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2015.07.28

第1話-6

女と娘の最後の夜

木下 半太

女と娘の最後の夜

木下半太さんの最新作、『鈴木ごっこ』が映画化!オムニバス映画『家族ごっこ』内の同名作品(出演:斎藤工さんほか)として8月1日(土)から上映されます。これを記念し、物語の発端となる『鈴木ごっこ』緊迫の第1話を、映画初日まで毎日カウントダウン公開。小説と映画で異なるラスト。あなたは観るのが先?読むのが先?

最初の記事:第1話-1 わたしはカップラーメンを食べない
前回の記事:第1話-5 それぞれの“鈴木”

これから1年間、家族として過ごさなければならない初対面の4人。パニック寸前の女の脳裏をよぎるのは、娘の顔。


*  *  *
 

 大阪の家で過ごした最後の日──。

「今夜は何を食べたい?」

 わたしは、リビングの隅に座ってスマートフォンをいじっている娘に声をかけた。

 十年近く住んだマンション。引っ越しの作業はほとんど終え、家具も何もないスケルトンの状態である。古くなった食卓はガタがきていたので捨てた。

 でも、人が生活していた匂いはまだ残っている。ここに越したとき、娘はまだ幼稚園生だった。

「ねえ、聞いてんの?」

「……何でもええし」

 娘がぶっきらぼうに答えた。スマートフォンと睨めっこしたままで、こちらを見ようともしない。

「何か作ってあげたかったけどフライパンもお鍋もないし……調味料もないしなあ……どっかに食べにいく?」

 言いながらポロポロと涙が零れた。明日から、わたしは東京で暮らさなければいけない。娘と同じ食卓に座れるのはいつの日になるのかわからないのだ。

 最後ぐらい、娘の大好物の《たらこのカルボナーラ》を作ってあげたかった。

「テキトーにカップラーメンとかでええよ」

 娘は泣いていない。怒っているような口調だった。

「あかん。もっと栄養あるもん食べんと」

「借金あるねんから贅沢言ってられへんやん」

「……ごめんね」

「何でママが謝るん? パパが悪いんやろ? それとも、パパが浮気したんはママのせいなん?」

「どうして、そんなこと言うの?」

「だって、パパずっと寂しそうやったもん。この家で三人でいるときも心の底から笑ってなかったよ。気づかへんかったん?」

 娘がスマートフォンを置き、責めるようにわたしを見た。

「あの人は……ほとんど帰って来なかったし……」

「帰って来たくなかってん。この家がしんどかってん。ウチもそうやったからわかるわ」

「何がそんなにしんどかったの?」

 沸々と怒りが込み上げてきた。完璧な妻ではなかったけれど、幸せな家庭を築こうと自分なりに精一杯頑張ってきたつもりだ。

「じゃあ、ママはどうやった? お店でお客さんに料理を作っているほうが楽しくなかった?」

 図星だった。わたしにとって新町のカフェは逃げ道であり、オアシスだった。

 この家はたしかに息苦しかった。酸素の量がわずかに少ないような感覚……家族三人でいるときの生温かい空気……。家から一歩外に出ると新鮮な空気が体の中に満たされ、重石(おもし)が取れたように身が軽くなった。

 何がしんどかったのか。答えられないのはわたしのほうだ。

 
*  *  *

→次回第1話-7はこちら

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関連書籍

木下半太『鈴木ごっこ』
「今日から、あなたたちは鈴木さんです」。巨額の借金を抱えた男女四人が豪邸に集められた。彼らの責務は、ここで一年間、家族として暮らすこと。見知らぬ者同士が「家族ごっこ」に慣れてきたある日、貸主から次なる命令が下った。「隣の奥さんを寝取れ」。失敗したら四人に未来はない--。貸主の企みの全貌が見えた瞬間、想像を超えた“二重の恐怖”がつきつけられる! まさかのラスト7行で震撼!この恐怖にあなたは耐えられるか!?


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映画『家族ごっこ』 8月1日(土)公開!

「鈴木ごっこ」をはじめ、どこかズレた5組の家族が描かれるオムニバス作品。出演は注目を集める斎藤工、柄本時生をはじめ、でんでん、鶴田真由らベテラン勢も見逃せません。さらにはノンノモデルとしても活躍する新木優子、小林豊(「仮面ライダー鎧武/ガイム」)ら若手が勢いを与えます。監督は『グレイトフルデッド』が世界30以上の映画祭で上映、イギリス・ドイツでの配給も決定した内田英治監督と、今作が初メガホンとなる小説家・木下半太(「悪夢のエレベーター」「サンブンノイチ」)がタッグを組む異色作。また、今もっとも勢いにのるサブカル系アイドルグループ“ゆるめるモ!”がエンディングテーマを担当。メンバーの櫻木百は出演し演技も披露しています。シュールなファミリーたちの物語、どうぞご期待ください。

→映画「家族ごっこ」公式サイトはこちら

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