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2013.11.12

連載エッセイ15

強かったり弱かったり

角田 光代

強かったり弱かったり

 風邪をひかない。

 今年の夏に一度、鼻の奥がカピカピしたことがあって、「ああっ、このなつかしい感覚は、風邪だ!」と思い、仕事との兼ね合いをどうしようか悩みつつ、くるならこいと待っていたのだが、一日鼻の奥がカピカピしていただけで、熱も出ず、だるくもならず、なおってしまった。いや、風邪になっていないのだから、なおるというのもへんか。

 最後に風邪をひいたのはいつだったか思い出せない。けれどたしかそのことをエッセイに書いたので、さがせば、だいたいいつくらいのことかわかる。どのくらい風邪と縁がないのか知りたくなって、パソコンに保存してある過去原稿をさがしてみた。

 六年前だった。

 なぜこのときのことをエッセイに書いたかというと、不思議な体験をしたからだ。薬局のレジ列に並んでいるときのことだ。わきの棚に置いてある風邪薬に、目が自然と吸い寄せられる。見るつもりもないのに、気づくとそのパッケージを凝視し、文字を熟読している。薬局を出てその薬のことなどすぐに忘れたのだが、数日後、突如風邪をひき三十八度の熱で寝込んだ。あの風邪薬を思い出し、あれは無意識の予知ではなかったのかと思った。私たちのだれしもが、そんな原始的な予知能力を持っているのではないかと思ったのだ。

 その風邪が最後で、それ以来、ひいていない。私はこの、「ひかない」ということについて、ときおり考える。なぜ風邪をひかないのか。

 健康体は健康体ということなのだろうけれど、ずーっとこのような状態なわけではない。脳貧血で倒れてばかりの時期もあれば、熱ばかり出している時期もあった。

 ノロウィルスならぬロタウィルスにかかったこともある。立てないくらいおなかが痛くなってのたうちまわり、猛烈な吐き気に見舞われ、熱もあり、なのに震えるほど寒い。タクシーで病院にいくや、点滴を打たれ、ロタウィルスに感染しているという説明を受けた。ロタは、ノロと違って、おもに乳幼児やお年寄りといった、免疫力の弱い年齢層がかかり、重症化するという。よほど免疫力が落ちているのね、とお医者さんに言われたけれど、免疫力というものは睡眠不足などと違って自覚できるものでもない。入院しますかと訊かれたが、財布しか持っていなかったので断って、点滴後に帰った。

 これはいつだっけ、とまたしても気になる。エッセイには書いていないが、この当時書いていた日記には書いてあるはず、と調べると、これは七年前。俄然興味が出てきて、この時期の日記を調べると、おお、発熱、あるある、風邪ひいた、あるある、インフルエンザかと思ったが違った、あるある、一年に二、三度は寝込んでいる。

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