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2015.08.25

布張りの翼を持つ練習機での特攻
敵国アメリカから見えたその風景とは――
第2回『君死に給ふことなかれ』

古川 薫

布張りの翼を持つ練習機での特攻 <br />敵国アメリカから見えたその風景とは――<br />第2回『君死に給ふことなかれ』

太平洋戦争末期、形勢不利の日本軍はなりふり構わぬ常軌を逸した作戦に打って出る。「菊水作戦」。世に言う特攻作戦である。これにより合わせて1800機とも言われる海軍機、陸軍機が特攻を実施し、3000名を超える若い兵士が海の藻屑と消えたのだった。
その作戦に並行し、終戦間際には「赤トンボ」と呼ばれた練習機までもが特攻作戦に駆り出されたことはあまり知られていない――。

戦時中、その赤トンボの整備士のもとへ、特攻隊員から匿名の手紙が届きます。本作「君死に給ふことなかれ」(古川薫著)はその手紙の差出人の消息を、戦後70年の時を経て捜し求めた実話を元に綴られました。
一通の手紙に寄せる思いが、70年の時を超えて、私たちに大切なことを語りかけます。

連載第2回目は作品より、その「赤トンボ」の実際の戦闘風景を紹介します。

 プロローグ
 月光を浴びて


 カリフォルニア
 おお、わがふるさと
 さあ帰るぞ、母なる地へ
 さらばオキナワ
 くたばってしまえ
 カミカゼ・ボーイ!

 一九四五年(昭和二十)七月二十八日夜、沖縄諸島沖を東南に針路をとって航行中のアメリカ合衆国海軍のフレッチャー級駆逐艦キャラハンの乗組員は、故国にむかうよろこびを、即興のフレーズに乗せ陽気に歌っていた。
 同艦は定期検査の期限を過ぎている。沖縄戦も終結したのをみて、ニューヨークの海軍に回航されることになり、他艦と任務を交代して米本土にむかっているのだった。
 七月二十九日午前零時三十分、指揮艦プリチェットから船舶間通話装置TBSで「南東約二キロ離れたところに、敵味方不明機を発見」との急報をキャラハンの当直将校は受け、就寝中のバーソルフ艦長に報告した。
 同時刻キャラハンのレーダーも不明機の影をとらえている。ただちに全員戦闘配置となる。付近にいた僚艦キャッシン・ヤングも同時に怪しいこの飛行機を発見した。     
 はじめキャラハンはそれを一機とみたが、キャッシン・ヤングは二機の正体不明機がゆっくり接近してくるのを認めている。
 月光を浴びて時速一五〇キロばかり、あえぐような身振りで緩やかに低空を飛んでくるその飛行機は、彼らがそれまでに見た特攻機のゼロ戦でも九九艦爆でもない旧式の小型複葉機だった。まさかとは思ったが、それは練習機を攻撃用に仕立てたものにちがいなかった。
 この風変わりな特攻機は、キャラハンからの猛烈な対空砲火にもかかわらず、平然と近づいてくるのである。
 やがて先行の一機が艦尾の上を通り過ぎ、右舷第三上部給弾室付近に、ぐしゃっと潰れる音を発して激突した。飛行機が抱えてきた二五〇キロ爆弾は投げ出され、甲板を突き抜けて、機関室に達すると同時に爆発し、そこにいた全員を殺した。
「私は艦橋の前のほうにいたが、爆風のために、体は羽毛のように室の反対側に吹きとばされた」と、バーソルフ艦長は、あとでそのように語っている。
 甲板のあたり一面にばらまかれた燃料が発火して火災が発生した。五分後には第三上部給弾室が爆発、付近で応急作業していた乗組員の多くを殺傷したり、艦外に吹き飛ばしたりした。
 船体が裂け、浸水がはじまると艦長は「救助班を除き、総員退艦用意」の命令を出した。
乗組員は救命や浮きを残らず利用して海に飛び込んだ。また負傷者・軍医・俸給支払原簿・現金出納簿などを乗せた救助艇を海中におろした。
 間もなくキャラハンは、火を噴きながらを発して沈みはじめた。乗組員が退艦してからも、激しく燃えさかる艦上に踏みとどまっていたバーソルフ艦長は、駆け付けた上陸用舟艇に移乗して一五分後に離艦した。
 開戦以来、太平洋の各所で日本軍を痛めつけてきた駆逐艦キャラハンは午前三時三十四分、海水を吸ってあえぎながら艦尾から沈没していった。
 この戦闘で同艦は士官一名と下士官兵四六名が行方不明となり、士官二名と水兵七一名が負傷、そしてこれが神風特攻隊に撃沈された最後の艦艇となった──。
 北緯二五度四二分、東経一二六度五五分の子午線の下でのたうつキャラハンの最期を見届けたもう一機の正体不明機は、僚艦プリチェットめがけ緩降下してきた。多くの対空砲火が複葉機に命中したはずだが、このときも弾は布張りの翼や胴体を貫通して、損害を与えることができなかった。しかしこの二番機は、斜めに衝突したので、プリチェットは沈没を免れた。
 謎の複葉機による攻撃はそれからもつづいた。
 翌三十日午前二時ごろ一機が再びプリチェットに近づいてきたが、右舷艦首から三〇メートル離れたところで撃墜、さらによろよろとあらわれた複葉機二機もかろうじて撃墜した。
 沖縄戦の日本軍の抵抗は、これで終わるだろうと安心していたところ、三十一日の夜明け前になってキャッシン・ヤングの見張りからまたしても「国籍不明の爆装複葉機が接近」との緊急報が当直士官に伝えられる。やはり二五〇キロ爆弾を抱えた複葉機一機が、超低空で飛来するのが目視できた。
 この海域には友軍機が待機していることを知っていたので、このような旧式のオンボロ複葉機など、簡単に空中戦で撃ち落としてくれるだろうと、キャッシン・ヤングは味方撃ちを恐れて発砲をひかえていた。
 友軍機があらわれないとわかって、同鑑が射撃態勢に入ったのは、特攻機が体当たりのために緩降下をはじめてからだった。これは右舷の後部救助ダビット近くに激突、大爆発した。キャッシン・ヤングは沈没を免れたが、一九名が戦死、四六名が行方不明となる。
 このほか高速運送艦ホラスAバスも襲われているが、回避して被害は免れた(別の資料によるとホラスAバスは被害を受けている)。
 目標を失った最後の一機は沖縄本島方面に針路をとり米軍基地をめざしたが、飛び立ったグラマンに撃墜された。これらの戦闘が、沖縄戦における最後の特攻攻撃であった。
 沖縄戦の終結でした隙をつかれて突然あらわれた小型複葉機のために、駆逐艦一隻を撃沈され、二隻の駆逐艦が損傷、戦死者や行方不明併せて死傷者約二〇〇名の被害を与えられたのだった。
 沖縄の海を両軍兵士の血で染めたこの戦争の最終局面は、ポツダム宣言受諾、降伏の混乱下におかれた日本本土にはすぐに伝わらなかった。日本の戦史に加えられたのはよほどあとのことである。
 

第3回の更新は、8月29日(土)予定です。特攻直前の兵士から日本で待つ両親に送られた手紙を作品よりご紹介いたします。

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