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2015.08.24

第18回

メガネに関する卑猥なマシーン

小嶋 陽太郎

メガネに関する卑猥なマシーン

 つるの部分に柔軟性を持たせた丈夫なメガネのCMをテレビで見た。
 何か特殊な素材でできていて、たとえ踏んづけたとしてもレンズさえ割れなければ壊れないというものだ。僕が使っているメガネがまさにそれで、実際、超やわらかい。左右のつるを持って両端に向かって平行になるまで広げても全然大丈夫だ。ポキッと折れたりはしない。斜めにぐいっとねじっても壊れない。元の形に戻る。まじですごい。
 CMでは「耐久テスト」と称して、専用の機械でつるを平行になるまで広げられては閉じられ、また平行になるまで広げられては閉じられるメガネの映像が流れていた。「耐久テスト、一万回突破」みたいな解説が流れた。
 見ているうちに、だんだんと妙な気分になってきた。
 僕はいま何か、とんでもなく卑猥な映像を見せられているのではないか? 一万回て……。
 耐久性を証明するためとはいえ罪なきメガネに一万回もの開脚を強いたうえに、そのあられもない姿をテレビで放映し、何万もの人の目に触れさせる。あのメガネはきっともうお嫁に行けないだろう。
 いくら丈夫なメガネをつくるためとはいっても、ひとりのメガネをここまで辱めていいものか? 某メガネ屋に、メガネの人権(メガネ権)を多少なりとも考慮するというモラルはなかったのか?
 彼らに対して憤り始めた僕だったが、この「メガネ開脚プロジェクト」に関してはほかにも着眼すべき点がいくつもあるように思えた。
 まず気になるのが、「メガネに一万回の開脚を強いる機械、開脚強制マシーンを設計するように命じられた人の気持ち」だ。

社長:「今日君を呼び出したのはほかでもない、とあるところから珍しい依頼が来てね。メガネを一万回、有無を言わさず開脚させる装置をつくってほしいんだ」
設計士:「メ、メガネを一万回、有無を言わさず開脚させる装置、ですか……?」
 趣向がマニアックすぎる。どんなヘンタイの依頼だ? と設計士は不審に思った。
社長:「そうだ。メガネを一万回、有無を言わさず開脚させる装置だ。君ならやってくれるね? いま手が空いてるのは君くらいなんだ。特別手当も出す」
 設計士は逡巡した。小四になったばかりの息子に「お父さん、いろんな機械の設計する人なんだよね。いま、何の設計をしてるの?」と聞かれて、「メガネを一万回、強制的に開脚させる装置の設計をしているんだ」と胸を張って答えられるか? 答えはノーだ。
 しかし設計士が社長に対して口にした返事は、「イエス」だった。
設計士:「はい。やります。メガネを一万回、強制的に開脚させる装置の設計、おれがやります」
社長:「そうか。よかった。よろしく頼むよ」
 社長室から出たあと、設計士は深いため息をついた。
 おれは設計士だが、組織の一員だ。組織のために働くのが、おれのやるべきことだ。どんな意味のわからない依頼でも要望を聞き入れ、顧客が満足するような設計をする。それが会社のためになり、巡り巡ってきっと世の中のためになる。メガネを一万回、強制的に開脚させる装置だって、きっと何かの役に立つのだろう。誇りさえすれ、恥に思うようなことはひとつもない。設計士はそのように自分を納得させ、メガネを一万回、強制的に開脚させる装置の設計に取りかかったのだった。
 ――という物語があったに違いないのだ。
 耐久テストをするなら、それを監視する人だっておそらくはいるはずで、メガネが開脚強制マシーンによって無感情に開脚させられ続けるさまをじっと見ている人だっていたはずだ。
 彼らだって、好きでその業務に就いたわけではない。上司からの指示によって監視せざるを得なかっただけだ。きっと千回ほど開脚が終わったところで、「私はいったい、何を見ているのかしら」と自問自答し始め、五千回時点でひどく気分が落ち込んだかと思えばいきなりヒャッホーと叫びたくなったりといった躁鬱状態になり、耐久テスト終了間近の九千回あたりで「私が生きてる意味ってなにかしら」と自分の存在意義を考え始めたりしただろう。一万回の開脚運動が終わり、同時に監視の任が解かれたときには解脱を果たしていた可能性すらある。
 設計士や監視員など、こうした種々の微妙な感情の上に卑猥なメガネ開脚耐久テストがあり、卑猥なメガネ開脚耐久テストの上に、この、開脚してもねじっても壊れない素晴らしいメガネがある。そして僕はその恩恵をめちゃくちゃ受けている。何度も尻や足で踏んづけているけど、ちっとも歪まないからね。
 素晴らしいメガネをつくってくれて、ありがとう、某メガネ屋さん!

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