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2015.09.05

第2回 日本の音楽には同じような言葉ばかりが氾濫している

小出 祐介/中村 淳彦

第2回 日本の音楽には同じような言葉ばかりが氾濫している<br />

第1回では、いろいろな境遇の人に届く歌を作りたいと話をされたBase Ball Bearの小出祐介さん。その想像力の視座を獲得したいと思い、中村淳彦さんの『名前のない女たち』シリーズを手に取られたようです。小出さんが幅広いリスナーを意識する理由は、息苦しかったご自身の中高時代にあるようです。(構成:漆原直行)

 

友達がまったくいなかった中高時代

中村 小出さんは10代の頃からBase Ball Bearを続けているわけですけど、すごい活躍ですよね。いま何歳ですか?

中高時代は周りから“異物”扱いされていたという小出さん

小出 今年、31です。

中村 高校の文化祭で組んだバンドがBase Ball Bearですよね。しかもメンバーチェンジなしに継続するって、どれだけ奇跡かと驚きました。僕も高校は軽音楽部、大学はフォークソング部だったのでバンドのニュアンスはよくわかるけど、関根史織さん(Base BallBearのベーシスト)みたいな才能のある人を中学時代から発掘しているのも奇跡的だし、逆にいえば、誰でもクラスメイトをちゃんと見まわせばBase Ball Bearになれるかもしれない、という夢も感じた。

小出 あー、まあそうかもしれません。まわりの人材には恵まれたというか、我ながら素晴らしい人材発掘力というか(笑)。

AV界では浮いていたという中村さん

中村 バンドは、いつから始められたのですか?

小出 中学からです。ただ、いちばん最初に結成したバンドは中学3年のときに解散してしまい、高校でまた結成し直すことになったんです。ギターの湯浅(将平。Base Ball Bearのギタリスト)は、最初に組んだバンドから一緒だったので、そのまま継続した形。あと、ベースとドラムが必要だったので、湯浅の水泳部の後輩だった関根を引き入れて、堀之内(大介。Base Ball Bearのドラマー)は友達のバンドにいたんですけど、そのバンドを乗っ取る形でスカウトしました。

中村 Base Ball Bearには私立中高で育った者の温室的な近親感がある。湯浅さんみたいな育ちがいいのに危かしい、なにを考えているかわからないみたいな人が、高校1年くらいまでにバンドとか美術に走る。湯浅さんを押さえるのは想定内だけど、やっぱり学年と性別が違う関根さんを発掘することに、運も含めた普通じゃない能力を感じる。関根さんは当初、ベースに関してはまったくの未経験だったとか。

小出 そうなんです。最初はキーボードとして参加してもらうつもりだったんですけど、これから自分がやろうとしているバンドに鍵盤はいなくてもいいやと思ったんで、それよりもベースだと。それで、バンド経験者の親父に相談したら「鍵盤が弾ける人はベースもできるよ」というわけのわからないアドバイスをされて(笑)。それを真に受けて、関根にはベーシストに転向してもらうことにしました(笑)。

中村 学生時代に組んだバンドの多くは、受験や就職をきっかけに自然消滅とか、解散するのが普通です。そして、みんな尖っていた十代の初心を忘れ、普通のサラリーマンみたいになっていく。31歳だったら「あの頃は楽しかったな」なんて居酒屋で昔話をしている時期ですよ。担当楽器未経験者もいる高校で結成したバンドを今日まで続けて、あのクオリティーで武道館や野音に立つ小出さんはすごいとしかいいようがない。高校野球で例えれば甲子園で優勝か準優勝してプロに入団し、今は1軍3番バッターみたいな領域だよなぁ。

小出 運が良かったんだと思いますよ。湯浅はとにかく無口な男なので、僕のやることには基本、口出ししない。関根も同じ学校の1学年後輩だから、先輩の僕の言うことは聞いてくれる。ドラムの堀之内は、彼がやっていたバンドの他のメンバーを僕がクビにしてこのバンドの土台にしたので、むしろオリジナルメンバー。結局、自分がコントロールしやすい人を集めたら、いまのような形になったという感じですかね(笑)。あと、友達がまったくいない僕みたいな人間と、偏見なく付き合ってくれたのはこの3人くらいだった。

中村 えー、小出さんが他のクラスメイトからは偏見を持たれていたんですか? 才能がある人は、普通そうならないですよね。少々変わっていても、一目置かれますよ。

小出 う~ん、実際に周囲の連中がどう思っていたかはわかりませんが、偏見はあったんじゃないかと思います。中高一貫校に通っていたんですけど、中学1年のときにハブられて友達がひとりもいなくなって。それから在学中の6年間、「小出はイヤな奴」「小出はハブられてた」みたいな通奏低音があったと思いますね。

中村 才能がありすぎたってことかなぁ。たぶん、似たような環境だろう自分が通った中高だったら、小出さんは派手系クラスヒエラルキー上位とか優等生系からは一目置かれて、絶賛されていますよ。間違いない。

小出 いやいやいや、完全に浮いていましたよ(笑)。周りからしたら異物感があったかもわからないですよね。同調が大嫌いなので、クラスの行事にも乗れないし、乗ろうともしない。かといって、グレていたり、不良だったわけでもなく、「一人でいい」と思ってしまうタイプだったから、どんどん孤立していきましたね。

 

狭い世界の序列に一喜一憂するのはバカバカしい

中村 世の中とか社会を見つめる視点とか、そこと接触するスタンスっていうのは年齢関係なく、変わらないもの。同調嫌いなのは僕も同じなのでよくわかる。けど、“異物”になるほど、マジョリティと距離を置くことに不安はなかったですか?

小出 ありましたよ。周りと同調できない自分の性格が悪いんじゃないかと悩んだりもしました。でも、どう考えても無理して他人に合わせるのは嫌だし、かといって学校に行かなくなるのもいじめに屈服したみたいで嫌。だから、クラス全体から無視されようが、上履きが下駄箱から放り投げられていようが、僕の机だけみんなとは反対の向きに置かれていようが、学校には通い続けましたね。

中村 えー、イジメられていたんですか。小出さんの音楽からは、想像もできないような過去ですね。同級生たちの僻み? 名曲「ホワイトワイライト」は高校時代に作ったって言っているけど、普通の凡人にはひっくり返ってもできないことですよ。才能がない人はイジメるくらいしか、矛先がないみたいな。

小出 でも、高校3年のときに、そうした学校生活での不安がすべて、怒りに変わりました。

中村 というと?

小出 学校以外の場で自分が評価されるようになったことが大きいです。当時、初めてデモテープを作って、東芝EMI(現ユニバーサルミュージック)に送りました。それがきっかけで、ディレクター(加茂啓太郎氏)の目に留まり、活動をバックアップしてもらえるようになって、下北沢のライブハウスでライブをやるようになりました。

中村 高校時代にテープを送って、それがメジャーの目に留まったと。すごい。青山学院高校の“異物中の異物”だった高校生の尾崎豊がCBSソニーに見いだされたエピソードと重なりますね。

小出 全然そんな大層なものじゃないですけどね(笑)。でも、学校の外の世界では、共演した自分たちよりも年上のバンドマンや、レコード会社のスタッフの方々が「かっこいいね」「面白いね」って言ってくれて。いままでは学校が自分の世界のすべてだったけど、外に出たらこんなにも自分のことを評価してくれる人がいる。そうなると急に、学校っていう世界がめちゃくちゃバカらしく思えてきて。そこで、不安や苦悩がすべて、周囲に対する怒りや憎悪に転じましたね。「僕は間違っていなかったじゃないか!」と。

中村 昨日、中学高校時代のイジメが原因で、自傷の延長でソープ嬢になった人を取材したけど、学校に行かない、関係性を断ち切る、環境を変えることが自分には必要だったって言ってました。ライブハウスに行けば、技術と才能だけの世界だもんね。

小出 スクールカーストみたいな狭い世界の序列に一喜一憂するのが、本当にバカバカしくなりました。こんなつまらないポジション争い、なんて無意味なんだろうと。「何やってんだコイツら」って思って、自分がそんなことに5年間も悩んでいたことを後悔しました。それが高校3年のときです。

中村 デモテープ1本で生き方が変わっただけでなく、狭い社会のくだらなさにも気づいたわけですね。狭い村の中のカーストに縛られるって、学校だけじゃなくてどこの世界にもある。本当にバカバカしいし、悩むことじゃない。違和感を察したら、逃げて環境を変えるだけで、なにもかもが変わったりするのに。

小出 そうですね。でも、単純にラッキーだっただけ、とも思います。人生、何があるかわからないものです。

中村 そうか。Base Ball Bearの楽曲は、学生時代に孤立した体験が原点になっているのか。そのときの心境が「あらゆるレンジの人に自分の音楽を届けたい」という姿勢に影響しているわけですね。

小出 していると思います。僕は暴力をふるわれるようなハッキリとしたいじめを受けていたわけじゃないし、自意識過剰だっただけかもしれないけど、内的にせよ外的にせよ、見えないプレッシャーとはずっと戦っていて。でも、そこから逃げたっていいんですよ。学校の外には、自分のことを認めてくれる人がきっといる。閉じられた集団の中でのポジション争いみたいなくだらないことに、無理に参加しなくてもいいんです。そういったことに悩んでいる人たちに届く曲を書きたい──そう思ってつくったのが「十七歳」というアルバムです。

 

明るいだけの歌詞では絶対に響かない

中村 「十七歳」は爽やかで、甘酢っぽくて、夢や希望があって、富裕で、上流でってアルバムですよね。あれは自身の体験を描写したのではなくて、暗い学生生活から生まれたのですね。「十七歳」を生みだした小出さんが、どうして弱者や底辺を意識するのか、その理由がわからなかったけど、合点がつきました。

小出 そうですね。ただ暗い曲をつくって、暗い状況にいる人に届けても、さらに落ち込んじゃうと思うんですよ。自分の曲が救済の光までにはならなくても、深淵を旅するための懐中電灯くらいにはなってほしいと思うので。「諦めないで」とか「未来に向かって」とか「明日があるから」とか、明るい曲調に明るいだけの歌詞を入れても、絶対響かないと思います。

中村 J-POPではありがちポエムね。音楽だけじゃないけど、ポエムのなにが問題かって実態がどこにもないこと。商業的な匂いしかしない。

小出 なんで、みんな同じようなことを歌詞で言っているのかな、と感じます。「ぜんぜん僕のことを歌ってくれない」と感じている人も多いと思うんですけどね。実際、僕もそう感じていたし。

中村 音楽業界のことはわからないけど、上辺だけの美辞麗句のほうが売れるからでしょ。自分の頭で考えなくていいので仕事が楽だし。簡単な言葉ほど、ターゲットが広がる。ただ、美辞麗句は行き詰まった職場とか産業とかで浸透する傾向がある。そうなると、そういう歌詞が氾濫するのは、ポップスのリスナーである若い人を軸にした社会が行き詰まっているから、ともいえる。

小出 高校生のときに聴いて、すごく心に響いた曲があるんです。中村一義さんの「キャノンボール」という曲。「僕は死ぬように生きていたくはない」というフレーズが繰り返されるのですが、当時の僕の心境とすごく重なって、本当に大切な曲になりました。中村さんのおっしゃる通り、テンプレ的な言葉は間口を広げるための“記号”なんですよ。もちろんそれも使い方次第なんですけど、研ぎ澄まされた言葉を求めている人は少なくないと思うんです。だから、言葉の選び方や使い方、言葉の響きに細心の注意を払って、歌詞全体を作り込んでいく工程にはすごくこだわるようになりましたね。

 

夏フェスが同調空間になってしまった

中村 ファンが興じて先日、チケットを買ってBase Ball Bearの日比谷ノンフィクションを観に行きました。驚いたのが客層です。たぶん高校生2年生から大学生2年生くらいの若い人がたくさんいて、みんな感じがいい。ほとんどが学校では、真面目な子たちでしょう。Base Ball Bearのライブを楽しんだりするけど、一方では学校の勉強もちゃんとして、いい成績を取っていそうな。「ああ、こういう子たちが社会にスポイルされることなく、自分を持ってまっすぐ成長できれば、日本はこれからもきっと大丈夫だ」とすら思った。小出さんの歌詞は、知性と節度を備えている聡明な若い子に響きまくっていることを目の前でみた。

小出 ファンには恵まれていると思います。ただ、僕はとにかく同調が嫌いなので、ライブという空間にも同調が生まれるのは好きじゃない。特に最近の夏フェスを見ていてそう思います。昔はフェスと言えば、ロックの祭典というイメージがあって。お客さんも演者も、音楽を愛している人たちばかりが集まる祝祭なんだと。だからこそ、そこに出演することが憧れでしたし、出演できて誇らしかった。ただ、ここ数年「そこに行けばみんなと一緒に盛り上がれる場」に変質してきて。レジャーとしての性質がだいぶ強まって、テーマパーク的になってきている印象です。

中村 よくも悪くも“お祭り”ですよね。ただ“お祭り”でもないと、やっていられないって社会になっているのも確か。

小出 “盛り上がりたい”雰囲気が最初から漂っているので、同調嫌いの僕としては苦手意識が芽ばえているのも事実です。まあ、フェスは往々にして大きな屋外ステージですし、暑いのでじっくりした曲はつらいのもわかるし、遠くのお客さんにも伝わるようなわかりやすいパフォーマンス、わかりやすい演奏が望まれるのもわかるし、曲目も代表曲などを中心にしたわかりやすい構成が求められるのも理解できます。ただ、それが自分たちのやりたいライブなのかと問われると……。

中村 じゃあ、小出さんはライブをどんなものにしたいと考えているのですか?

小出 僕が目指しているのは“同調”ではなく“共感”のある空間です。ライブでも他の人に合わせるんじゃなく、自分なりの楽しみ方を見つけてほしいんですよ。

中村 なるほど。確かに同調と共感は似ているようで、大きく違いますよね。

(第3回「音楽にも介護にもポエムがはびこる」は9月9日公開予定です。)

◎小出祐介さんの所属するバンド「Base Ball Bear」からニューシングルとツアーのお知らせがあります!

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