毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

★がついた記事は無料会員限定

2015.09.02

第1回 世界は自分だけが主人公ではない

小出 祐介/中村 淳彦

第1回 世界は自分だけが主人公ではない

繊細な歌詞と洗練されたサウンドで独特の世界を作り上げるロックバンド、Base Ball Bearの小出祐介さん(ギター&ボーカル)は、「職業としてのAV女優」「ルポ中年童貞」の著者である中村淳彦さんのノンフィクション作品の長いファンだという。それは「自分のすぐ近くで起きている知らない世界を教えてくれるから」。ミュージシャン、ノンフィクションライターとしてそれぞれ言葉を綴ることを生業とする二人が、今、気になっているのがわかりやすく居心地のいい言葉ばかりが蔓延する社会とそれに飲み込まれる若者たちのことだ。(構成:漆原直行)

 

『名前のない女たち』にショックを受けた

 

中村淳彦(以下、中村) Base Ball Bearをチェックしたのは半年くらい前と遅かったのですが、現在進行形で大ハマりしています。まじで素晴らしいです。今回の対談では僕らの同年代がロック好きでも意外と知らないBase Ball Bearがいかに素晴らしいかが伝われば、それで十分かなと思っています(笑)。小出さんが自分の本を読んでくれているのは人づてに聞いていて、自分もチェックしなきゃと適当にアルバム「十七歳」を手に取ったんです。そしたら、1曲目「17才」のイントロからシビれました。「これはスゲェ」と。その数十分後にタワーレコードに駆け込んで「(WHATISTHE)LOVE&POP?」を入手して、「BREEEEZE GIRL」を聴いてマジでヤバイなと。大瀧詠一の生まれ変わりなんじゃないか、と思ったくらいです。

小出祐介(以下、小出) ありがとうございます。僕も今日は楽しみでした。前々から、中村さんの著作はいろいろ読ませていただいていたので。初めて読んだのは『名前のない女たち』シリーズだったんですけど、ものすごくショックを受けたんですよね。それが6~7年前かな。

中村 ちょうど『名前のない女たち最終章~セックスと自殺のあいだで』が出たあたりだ。自分の今のところの最高傑作ですね。あの絶望感は本来の自分自身を超えてしまっている。とても今、やれと言われてできる内容じゃない。

小出 シリーズ全部をほぼ一気に読んだのですが、とにかく強烈で。僕は自分で曲を書いて、歌っているわけですけど「僕の曲は、この本に出てくるような人たちにもちゃんと響くのかな」と考え込んでしまいました。

中村 えっ、それはどういうことですか?

映画も本も、自分以外の世界があることを教えてくれるものが好きだという小出さん

小出 たとえば、気分がすごく落ちている人や絶望感を持っている人がいて、そういう人にも自分の曲が届いたらいいなと思ったりするんですけど、『名前のない女たち』のディテールにはどうやっても敵わないというか。「ここまでの人生を送っている人がいるんだな」と痛感させられた感じでしょうか。

中村 たぶん「最終章」の話が出るだろうなと思って昨日、棚から引っ張り出して改めて読み返してみたのですが、気分が悪くなった。最悪ですね。「最終章」は登場するAV女優がみんな死にたがっていた。あの末期の頃は連載とかどうでもよくて、適当にキャスティングしているのに登場するAV女優がみんな死にたがっているというおかしなことになった。群れてくるみたいな。僕自身もなにもうまくいかなくて、AV女優に導かれるように耐え難い負に飲み込まれた。最後の方に出てきた「今すぐ死にたい、死に場所も決めている」AV女優が飛び降りる予定のマンションに一緒に行って、2人で下のコンクリートを眺めながら、ライターをもう辞めようって思ったことを覚えています。逃げようって。

小出 暗黒期ですね。

学生時代は軽音部だった中村さん

中村 もう書くことは諦めたわけだから、個人的には内容はどうでもよかった。「かわいいAV女優を普通に取材して、無難に終わらせたい」とか考えていたのに。自分の意志に反して、どんどん深みにハマっていった。最後の最後、美咲沙耶が首を吊って自殺してしまった。これはいったい何なんだ、と呆然となって……。美咲沙耶は関根さん(関根史織さん。Base Ball Bearのベーシスト)と同じ年ですよ。「WINK SNIPER」とか聴くと関根さんと美咲沙耶がダブって、今思い出しても溜息が出る。

小出 美咲さんが亡くなって、もうダメだと思った──みたいなことを書かれていましたよね。「これでもう終わりだ」と。

中村 そうですね。

小出 初期のインタビューはまだ純粋な関心から根掘り葉掘り尋ねていくような余裕が中村さんにもあったように感じるんです。でも徐々に……3作目あたりから、取材対象にのまれてしまっている雰囲気があって。一定の距離を保って「観察してやろう」みたいなスタンスが徐々に崩れて、相手に引っ張り込まれていっているような気配が色濃く滲んできた。そんななかで最終章を迎えたわけですよね。


AV女優への取材はキレイごとでは片付かない

中村 僕は社会人になってすぐエロ雑誌のライターになって、AV業界に関わるようになっ た。小出さんと同じく都内の私立中学育ちだけど、自分は温室の中で生きていたってことに早々に気づかされた。

小出 ちょっとわかる気がしますね。

中村 20代の頃は「女性は売春なんかしないほうがいい、AV女優なんて取り返しがつかない」みたいなことを思って取材していたけど、さまざまな女性の心の闇とか、急激な時代の変貌とか、いろんなことが日々積み重なって、僕みたいな温室育ちの人間の価値観とか、キレイごとだけで片付く世界ではないなと痛感した。

小出 そういう葛藤は文章からも滲んでいますよね。

中村 最初の5年間くらいは、悲惨なケースを目撃したとき「何とかこの子の力になれないだろうか」とか思いがちでした。でも、そんなことは無理だと。自分には引き受けられないし、人の幸せや不幸せはさまざまで第三者が介入するようなことじゃない。介入するならば結婚するくらいの覚悟がないと無理とわかってきた。それで、あまり思い入れみたいなことを持たないようになった。3作目の「恋愛できないカラダ」以降は、「できることがあるなら、少しでも彼女たちの役に立ちたい」みたいな甘いことはまったく考えなくなったんです。だから流れに任せるというか。結果的に想像もつかない流れになって、翻弄されて、という展開になった。

小出 僕が、中村さんの取材対象との距離の取り方だったり、読者に向けられた文章の温度感だったりに意識が向いてしまうのは、僕にも似たような葛藤があるからなんです。

中村 えっ、どういうことだろう。

小出 自分が曲をつくるとき、リスナーや自分の言葉の“レンジ”みたいなものを意識するんですね。たとえば、超ポジティブで、活動的で、コミュニケーション能力も高くて、遠足では必ずバスの最後尾に座って楽しそうに盛り上がっていて、みたいなスクールカースト上位のポジションにいる人たちから、真逆のタイプ──なんとか必死に生きているカースト下位にいる人たちまで、ちゃんと自分の言葉を響かせたいというか。

中村 響いているんじゃないですか。人によるけど「名前のない女たち」みたいな壮絶な女の子たちは、“普通になること”が夢だったりする。社会は嘘ばかり、人間は嘘ばかり、誰も信用できないって猜疑心が強い。そういう人たちは、口先だけの美辞麗句には騙されない。弱者やスクールカーストの下位の人を意識して、言葉を大切にしているBase BallBearは、彼女らに響くでしょうとしか思えない。

小出 だと嬉しいんですけどね。深淵をのぞいている人たちに僕の言葉は響くのかどうか、できる限りの想像をしながら歌詞を書いています。

中村 ダークサイドで深淵をのぞいている女の子たちは、資本主義の残酷さとか汚さをよく知っている。人や社会は金のために、簡単に嘘をつくみたいな現実を。たぶん簡単にリスナーを騙そうとはしない小出さんの誠実な創作姿勢は、確実に伝わるように思いますね。

 

自分の世界以外があると知るために本を読む

小出 そうなのかなぁ……。でも、さっき言ったみたいな“幅”を持つためには、いろいろな視座を獲得する必要がある。自分の引き出しを増やしていかないと、他者の境遇やそこにもとづく考え方を想像することすら難しいですからね。

中村 言葉の送り手として、とても誠実な姿勢です。言いっぱなしにはしないと。

小出 人は誰もが自分の世界がすべてで、自分の人生の主役は自分だと思っていて。他人は、自分の物語に登場するキャラクターだったり、顔も名前もないモブキャラのように捉えていたりする。だから自分以外の人生にリアリティを感じることの方が難しい。でも、中村さんの本を読んだり、ドキュメンタリーやルポルタージュに触れてみたりすると、自分の世界と隣接したところに、想像もできないような、信じられないような世界がたくさん存在していることに気づかされるんですよね。

中村 90年代以降、社会が急激に変わって誰もが簡単には生きづらくなって、経済的にもおかしくなって、個人の心の闇みたいなのはどんどん細分化して深くなっている。その社会のネガティブな変動と女性が売春するってことは密接に繋がっていて、まあ、僕はそれを伝える役割ではあるかな。

小出 自分と他人、という視点を歯車でたとえるなら、世界には70億個の歯車があって、たまたま、ほんの一瞬だけ噛み合った歯車が影響しあったりもするけど、その歯車はすぐに離れてしまって、もう二度と噛み合うことがない……みたいな感覚というか。もっというと、地球のうえには70億個の歯車が単体で存在していて、それぞれがそれぞれのスピードや向きで勝手に回っているだけ、なんて考えたりもするんです。でも、自分の世界以外に、いろいろな世界があるということに気づけるだけでも何かが変わるはず。『名前のない女たち』にしろ、『ルポ中年童貞』にしろ、中村さんのような方が地道にインタビューをしたり、統計などの資料にあたってくれたりして“自分の世界”以外の世界のことを教えてくれることは、本当に貴重なこと。そのおかげで、僕らは他の世界に生きる人たちの人生を垣間見て、心情を想像できるようなれたのだと思っています。

中村「BREEEEZE GIRL」みたいなとんでもないポップスを生みだせる小出さんが、深淵の最前線で間違って心を持っていかれたら大きな社会的損失になっちゃうし(笑)。いつもウンザリしているけど、なんかBase Ball Bearに少しでも活かされているかも、とか思うと俄然やる気が出てきたなぁ。

(第2回「日本の音楽には同じような言葉ばかりが氾濫している」は9月5日公開予定です。)


◎小出祐介さんの所属するバンド「Base Ball Bear」からニューシングルとツアーのお知らせがあります!

★がついた記事は無料会員限定

関連書籍

中村淳彦『ルポ中年童貞』
電子書籍はこちら
書籍こちら(Amazon)


中村淳彦『職業としてのAV女優』
電子書籍はこちら
書籍はこちら(Amazon)

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

おすすめの商品
  • ピクシブ文芸、はじまりました!
  • 文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
  • 無理しないけど、諦めない、自分の磨き方
  • 時短、シンプル、ナチュラルでハッピーになれる!
  • ビジネスパーソンのためのマーケティング・バイブル。
  • 有名料理ブロガー4名が同じテーマでお弁当を競作!
  • ドラマこそ、今を映すジャーナリズム!
  • 砂の塔 ~知りすぎた隣人[上]
  • 小林賢太郎作品一挙電子化!
  • あなたがたった一人のヒーローになるためには?
朝礼ざんまい詳細・購入ページへ(Amazon)
文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
ピクシブ文芸、はじまりました!
エキサイトeブックス
今だけ!プレゼント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!