離脱していたのだ。そのうちの1人は5月の国際大会で代表に復帰。日本は彼に2ゴールを決められて2-2で引き分け、惜しくも対中国初勝利を逃した。さらに今回のアジア選手権では、もう1人のストライカーも復帰する予定だ。日本代表は現在のチームが史上最強だが、中国の破壊力も過去最大級だと思われる。

 それを跳ね返すには、スタンドの観客も含めた「総力戦」の強度を最大限に高めなければならぬ。1人でも多くの方々に、代々木まで足を運んでいただきたい(※1)。どうしても、どうしても、どーーーーしても会場に来られない人は、BSスカパー!の生中継(※2)を見ながら会場に念力を送ってください。2日の中国戦と6日のマレーシア戦は無料放送だ。中国戦、韓国戦、決勝戦は、私が解説いたします。

 それにしても、と、開幕を直前にして思う。

 9年前に取材を始めたときは、ブラインドサッカーがこんなことになるとは想像もしていなかった。「こんなこと」というのは、特設スタンドを建てて有料の国際大会を開催したり、テレビで試合が生中継されたり(自分がその解説者席に座ったり)、監督や選手の記者会見に何十人ものメディアが殺到したり、といったことだ。信じられないほど華やかである。なにしろ私が最初に見た日本代表の試合は、サイドフェンスさえなかった。タッチライン際に並んだボランティアたちが口々に「カベ! カベ!」と連呼しながら、来たボールを蹴り返していた。

 とはいえ、現在も日常的な練習環境は昔と大差ない。代表チームの環境は飛躍的に向上したけれど、サイドフェンスを使って本格的な練習をできる機会は限られている。テニスでいえば、ふだんは「ネットなし」での練習を強いられているようなものだ。それどころか、肝心のボールが使えなくなることさえある。金属製の音源を仕込んだ特殊な専用ボールは、ふつうのサッカーボールよりもはるかに壊れやすい。現代の日本に「道具」で苦労させられるサッカー選手はあまり多くないだろう。

 しかしそれでも――いや、プレー環境が厳しいからこそ、ブラインドサッカーの選手たちはピッチでものすごく楽しそうだ。「サッカーをプレーできることのありがたみ」が、全身から湯気のように発散している。

 私は、彼らのそんな姿がいちばん好きだ。それが見たくて、取材を続けているような気がする。いまどき、サッカーに対する飢餓感を漂わせる者などほとんど見かけない。少年少女からプロにいたるまで、自分がそこでサッカーをプレーできることを当たり前だと思っていることだろう。無論、それはたしかに当たり前のことなのだ。サッカーぐらい当たり前にできない国でどうする。でも、そうじゃない人たちが、そこにいるのだった。

 スポーツに限らず、多くの人にとって当たり前のことが、障害者にとっては当たり前ではない。残念ながら世の中はそういうふうにできている。さまざまな福祉政策はあるものの、国力に見合った十分なものと言えるかどうかは疑問だ。

 たとえば駅のホームドアの整備はなかなか進まず、白杖使用者への周囲の配慮も足りないため、線路に転落する視覚障害者は後を絶たない。報道されるのは人身事故になったケースだけだが、線路から這い上がった経験のあるブラインドサッカー選手を私は何人も知っている。黄色い点状ブロックも、せっかく整備されているのに、しばしば障害物があって役に立たない。その上に立ちふさがって選挙演説をし、福祉の充実を全力で訴える候補者もいるそうだから、ほとんどギャグの世界だ。もし私が視覚障害者だったら、毎日毎日「こんな国! こんな国!」と呪詛の言葉ばかり吐き散らかしているだろう。障害がなくたって、いつも文句ばかり言っているのだ。

 だが私は、ブラインドサッカーの国際試合でキックオフ前のセレモニーに立ち会うたびに、文句の多い自分を反省する。そうさせるのは、選手たちの歌う「君が代」だ。

 あれほど真摯に歌われる国歌を、私はほかで聴いたことがない。ピッチに整列した選手たちも、ベンチで控える選手たちも、いつだって彼らの「君が代」は本気だ。そこに込められた気持ちは、選手によってそれぞれだろう。日の丸を背負って世界を目指せることの喜び。思い切り自由にプレーできることへの感謝の気持ち。オレたちだってサッカーの日本代表なんだぜ、という意地。選手たちに聞いたことはないけれど、勝手にそんなものを感じて、聴くたびに必ず泣きそうになる。

 明日から、アジアを乗り越えてリオデジャネイロへ旅立つための激闘が始まる。切符はたった2枚。日本という国を代表して、死に物狂いで戦う彼らの「君が代」を、あなたはどんなふうに聴くだろうか。何を感じてもいい。とにかく1人でも多くの人々に、会場でそれを聴いてもらいたいと思っている。
 

※1 チケットのご購入はこちらで!→「アジア選手権2015チケットガイド
※2 BSスカパー!の放送予定はこちらで!→ 「
勝ち抜けろ! リオ・パラリンピックへの炎の最終予選 第1弾!

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