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2015.08.01

『給食のおにいさん』シリーズ最新刊発売記念

第2回 お前ら、口開けて待ってろ!!

遠藤 彩見

第2回 お前ら、口開けて待ってろ!!

スパイスは毒舌。隠し味は愛情。
子供嫌いの「給食のおにいさん」、登場!


給食のおにいさんが、帰ってきちゃった!? 

大人気「給食のおにいさん」シリーズの最新刊『給食のおにいさん 受験』(遠藤彩見著)が、8月5日に発売予定となりました。夢のために、ホテルで働き始めた佐々目が配属されたのは、なんと「給食課」!? そこで、ここまでの佐々目の奮闘の一部を、試し読み連載(全4回)にて掲載します。
給食のおにいさんのプライドに懸けて、あなたの心とお腹を満たします!

 

 

 自分は小学生の頃、どんな給食を食べていただろう。
 毛利と並んで若竹小の廊下を歩きながら、佐々目はおぼろげな記憶を探ってみた。
 カレーうどん、コロッケ、チョコデニッシュ。六年間も食べていたのに、すぐに思い出せたメニューはそれくらいだ。給食の時間に友だちと交わしたバカ話やたわいもないゲーム、小さなケンカの方がよっぽど思い出深い。
 美味(うま)かったとか不味(まず)かったとかいう記憶もない。給食なんて、歯を磨いたり顔を洗ったりするのと同じ、すぐに流れ去る日常でしかなかった。
「僕、嬉(うれ)しいです。給食調理場に、佐々目さんのような優秀な調理師さんに来ていただけて」
 隣を歩く毛利が、朗(ほが)らかに話しかけてきた。
 応えずに廊下の窓から外を見た。都心から電車で十五分、駅から自転車で十分、幹線道路二本に挟まれ、大型マンションや公営住宅が並ぶエリアにある若竹小は、眩(まぶ)しいほどの新緑に囲まれている。
 毛利は返事がないことを気に留める様子もなく続ける。
「校長先生もすごい方が来てくれるんですね、って。佐々目さんの経歴書を読んで驚いてましたよ」
 臨時給食調理員の募集元である区の教育委員会に提出した経歴書のことだ。調理師を目指し、故郷の茨城から上京して調理師学校の西洋料理科に入学してからの、十年間の経歴が書いてある。
 腕をふるってきたレストランやビストロ。
 新鋭料理人選抜コンクール優勝、日本アペリティフ協会主催コンクール準優勝、東日本創作料理コンクール特別賞、博多明太子オリジナルレシピコンテスト優勝、などなど十年で手に入れた十数個の賞。
 特記事項には、七年前、ル・コルドンブルーのパリ校で三カ月、フランス料理のベーシックコースを受けたことを書いた。特技はフードカービング。野菜やフルーツを彫って、花や動物、飾りものを作る技術のことだ。三年前、タイに一カ月滞在し、百時間コースを受けて学んだ。
「楽しみだなあ、佐々目さんに働いてもらえるの」
 子犬顔はめげずに笑顔で話しかけてくる。
「歓迎していただいて」
 蹴りを食らったことを皮肉ると、笑顔が泣き出しそうな表情にパッと切り替わった。
「すみません、あの時は必死でつい……。僕、あんな乱暴な真似をしたのは初めてです」
 ウソつけ、とチワワを思わせる黒い瞳を睨(にら)んでやった。初めてなわけがない。自分より一回り体が大きい男に、一撃で膝をつかせたのだ。この育ちの良さそうな見た目のどこに、あの凶暴性が隠れているのかと思う。
 毛利は国立の栄養大学を出て三年、キャリアはまだ浅いが、調理師一名と調理補助三名をまとめ、若竹小の給食調理を仕切り、子どもたちの食育も受け持っている。管理栄養士の資格に加えて調理師免許も持ち、食育に熱心なS区の教育委員会でも一目おかれている優秀な管理栄養士だという。
 S区の給食は手作りが基本だ。出汁(だし)やスープ、ソースなどもインスタントを使わず手作りする。加えて若竹小では毛利の提案で、野菜メニューを積極的に取り入れ、よりヘルシーな給食を目指しているという。
 教室棟と管理棟に分かれた校舎の真ん中から、裏門に向けて四角く張り出した給食調理場は、二年前に改装されたばかりだ。最新式のシステムを誇るように、廊下に面した壁は上半分が一面ガラス張りになっている。
 ガラスが途切れたところが、給食調理場に入るスライドドアになっている。毛利に続いて中に入ろうとして、足が止まった。
 ガラスの向こうの調理室へと目を向けた。何もかもが白とステンレスで統一され、徹底的に磨き上げられている。巨大な回転釜が中央に三台据え付けられている。まるで工場だ。
 準備を始めているのか、食品工場で着るような白衣の上下に衛生帽を身につけた人影が三つ、漂うように動き回っている。これから自分も、あの一員になるのだ。
「佐々目さん?」
 通路を入ってすぐの栄養事務室の入り口で、毛利が足を止めて促(うなが)すようにこちらを見た。
 一年。一年間だけだと自分に言い聞かせた。妥協も我慢も退屈も覚悟の上だ。生きるために自分で選んだ道だ。
 ――お前ら全員ビビんなよ、この俺のスキルを見て。
 空元気を出し、その勢いでスライドドアへの中へと足を踏み入れた。

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