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2015.08.30

女たちは絶えず争っている。そのリアルさが息苦しい(小島慶子『わたしの神様』)

深澤 真紀

女たちは絶えず争っている。そのリアルさが息苦しい(小島慶子『わたしの神様』)

『わたしの神様』
小島慶子
幻冬舎刊/1500円(税別)

 

「元女子アナが書いた、女子アナ小説」とはどんなものだろうという興味を持った人も、「女子アナをやめて、母との関係や仕事を辞めた夫との関係など、女としての葛藤を明らかにしてきた小島慶子」に共感を持っている人も、それぞれの期待を裏切らないのが、処女小説である『わたしの神様』だ。

 私もまた、両方の興味を持って読んだ一人だが、初めての小説とは思えない堂々とした仕上がりに驚き、一気に読んでしまった。大映ドラマのような展開でありながら、小島慶子が本人たちに取材したノンフィクションのようなリアルさもあって、息苦しくなるほどであった。

「私には、ブスの気持ちがわからない」と思っているアイドル女子アナ仁和まなみ、母になることでまなみと差別化を図る優等生な女子アナ佐野アリサ、そして美貌も才能も兼ね備えながら、女子アナにはなれなかった報道部記者の立浪望美、この三人を中心にドラマは進んでいく。

 アリサが7年間も担当していた報道番組のキャスターを、彼女の産休によってまなみが担当することになる。しかし番組はうまくいかず、望美は今度こそ自分がキャスターになれると思うのだが……

 ここで描かれるのは、女子アナの立場に執着し野心を持つ女たちと、それにあこがれ、利用し、どこかで馬鹿にしている男たち(女子アナ好きのディレクターや、ぼんぼんの広告代理店マンなど)の姿である。

 私には、女子アナ、元女子アナの友人・知人が何人もいるが、みなに共通しているのは、会社員なのにタレントのように扱われることに対して、「こういう仕事なのだ」という自負と自尊、そして苦しみとあきらめを抱えながら働いていることだ。それが女子アナをやめたとたん、その立場でなくなったことに一抹の寂しさを抱えながらも、それ以上に解放されていくのである。女子アナというのは職業ではなくて、生き方になってしまっているのだと思う。

 私は出版業界で長く働きながら、テレビ業界でも仕事をするようになったのだが、十分に男社会だと思っていた出版業界以上に、テレビ業界は男だけが決定権を持つ社会であることにあきれ驚いた。ここで生きていくことは、女にとってどれほど困難なことかと思う。

 最近テレビが見られないという一因は、この異常な男社会で作られている番組が、女性視聴者だけでなく、今では男性視聴者にも違和感を与えているからだと思うくらいだ。

 本書の女たちは絶えず争っている。その姿を見て、「やっぱり女の敵は女だな」と思う人もいるかもしれない。しかし女同士が敵になってしまうのは、女にとって「仕事であれ、恋愛であれ、男に選ばれるかどうか」が重要になってしまうからである。つまり「女の敵は女」だと思わせているのは、「女を選ぶ立場の男たち」であり、女自身までもがそう思ってしまっては苦しくなるだけだ。

 だからといって、「女同士だからわかりあおう、共感しあおう」と思いすぎるのも、疲れてしまう。なぜなら女だっていろいろな存在がいる。女だから、妻だから、母だから、仕事をしているから、というだけでわかりあえるわけもない。女として、同じ痛みや苦しみを分かちあえるわけでもない。痛みや苦しみはそれぞれ別のものだからだ。

 私は「同じ女として」という言葉は使わないようにしているし、同じ女じゃなくて、いろいろな女がいたほうがよほどいいと思う。そしてわかりあえなくても「ああいう女がいると面白いなあ」と、お互いの生き方を尊重しあうくらいでいいと思うのだ。

 女たちを「同じ女」に閉じ込めておきたいのも、そのほうが男たちにとって楽だからである。「俺たちに選ばれるために争う、馬鹿でかわいい女」と思いたいからだが、そんなふうに女を馬鹿にしてしまうことは、男たちの生き方も単調にしてしまって、けっきょく彼ら自身をも苦しめてしまうと思う。

 私が名付けた“草食男子”も、そういった従来の男たちに疑問を持ち、「女性に対してがつがつせず、対等につきあえる男性」という意味の褒め言葉として名付けたのが、旧来の価値観にこだわる男にも女にも評判の悪い存在になってしまった。草食男子を否定することは、実は自分の生き方も狭くして苦しくしてしまうだけなのだが。

 本書の女子アナという生き方に拘泥する女たちも、自分を苦しめる価値観から自由になることはできない。人は自分を苦しめる価値観なのに、それを守ることに拘泥してしまうこともままあるのだ。

 小説の登場人物なのに、彼女たちがどうしたらそこから自由になれるのか、本書を読み終えた今も、それが気になって仕方ない。 

『ポンツーン』2015年8月号より

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関連書籍

小島慶子『わたしの神様』
視聴率低迷中のニュース番組「ウィークエンド6」の起死回生をはかるため、テレビ太陽きっての敏腕プロデューサー藤村は“女子アナ”キャスターのてこ入れに動いた。産休に入る佐野アリサの後任に起用したのは、全方位の好感度で不動の人気を誇るミスキャンパス出身の仁和まなみ。アイドルアナからニュースキャスターへと鮮やかな転身をとげたい彼女は、権力欲や保身に走る男たちや、敵意むき出しの女たちに晒されやがてスキャンダルの渦に引き摺り込まれる。描かれることのなかった“女子アナ”たちの強烈な嫉妬と執着と野心に、ページをめくる手が止まらない。一気読み必至の極上エンタメ小説。

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