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2015.07.24

第1話-2

女が“鈴木”になった理由

木下 半太

女が“鈴木”になった理由

『悪夢のエレベーター』をはじめとする「悪夢」シリーズほか、次々とヒット作を生み出している木下半太さんの最新作、『鈴木ごっこ』が映画化!8月1日(土)からオムニバス映画『家族ごっこ』内の同名作品(出演:斎藤工さんほか)として上映されます。

これを記念し、物語の発端となる『鈴木ごっこ』緊迫の第1話を、映画初日まで毎日カウントダウン公開します。小説と映画で異なるラスト。あなたは観るのが先?読むのが先?

前回の記事:第1話-1 わたしはカップラーメンを食べない


*  *  *
 

 人生はそんなに甘くはなかった。大阪で幸せに暮らしていたわたしは、二ヵ月前、糸の切れた凧みたいに急転直下した。

 夫はデザイン会社を経営していたが、税金対策のため大阪の新町で隠れ家的なカフェを運営していた。一人娘が中学受験を無事に終え、子育てが一段落したわたしは、夫のカフェで気晴らしがてら働くことにした。

 昔から料理を作るのが好きで、学生時代のアルバイトはいつも飲食店の厨房だったし、夫が仕事に忙殺されてなかなか家に帰って来ないのも大きな理由だ。料理は、誰かが食べてくれないとやりがいに欠ける。

 わたしの料理は好評だった。とくにランチで出している《たらこのカルボナーラ》は人気メニューで、関西の情報誌が取材に訪れたこともある逸品だ。隠し味にアンチョビを利かせ、クリームを使わず卵だけでパスタを和えるのがコツである。

 混んでいた週末の夜、最後の客が帰り、店の後片付けをしようとしたときにその男は現れた。スキンヘッドで、夜だというのにサングラスをしていた。首が太く、革ジャンがピチピチになるほど胸の筋肉が盛り上がっている。明らかに一般人ではない雰囲気を身に纏っていた。

「あんたの旦那には二千五百万円の借金がある」

 カウンターに座ったスキンヘッドの言葉に、わたしは拭いていたグラスを落としそうになった。

「い、意味がわからないんですけど」

 たしかに夫が独立してから業界の景気が年々悪くはなっているが、そんな馬鹿げた額の借金を抱えるほどではないはずだ。

「旦那の火遊びが原因だ」

「えっ……」

 絶句した。夫の浮気を怪しんだことはなかった。女に慣れているタイプではないことに安心して、伴侶として選んだのだ。誠実さだけがウリの男だったのに……。

「出会い系で若い女とやって孕ませた。しかも、その女の子がウチの会長の孫ときた。漫画でもなかなかないような最悪の話だろ。で、アンタに慰謝料と迷惑料を払ってもらうことになった」

 ……ウチの会長? やはりスキンヘッドは筋者なのか。

「どうして、わたしが……」

 青天の霹靂にもほどがある。やっと仕事が終わったから、近くのスペインバルの冷えた白ワインと海老とアボカドのアヒージョを楽しみにウキウキしていたというのに。

「旦那に二千五百万円を用意できる器量はないだろ? すぐに返せるか?」

 蓄えはあるにはあるが、大した額ではない。

「そんなお金はありません……」

 両親は、吹田市の商店街で細々とクリーニング屋を営んでいる。二千五百万円なんて額を聞けば卒倒するだろう。

 あまりのショックに、怒りや悲しみといった感情が湧いてこなかった。

「金がなくとも何とかして返さなきゃならないな。それが大人の責任ってものだ」

「あの……どうすればいいですか」

「二つ提案できる。一つ目は風俗嬢になって地道に返す方法だ。だがあんたの器量ならソープで働いたところで一日に一人の客がつけばいいほうだろうな。完済するのに十年以上かかるぞ」

 血の気が失せた。しかも、風俗嬢としての価値もないと言われ、酷く心が傷ついた。

「二つ目は……」

 わたしは、涙目になりながら訊いた。

 スキンヘッドがわざとらしくニタリと笑った。

「鈴木になるんだよ」

「……はあ?」

 鈴木? 何を言われているのかわからず、頭がクラクラとしてきた。

「東京の世田谷の一等地に空き家がある。そこで鈴木家に成り済まして暮らせ。それで二千五百万円の借金はチャラにしてやる」

「あの……一人で暮らすんですか」

 スキンヘッドは焦らすように、またニタリと笑った。

「いいや。赤の他人たちと家族ごっこをしてもらう」

「家族ごっこって言われても……」

 限りなく胡散臭い話である。しかし、他に選択肢はない。

「まあ、単身赴任みたいなものだ。俺も仕事のために美人の嫁と別々に暮らしている。我慢しろよ」

 気のせいか、スキンヘッドが寂しそうに見えた。

 
*  *  *

→次回第1話-3はこちら

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関連書籍

木下半太『鈴木ごっこ』
「今日から、あなたたちは鈴木さんです」。巨額の借金を抱えた男女四人が豪邸に集められた。彼らの責務は、ここで一年間、家族として暮らすこと。見知らぬ者同士が「家族ごっこ」に慣れてきたある日、貸主から次なる命令が下った。「隣の奥さんを寝取れ」。失敗したら四人に未来はない--。貸主の企みの全貌が見えた瞬間、想像を超えた“二重の恐怖”がつきつけられる! まさかのラスト7行で震撼!この恐怖にあなたは耐えられるか!?


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木下半太『悪夢のはじまり 「悪夢」シリーズ試し読みパック+書き下ろし短編「ときめき過ぎる男」』
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映画『家族ごっこ』 8月1日(土)公開!

「鈴木ごっこ」をはじめ、どこかズレた5組の家族が描かれるオムニバス作品。出演は注目を集める斎藤工、柄本時生をはじめ、でんでん、鶴田真由らベテラン勢も見逃せません。さらにはノンノモデルとしても活躍する新木優子、小林豊(「仮面ライダー鎧武/ガイム」)ら若手が勢いを与えます。監督は『グレイトフルデッド』が世界30以上の映画祭で上映、イギリス・ドイツでの配給も決定した内田英治監督と、今作が初メガホンとなる小説家・木下半太(「悪夢のエレベーター」「サンブンノイチ」)がタッグを組む異色作。また、今もっとも勢いにのるサブカル系アイドルグループ“ゆるめるモ!”がエンディングテーマを担当。メンバーの櫻木百は出演し演技も披露しています。シュールなファミリーたちの物語、どうぞご期待ください。

→映画「家族ごっこ」公式サイトはこちら

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