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2015.07.30

『給食のおにいさん』シリーズ最新刊発売記念

第1回 一流シェフで子供嫌いのオレが、給食のお兄さん!?

遠藤 彩見

第1回 一流シェフで子供嫌いのオレが、給食のお兄さん!?

スパイスは毒舌。隠し味は愛情。
子供嫌いの「給食のおにいさん」、登場!


給食のおにいさんが、帰ってきちゃった!? 

大人気「給食のおにいさん」シリーズの最新刊『給食のおにいさん 受験』(遠藤彩見著)が、8月5日に発売予定となりました。夢のために、ホテルで働き始めた佐々目が配属されたのは、なんと「給食課」!? そこで、ここまでの佐々目の奮闘の一部を、試し読み連載(全4回)にて掲載します。
給食のおにいさんのプライドに懸けて、あなたの心とお腹を満たします!

 
 

 ――この俺が、こんなところで働くのかよ。
 メッセンジャーバッグを乱暴に探っていた手を、いつしか止めていた。校門の手前で自転車を止めたまま、佐々目宗(ささめそう)は改めて若竹小学校と、登校する子どもたちの波を眺めた。
 舞い散る桜の花びらと一緒に、大小さまざまな子どもたちがくるくると入り乱れる。喋り、歌い、騒ぎ、互いを追いかけて走り回る。
「おじいちゃん! おとうさん! おじいちゃん! おとうさん!」
 黄緑色のランドセルを背負った男の子が意味不明なフレーズを絶叫している。サングラスのレンズで薄いグレーに陰った視界を、スキップしながら横切っていく。小型のエイリアンを見ている気分だ。
 小学生の生態なんて、まともに見るのは初めてかもしれない。二十八年の人生で子どもと接したのは、自分が子どもだった時だけだ。美食――大人の愉しみの世界で十年頑張ってきた今になって、お子様ランチの世界に戻るとは思わなかった。バッグの中で手に触れた紐(ひも)を引っ張り、真新しい身分証を引きずり出した。
『東京都S区立若竹小学校 臨時給食調理員 佐々目宗』
 顔写真の下には、自転車で二十分ほどの場所にあるワンルームマンションの住所と携帯電話の番号。有効期限は来年の三月末日。この四月から、一年間の契約で若竹小の給食調理場で働く。新年度を迎え、給食が始まる今日が最初の出勤日だ。
 校門を通過するために身分証を首に掛けていると、太腿にとん、と小さい頭がぶつかった。やばい、というようにこちらを見上げた男の子とサングラス越しに目が合った。真新しい黄色い帽子の下に、ピンポン玉に小さい目鼻を描いたような大人しそうな顔。小さい体が大きめのトレーナーとハーフパンツを持て余しながら、紺色のランドセルを重たそうに背負っている。
 さっさと去ればいいのに、男の子はこちらを見つめたまま立ちすくんでいる。弱々しい視線が、佐々目のサングラスから黒のブルゾン、デニム、ブラックレザーのワークブーツ、黒のメッセンジャーバッグ、黒の自転車と下っていき、地面で固まった。小学校とはおよそ縁がなさそうな、でかい男に怯(おび)えているようだ。
 何か言ってやらなければいけないようで焦(あせ)った。何を言えばいいのか分からず、とにかく勢いだけで口走った。
「ね、もういいからいいから、大丈夫大丈夫、ねっ?」
 遥か下の小さい頭は、じっとうつむいたままだ。
 聞こえなかったのかと思い、少し声を強めて「大丈夫だから」と繰り返すと、小さい頭がピクッと動いて「うう」と声がした。何と言ったのか聞き取ろうと身を屈(かが)めた瞬間「うえ、えええ!」と鋭い泣き声に跳ね返された。
「え、俺、なんか悪いこと言った!?」
 急いで自転車から降りると、男の子はガッと飛び退(の)き、さらに大きな声で泣き叫んだ。校門で子どもたちを出迎えていた警備員が二人、「どうした!?」と駆けつける。何事かと取り囲んだ子どもたちが、恐怖の表情で佐々目を遠巻きに見ている。慌てて成り行きを説明しようとした時、「佐々目さん」と鋭い声がした。
 校門の中から、身分証を首から掛けた痩せた男が駆け出してくる。今日から上司になる若竹小の学校栄養職員、毛利恵太(もうりけいた)だ。艶のある短髪に黒目がちな瞳、柔らかく「へ」の字を描いた口元。佐々目より三歳ほど若い色白の子犬顔が、あっという間に右肩に迫った。
「早く、その子に謝って」
「謝れって?」
 小声で急かされ、訳がわからず問い返した。毛利は応える時間も惜しいかのように、佐々目の掛けているサングラスを取り、両肩を屈めといわんばかりにぐっと下へ押さえつけた。
「あの子は佐々目さんを怖がってるんです。目線を合わせて口調は優しく気持ちを込めて、怖がらせて『ごめんね』。早く!」
「何で『ごめんね』!? 俺、何も悪いことしてないけど」
「子どもを泣かせるのは罪です。早く!」
 毛利は細身の体でぶらさがるように、両肩を下へと押さえつける力を強めてくる。下からは男の子の泣き声が鋭く突き上げてくる。下手に目線など合わせたら弾き飛ばされそうな勢いだ。中腰の状態でためらっていると、ふいに膝裏に衝撃が走った。折れた両膝がコンクリートの地面に叩(たた)き付けられ、鋭い痛みが膝頭に炸裂した。毛利に膝裏に蹴りを入れられたのだ。
 ひざまずかされた目の前に、涙と洟(はな)でぐしゃぐしゃの男の子の顔が迫る。濃いまつ毛に縁取られた瞳から涙がとめどなく溢(あふ)れては、つるりとした赤い頬をつたう。小さい歯を食いしばった口から悲しげなうめき声が聞こえてくる。凄(すさ)まじい光景に頭の中が真っ白になった。命乞いのように、言葉が勝手に口をついて出た。
「ご、ごめんね」
 動揺で声が少し裏返ってしまったのが情けない。
 毛利がすかさず横で屈み、アイロンの効いたパンツのポケットから真っ白いハンカチを出しながら、男の子に優しく話しかけた。
「大丈夫だよ。この人はね、給食のおにいさん。みんなにおいしい給食を作ってくれる人だよ。ほら、名札もあるでしょ?」
 首に掛けた身分証を毛利に引っ張られ、がくんと前屈みになった。その間抜けな姿を見て安心したのか、男の子は毛利に顔を拭かれながら、次第に泣き止んでいく。
 助かった、とほっとした。そしてどうしても言わずにはいられなかった。
「給食のおにいさん、じゃないから。俺は、調理師」
 つい、独り言のような小さい声になってしまったことが悔しかった。

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