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2015.08.09

支那兵の 死に浮く水を 汲み上げて…
〈戦地のリアル〉
第1回『兵隊万葉集』

早坂 隆

支那兵の 死に浮く水を 汲み上げて…<br />〈戦地のリアル〉<br />第1回『兵隊万葉集』

 戦地で何が起こったか。これは体験した人たちから話を聞くしかありません。それでも、実際身に降りかかった悲惨な経験というのは、なかなか人に伝えづらいものです。伝えたい思いを言葉にしようとすれば逃げてゆき、饒舌になればなるほど本当のことが薄れてゆく。
 でも三十一文字の短歌なら――。

 戦地へ行った一兵卒たちの、そんな歌の数々をひろい、紹介した『兵隊万葉集』(早坂隆著)。そこから一部を抜粋し、彼らの“生の声”をお届けします。
 今の私たちと同じ、普通の生活をしていた人々が、戦地で何を見、何を思ったか。静かに耳を傾けることから始めてみたいと思います。

 

日中戦争のはじまり

 昭和一二年(一九三七年)七月七日夜、北平(ペイピン)(現在の北京)の近郊で勃発(ぼっぱつ)したいわゆる「盧溝橋(ろこうきょう)事件」により、日本と中国は事実上の戦争状態へと突入した。

 当初、日本の軍部は「慎重派」と「強硬派」に二分されたが、結局、慎重派は強硬派の動きを止めることができなかった。その後、中国各地で日中両軍が衝突。戦線はみるみる拡大していく。


支那兵の 死に浮く水を 汲み上げて
      せつなけれども 呑まねばならず


                  ――上原酉松(『聖戦短歌集』S13・10)


 上海では八月九日、海軍上海特別陸戦隊の大山勇夫(いさお)中尉の乗った乗用車が中国兵から狙撃され、大山中尉が絶命するという「大山事件」が発生。これを機に、海軍は陸戦隊の増派を決定した。

 八月一三日、中国軍は八字橋付近で攻撃を開始。日中両軍は、各所で激しい戦闘状態に入った。第二次上海事変の勃発である。

 翌一四日には、中国空軍が日本の海軍上海特別陸戦隊本部などを爆撃。対する日本軍も、一五日、報復として海軍の渡洋爆撃隊が上海の街を爆撃した。

 その後、日本軍の爆撃は上海以外の各都市へと拡大し、中華民国の当時の首都である南京や、蘇州、揚州などの飛行場も集中的に攻撃した。

 また、上海市街では、小銃や手榴弾による肉弾戦も始まり、日中双方に多くの犠牲者が生まれた。

 その間、日本の増援部隊は、上海北方の揚子江沿岸から次々と上陸を試みていた。その中の一人は、上陸前の気持ちをこう詠む。


敵前に 上陸すると ききにつつ
     吾等しづかに 林檎をむくも
                    

ーー石毛源(『聖戦短歌集』S13・10)


 上陸時、日本軍は中国側から猛烈な射撃を受けた。呉淞(ウースン)に上陸した第三師団は、一七日間で僅(わず)か三キロしか前進できなかった。

 また、至る所に横たわる大小のクリークが、日本軍の進軍を大きく阻んだ。クリークとは、大陸の平野部を流れる運河のことで、それらは主に農業や交通用の水路として住民に使われていた。

 クリークは大きなものだと幅が約二〇〇メートルもあり、それが数百メートルごとに連なっている。日本軍はクリークに橋を架けて渡ったが、その架橋作業時と渡河時が、中国軍に狙い撃ちをされる「魔の時間帯」となった。


(呉淞クリーク附近)
眼の前に 斃(たお)れし友の 亡骸の
      腐るを見つつ 術なかりきと
                   

――石川清(『聖戦短歌集』S13・10)


(中支クリーク進軍)
友軍の 声ききとめし時 クリークに
     我すべり落ちて 敵に知られつ
                

――青木治男(『傷痍軍人聖戦歌集』S14・1)

 

第2回の更新は、8月19日(水)予定です。
家族への愛、敵兵への同情、友との絆、死への恐怖、上官への不満……戦争で人生を翻弄された一兵卒たちの声が続きます。

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