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2015.07.29

第1話-7

名前の相談

木下 半太

名前の相談

木下半太さんの最新作、『鈴木ごっこ』が映画化!オムニバス映画『家族ごっこ』内の同名作品(出演:斎藤工さんほか)として8月1日(土)から上映されます。これを記念し、物語の発端となる『鈴木ごっこ』緊迫の第1話を、映画初日まで毎日カウントダウン公開。小説と映画で異なるラスト。あなたは観るのが先?読むのが先?

最初の記事:第1話-1 わたしはカップラーメンを食べない
前回の記事:第1話-6 女と娘の最後の夜

これから1年間、家族として過ごさなければならない初対面の4人。苗字は“鈴木”。では下の名前は?


*  *  *
 

「顔が似てないことを気にするのはあとだ。まずは名前を決めるぞ」

 スーツの男が苛つきを隠さず、また仕切り出す。

「オレ、カツオでいいよ」

 パーカーの青年が眠そうに答える。一刻も早く寝たそうだ。

「じゃあ、私は波平ですかね」

 ネルシャツの中年男が自嘲気味に呟く。

「それでいいんじゃね。覚えやすいしさ」

「ということは、夫婦のお二人はマスオとサザエになりますね」

 調子に乗るネルシャツの中年男にカチンときた。

「どっからサザエさんが出てくんねん。それにマスオとサザエの子供はタラちゃんやんか」

「あっ、そうか。じゃあ、オレはタラオじゃん」

「えっ……カツオはサザエさんの息子じゃなかったんですか」

 ネルシャツの中年男が、ポカンとした顔をしている。

「何言ってんの。サザエとカツオとワカメが兄弟。その三兄弟の父親が波平で母親がフネやで」

「担ごうとしてもそうはいきませんよ」

「サザエの苗字は磯野ではない。フグ田なんだよ」スーツの男も呆れてため息をつく。「あの家は二世帯住宅だ」

「ほんとですか? この四十数年間……私は大きな勘違いをしておりました。てっきり、カツオとワカメとタラちゃんが三兄弟だと……」

 一体、何の話だ。頭痛がどんどん酷くなる。

「日本人としての基本じゃん。カツオがサザエを呼ぶとき『姉さん』って言ってるじゃん」

「だってカツオはいくつですか? 小学生でしょ?」

 ネルシャツの中年男はまだ納得がいってないらしい。

「設定では十一歳だよ」

 スーツの男が意外な知識を披露した。

「ワカメは?」

「九歳だな」

「波平は?」

「五十四歳」

「ということは、ワカメは波平が四十五歳のときの子供ですか?」

「そういうことになるな」

「フネはいくつでワカメを産んだんですか?」

「設定では五十二歳だから四十三歳のときの子供だ」

「高齢出産やね。カツオが四十一歳で、ワカメが四十三歳って、どんだけセックスしとっとね!」

 ネルシャツの中年男が急に博多弁丸出しになり、唾を飛ばして反撃した。文句があるならば、わたしたちにではなく長谷川町子先生に言って欲しい。

「別にアニメなんだからいいじゃん」

 パーカーの青年が、面倒臭そうに顔をしかめる。

「百歩譲って、カツオば妊娠したことは認めましょう。避妊に失敗したっちゃろうね。ばってん、そのあとのワカメはきっちり避妊してくださいよ。波平は何べん同じあやまちを繰り返せば気が済むとね? こんなおかしな設定ば、きさんら、いや、日本国民は容認してきたとね?」

「知らんやん……」

「ちなみに磯野家は世田谷区にある」スーツの男が得意げに胸を張った。「東急田園都市線の桜新町駅だ。長谷川町子美術館があるぞ」

 こいつ……サザエさんマニアなのか?

「マジ? ちょー行きてえ!」

「ちなみに磯野家は、東京に引っ越してくる前に、どこの県に住んでいたと思う?」

 スーツの男が鼻を膨らませてクイズを出したが、誰も答えられない。

「福岡県だ」

「えっ、我が地元ばい」

 ネルシャツの中年男が嬉しそうに驚いた。

「たしか福岡市早良(さわら)区のはずだ」

「隣の区じゃなかですか! 僕、城南区の出身です。サザエさんがそんな身近な存在だなんて……。何か奇妙な縁を感じてしまいますよね。やはり、私は波平でいくべきでしょうか」

「あかん! 何一人で盛り上がってんのよ!」わたしはテーブルを叩いてネルシャツの中年男を黙らせた。「目立ってどうすんねん。冷静に考えてや。もし、近所に波平って人が住んでたらどう思う? こんなサザエさんのお膝もとで!」

「ウケる。友達に言いふらすかも」

 パーカーの青年がケタケタと笑う。感情が入ってない不快な笑い方だ。

「やろ? ウチらはニセモノの家族やとバレずに過ごさなあかんねんから」

「目立てば目立つほどリスクが高くなるな。地味な名前をつけようぜ」

 やっと、スーツの男と意見が合った。

「でも、地味な名前を覚えられる? オレ、自信ねーわ。近所の人の前で名前を忘れたり、間違えたりしたらヤバいんじゃない?」

 パーカーの青年の反論にスーツの男が頷いた。

「致命的だな。そうならないよう地味で間違わない名前にするぞ。その人間の特徴と名前を結びつけると覚えやすい。セットで記憶するんだ」

 
*  *  *

※次回第1話-8は明日7月30日(木)公開予定です

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関連書籍

木下半太『鈴木ごっこ』
「今日から、あなたたちは鈴木さんです」。巨額の借金を抱えた男女四人が豪邸に集められた。彼らの責務は、ここで一年間、家族として暮らすこと。見知らぬ者同士が「家族ごっこ」に慣れてきたある日、貸主から次なる命令が下った。「隣の奥さんを寝取れ」。失敗したら四人に未来はない--。貸主の企みの全貌が見えた瞬間、想像を超えた“二重の恐怖”がつきつけられる! まさかのラスト7行で震撼!この恐怖にあなたは耐えられるか!?


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映画『家族ごっこ』 8月1日(土)公開!

「鈴木ごっこ」をはじめ、どこかズレた5組の家族が描かれるオムニバス作品。出演は注目を集める斎藤工、柄本時生をはじめ、でんでん、鶴田真由らベテラン勢も見逃せません。さらにはノンノモデルとしても活躍する新木優子、小林豊(「仮面ライダー鎧武/ガイム」)ら若手が勢いを与えます。監督は『グレイトフルデッド』が世界30以上の映画祭で上映、イギリス・ドイツでの配給も決定した内田英治監督と、今作が初メガホンとなる小説家・木下半太(「悪夢のエレベーター」「サンブンノイチ」)がタッグを組む異色作。また、今もっとも勢いにのるサブカル系アイドルグループ“ゆるめるモ!”がエンディングテーマを担当。メンバーの櫻木百は出演し演技も披露しています。シュールなファミリーたちの物語、どうぞご期待ください。

→映画「家族ごっこ」公式サイトはこちら

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