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2015.07.26

第1話-4

4人が“鈴木”になった理由

木下 半太

4人が“鈴木”になった理由

木下半太さんの最新作、『鈴木ごっこ』が映画化!オムニバス映画『家族ごっこ』内の同名作品(出演:斎藤工さんほか)として8月1日(土)から上映されます。これを記念し、物語の発端となる『鈴木ごっこ』緊迫の第1話を、映画初日まで毎日カウントダウン公開。小説と映画で異なるラスト。あなたは観るのが先?読むのが先?

最初の記事:第1話-1 わたしはカップラーメンを食べない
前回の記事:第1話-3 すれ違う4人の“鈴木”

とある豪邸に集められた借金まみれの4人。女は自己紹介をしようと提案するが――。


*  *  *
 

「そうですよね」ネルシャツの中年男が、立ったまま自己紹介を始めようとした。「私の名前は……」

「ちょっと待って。自己紹介はやめよう」スーツの男が遮った。「家族に成りきるには、お互いの素性を知らないほうがよくないか。俺たちは、多額の借金を抱えてここに連れて来られた。借金をチャラにするためには協力し合わなければならない。知るべきことはそれだけで充分なはずだ」

「オレたち、今日から鈴木だもんね」パーカーの青年が頷き、自分の席に戻る。

「早く鈴木に慣れなきゃですね」ネルシャツが、さらに激しく目をしばしばさせて言った。「でも、ひとつだけ、すごく気になることがあるんです。どうして、家族を演じるだけで借金がチャラになるんでしょうか」

 わたしも同じ質問をスキンヘッドにした。しかし、「あんたには関係ない。どうやって金を生み出すかはこっちの仕事だ。とにかく、一年間、鈴木に成りきれ」と言って、肝心なことは何も教えてくれなかった。

 再び、重たい沈黙が食卓を包み込む。ここにいる誰も、借金がチャラになる仕組みは知らないようだ。

 考えられるのは不動産関係の犯罪だ。何せ、ここは世田谷の一等地なのである。ここに家族として住むことで不動産詐欺の片棒を担がされるとか……

 借金を返せたとしても、いずれ逮捕されて刑務所に入れられたらシャレにならない。何よりも不気味なのは、この《鈴木》と表札がかかった一軒家に、昨日まで人が住んでいたような雰囲気である。家具や食器棚の皿やキッチンの調理器具などがそのまま残されているのだ。

「やるしかないねん。ヤバい相手とわかってて借金してんから、身から出たサビや」わたしは自分に言い聞かせるように呟いた。「名前はどうする? 家族を演じるなら新しい名前を決めなあかんで」

「覚えやすい名前がいいだろうな」スーツの男が、わずかにネクタイを緩めた。「ヤクザからは、『近所の連中に家族じゃないとバレたらタダじゃおかない』と脅されているし、なるべくミスが起こらないように、前もって対処すべきだ」

「下の名前ぐらいは本名を使えばいいんじゃん」

 パーカーの青年が面倒臭そうに言った。

「ダメだ。それだと、どうしても他人同士の空気が出てしまう。家族なんだから、統一性を追求していかないと」

 ネルシャツの中年男が、椅子に座りながらおずおずと手を挙げた。

「あの……疑問があるんですけど……ヤクザさんがおっしゃった『タダじゃおかない』って具体的に何をされるんでしょうか」

「直接本人に訊けばいいんじゃん」

 パーカーの青年がケタケタと笑い、ジャガイモを口に放り込む。

 ……娘に会いたい。でも、そう簡単に会えない。もし会えたとしても他人のふりをしなければならない。わたしは、《鈴木》なのだから。

 夫と娘に、この仕事のことは説明した。浮気のバレた夫はうなだれ、「許してくれ。何でも協力するから」と涙を流した。娘は何も答えてくれなかった。ただ、無表情な顔でわたしを見つめていた。

「君は、いくつなん?」

 わたしはため息を飲み込み、パーカーの青年に訊いた。

「二十歳。最近まで大学生」

「どこの大学?」

「言ってもわかんないって。名古屋の三流大学だし。何も考えずに大学生活をエンジョイしてたんだけど、いきなり親父の会社が潰れちゃってさ。俺が二千五百万円の借金を肩代わりしなくちゃいけなくなったんだよね」

「君が肩代わりせなあかんの? お父さんは?」

「失踪。母親はショックで入院。姉貴が風俗で働いて借金返すって言い出したから、仕方なしに大学辞めてここに来たわけ」

 わたしと同じ、身代わりだ。急にパーカーの青年に親近感を覚えた。

「それは大変だったね。偉いなあ」ネルシャツの中年男が同情する。「私は福岡から来た。商売が失敗したんだ。共同経営をしていた親友が運営資金を持って失踪してね。何とか立て直そうとしたがダメだった。私も二千五百万円の借金がある」

「それって親友か」

 スーツの男が、皮肉めいた口調で訊く。

「今でも親友だと思っているよ」

 ネルシャツの中年男が、悲しそうに微笑んだ。

「おじさんは何の商売をしてたの?」

 パーカーの青年が訊いた。

「養鶏場だ。鶏たちを、いい環境の中でいい餌を与えて大切に育てる」

「大切に育てても業者に売り飛ばすんだけどな」

 スーツの男が鼻で嗤った。こいつは皮肉屋で人を見下すのが癖なのだ。

「それが仕事ですから」ネルシャツの中年男が目をしばしばさせて、わたしに質問してきた。「あなたは関西から来たんですか」

「大阪。カフェをやってたんやけど潰してもうてん。ずっと赤字やったから借金を繰り返して何とか店を続けてたんやけど……」

 さすがに恥ずかしくて本当のことは言えなかった。夫に相手にされなかった寂しい妻に見られるのもごめんだ。こいつらには、結婚していることも子供がいることも黙っていよう。そのほうが何かとやりやすい。

 暗い話が続き、場がしんみりとなる。ひとつだけ、ここに来てよかったことがあるとすれば、似た境遇の人たちと慰め合えることかもしれない。

 あと自分の話をしてないのは一人だけだ。全員が、スーツの男に注目する。

 しかし、スーツの男は冷たい目で睨み返してきた。

「俺の借金の理由は教えない」

「ちょっと、ずるいで。ウチらは喋ったのに」

「お前らが勝手にペラペラ喋り出したんだろうが」

「せこい男やな」

 わたしは納得できず、思わず平手でテーブルを叩いた。

「借金の額だけ教えてやるよ。お前らと同じ二千五百万円だ」

「全員、合わせて一億円かよ」パーカーの青年が手を叩き、自虐的に声を張り上げた。「すげえなオレたち。ダメ人間じゃん」

「どこからいらっしゃったのですか? それぐらいは教えてくださいよ」

 ネルシャツの中年男が、スーツの男に訊いた。

「……北海道だ」

 スーツの男が渋々と答える。

 大阪に名古屋に福岡に北海道……日本全国から集められている。スキンヘッドのいる暴力団がいかに力を持っているかがわかる。だからこそ、失敗は許されない。

「あの……根本的な問題があるんですけど」ネルシャツの中年男が、もう一度、おずおずと手を挙げた。「私たち、家族を演じるには、あまりにも似てなさ過ぎではないでしょうか」

 全員が互いの顔を見比べた。当たり前だ。似ているわけがない。

 
*  *  *

→次回第1話-5はこちら

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関連書籍

木下半太『鈴木ごっこ』
「今日から、あなたたちは鈴木さんです」。巨額の借金を抱えた男女四人が豪邸に集められた。彼らの責務は、ここで一年間、家族として暮らすこと。見知らぬ者同士が「家族ごっこ」に慣れてきたある日、貸主から次なる命令が下った。「隣の奥さんを寝取れ」。失敗したら四人に未来はない--。貸主の企みの全貌が見えた瞬間、想像を超えた“二重の恐怖”がつきつけられる! まさかのラスト7行で震撼!この恐怖にあなたは耐えられるか!?


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映画『家族ごっこ』 8月1日(土)公開!

「鈴木ごっこ」をはじめ、どこかズレた5組の家族が描かれるオムニバス作品。出演は注目を集める斎藤工、柄本時生をはじめ、でんでん、鶴田真由らベテラン勢も見逃せません。さらにはノンノモデルとしても活躍する新木優子、小林豊(「仮面ライダー鎧武/ガイム」)ら若手が勢いを与えます。監督は『グレイトフルデッド』が世界30以上の映画祭で上映、イギリス・ドイツでの配給も決定した内田英治監督と、今作が初メガホンとなる小説家・木下半太(「悪夢のエレベーター」「サンブンノイチ」)がタッグを組む異色作。また、今もっとも勢いにのるサブカル系アイドルグループ“ゆるめるモ!”がエンディングテーマを担当。メンバーの櫻木百は出演し演技も披露しています。シュールなファミリーたちの物語、どうぞご期待ください。

→映画「家族ごっこ」公式サイトはこちら

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