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2015.07.25

第1話-3

すれ違う4人の“鈴木”

木下 半太

すれ違う4人の“鈴木”

木下半太さんの最新作、『鈴木ごっこ』が映画化!オムニバス映画『家族ごっこ』内の同名作品(出演:斎藤工さんほか)として8月1日(土)から上映されます。これを記念し、物語の発端となる『鈴木ごっこ』緊迫の第1話を、映画初日まで毎日カウントダウン公開。小説と映画で異なるラスト。あなたは観るのが先?読むのが先?

最初の記事:第1話-1 わたしはカップラーメンを食べない
前回の記事:第1話-2 女が“鈴木”になった理由

借金まみれの4人が集められたのはとある豪邸。お互いの素性もわからぬまま、腹ごしらえのためにカップラーメンを作り始めたが――。


*  *  *
 

「二分だ」スーツの男が、偽のロレックスを見て時間を計る。「十秒……二十秒」

「将棋かよ」

 パーカーの青年が覇気のない若手芸人みたいにぼやく。

 わたしは自分に注目を集めたくて、わざとらしくため息をついた。

「近くに安いスーパーなかったらホンマに困るんやけど」

「どうですかね。ここは世田谷区の一等地ですからね。あったとしても高級スーパーとかでは……」

 ネルシャツの中年男が、不精髭を?いて大げさに顔をしかめた。

「コンビニがあれば問題ないって」

 パーカーの青年が能天気な声を出す。

「何言ってんのよ。毎日のご飯のことやで。カップラーメンばっかり食べてられへんやんか」

「今どきのコンビニには何でもあるじゃん」

「スーパーで食材まとめ買いして、自炊せな、生活できひんやろ。ヤクザから貰える食費が月五万やねんで」

 その他に家族に成りきるための新しい服代や雑費は貰えることになってはいるが、額は限られている。

「たしかに、切り詰めなきゃ厳しい額ですよね」

 ネルシャツの中年男が、興奮するわたしを宥めるように言った。この男は平和主義者のようだ。

「よしっ。二分四十五秒だ」

 スーツの男が、腕時計を見るのをやめて割り箸を割り、カップラーメンを美味そうに啜り出す。

「じゃあ、オレも」

 パーカーの青年も食べ始めた。カレー味のカップラーメンである。

 わたしはシーフード味で、なぜか、ネルシャツの中年男だけペヤングのソースやきそばだった。

「どうして、私だけペヤングなんでしょうか」

「ヤクザなりに気を遣ったんじゃねえの? 色々選べたほうが楽しいし」

 パーカーの青年が笑う。

「楽しいわけないだろ。俺たちはこの空き家で軟禁される身なんだから」

 スーツの男の言葉で、食卓の空気が一気に重くなる。

 わたしは沈黙に耐え切れず、空腹ではなかったがカップラーメンのシーフード味を一口食べた。今置かれている立場に現実味が湧かず、まったく味がしない。

「お湯、捨ててきますね」

 ネルシャツの中年男が、ペヤングを持って立ち上がる。背中を丸めてキッチンへと向かった。

「もしかして、このカップラーメン代、食費から引かれてるんとちゃうやろね」

 わたしは、眉をひそめた。

「どっちでもいいじゃん」

 パーカーの青年はどこまでも楽観的である。

「なんでよ? どうせ食べるんやったら、安くて美味しいものがええやんか」

「ちょー美味いよ。カレー味、最強。これで、二百円もしないって安いと思うけどなあ」

「高いわ。四人で八百円やで。そんだけあれば本格的なカレーが十人前はできるわ」

「ちなみに、そのカレーには何の肉が入っているんだ」スーツの男が鼻で嗤い、横槍を入れる。「本格を名乗るからには肉なしは認められないぞ」

「挽き肉を使ってキーマカレーが作れる。鶏の挽き肉やったらさらに安くなるし。あとは茄子とほうれん草でも入れれば充分本格的になるやろ」

 カフェのときは、《たらこのカルボナーラ》の次に、週替わりのカレーが人気メニューだった。

「うわっ。それ超美味そうじゃん」

 パーカーの青年が、カップラーメンのカレーの麺を口の中でモグモグさせて目を輝かせる。

「ご飯はどうするんだ。八百円でカレーの具の食材を買って、さらに白米まで購入できるのか」

「お米は安いところでまとめ買いするつもりやから計算には入ってへんよ」

 スーツの男の執拗な追及に、わたしはついムキになった。

「じゃあ、あんたが八百円で作れると豪語したのは、本格的なカレーではなく、本格的なカレーのルーだけだ」

 スーツの男が勝ち誇った顔で、カップラーメンのスープをゴクリと飲んだ。

「何なん……この人?」

 わたしはキレそうになって同意を求めたが、ネルシャツの中年男は苦笑いをするだけだった。

「ジャガイモ、うめえ」

 パーカーの青年は、わたしたちの小競り合いに興味を示さず、ひたすらカップラーメンを食べている。

 私の苦手なタイプと言えばスーツの男だが、この青年のお気楽な態度もムカつく。こんな連中と一年間、同じ屋根の下で過ごさないといけないなんて……吐きそうになってきた。

「この四角い肉には勝てないな」

 スーツの男が、カップラーメンからキューブ型の肉を取り出して見せつけ、今度はパーカーの青年に絡み始めた。

「くれるの? センキュー!」

「あげるわけないだろ。正気か、お前は? カップラーメンは、この四角い肉が魅力なんだよ」

「ケチケチすんなって。こっちのジャガイモあげるからさ」

 パーカーの青年が、自分の具のジャガイモを割り箸で摘み、勝手にスーツの男のカップラーメンに投入した。

「おい、何をするんだ! 味が混ざるだろ!」

 スーツの男が顔を真っ赤にして立ち上がる。

「そんなに怒らなくてもいいじゃん」

「レイプだぞ、これは! いきなり入れるな! 赤の他人の唾液を食べるほど俺は無神経じゃないんだよ!」

「大丈夫だって。オレ、病気とか持ってないからさ」

「謝まれ! 馬鹿野郎!」

 わたしは割り箸を置き、こめかみを指で押さえた。

「ちょっと、静かにしてくれる? 頭、痛いねん」

「アンタの頭痛にまで責任は持てないよ!」

「だから、うるさいって言うてんねん!」

 ダメだ。先行きが思いやられる。この男が鬱陶しくて主導権が握れない。そもそも、私にはリーダーになる素質がないのだ。中学校のときにクラス連中に押しつけられて生徒会長に立候補させられ、他に候補者がいなかったので当選してしまったが、結局は書記の仕事しかできなかった苦い思い出がある。

「どうしました? レイプって聞こえたんですけど?」

 ネルシャツの中年男が、慌ててキッチンから戻って来た。

「俺のカップラーメンがカレー味に犯されたんだよ」スーツの男が、ネルシャツの中年男が手ぶらなのに気づく。「ペヤングはどうしたんだ?」

「ちょっと……事情がありまして」

 ネルシャツの中年男が、また目をしばしばさせる。どうやら、癖らしい。

「もしかして、お湯を捨てるの失敗したのか」

「ご名答です。シンクにそばをぶちまけてしまいました」

「もったいねえ。オレが食べるよ」

 パーカーの青年が口をモグモグさせながらキッチンへ行こうとした。

 スーツの男が?然とした顔でパーカーの青年を見る。

「ギネス級の無神経だな、お前」

「シンクのやきそばを食べたぐらいでギネスに載るわけないじゃん」

「喩えに決まってるだろ!」

「はいはい、もうええから座ってや。話を進めるで」わたしは手を叩いて強引に二人のやりとりを止めた。「とりあえずは自己紹介からしよう。ウチらはこの一年間家族として過ごさなあかんねんから」

 
*  *  *

→次回第1話-4はこちら

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関連書籍

木下半太『鈴木ごっこ』
「今日から、あなたたちは鈴木さんです」。巨額の借金を抱えた男女四人が豪邸に集められた。彼らの責務は、ここで一年間、家族として暮らすこと。見知らぬ者同士が「家族ごっこ」に慣れてきたある日、貸主から次なる命令が下った。「隣の奥さんを寝取れ」。失敗したら四人に未来はない--。貸主の企みの全貌が見えた瞬間、想像を超えた“二重の恐怖”がつきつけられる! まさかのラスト7行で震撼!この恐怖にあなたは耐えられるか!?


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映画『家族ごっこ』 8月1日(土)公開!

「鈴木ごっこ」をはじめ、どこかズレた5組の家族が描かれるオムニバス作品。出演は注目を集める斎藤工、柄本時生をはじめ、でんでん、鶴田真由らベテラン勢も見逃せません。さらにはノンノモデルとしても活躍する新木優子、小林豊(「仮面ライダー鎧武/ガイム」)ら若手が勢いを与えます。監督は『グレイトフルデッド』が世界30以上の映画祭で上映、イギリス・ドイツでの配給も決定した内田英治監督と、今作が初メガホンとなる小説家・木下半太(「悪夢のエレベーター」「サンブンノイチ」)がタッグを組む異色作。また、今もっとも勢いにのるサブカル系アイドルグループ“ゆるめるモ!”がエンディングテーマを担当。メンバーの櫻木百は出演し演技も披露しています。シュールなファミリーたちの物語、どうぞご期待ください。

→映画「家族ごっこ」公式サイトはこちら

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