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2015.07.19

ド田舎で働く公務員のお仕事ミステリー(天祢涼『謎解き広報課』)

池澤 春菜

ド田舎で働く公務員のお仕事ミステリー(天祢涼『謎解き広報課』)

『謎解き広報課』
天祢涼
幻冬舎刊/1400円(税別)

 

 専門職のお話は面白い。その職業ならではの常識や非常識があり、本人たちは当たり前だと思っているすごい技術がある。自分自身が偏った専門職の世界にいるからか、そういう方達のお話をお伺いするのが大好きだ。

 それにしても……地方公務員、しかも広報課とは。専門職にしても、なんという狭きピンポイント。

 天祢涼の『謎解き広報課』、主人公はL県の町役場に就職した新藤結子。このご時世に無事就職、さぞややる気と覇気に溢れてるかと思いきや、地元愛も、仕事に対する意気込みも皆無。「生活に疲れ果てた、夢も希望もなさそうな」と掃除のおばちゃんにまで言われてしまうほど。実は結子さん、諸事情あって就活したものの、一年だけ淡々と務めたらさっさと辞表を出して東京に戻ろうと考えていた。

 配属されたのは、広報課。ド、のつく田舎の高宝町、広報課と言ってもたいして広報することもなさそうだし……と思っていたら、これが大間違い。上司の伊達から早々に「広報紙を変えましょう」との拝命を受け、各課からのお知らせをまとめただけだった文字ばかりの四ページが、十六ページ、特集あり、カラーページあり、コラムあり、の大仕事へ変貌。

 しかも、この伊達さん、毎回せっかく書きあげた原稿に目眩がするほど真っ赤な修正を入れて返してくるわ、もの柔らかな笑顔で丁寧に罵倒してくださるわ、ラクダの背も折れよとばかりにお仕事を積み上げてくるわ……これは大変良い黒縁鬼畜眼鏡です。しかも、何やら過去あり裏あり、な爪を隠した能ある鷹。なおかつ眼鏡は苗字の通り伊達眼鏡で、外すと実はイケメンという定石もきっちり押さえてる。

 結子さんの円満離職の前に立ちはだかるは、鬼上司に、膨大な編集作業。何もない田舎町のはずが、なぜか次から次へと事件も勃発。この謎を解かなければ広報紙が危うい、広報紙が危ういということは結子さんも危うい(主に伊達さんのダメ出しのおかげで)。

 五章からなるお話は独立しているようでいて、きちんと積み重なっている。一つ一つは単独の事件が絡み合って、結子さんの抱えている過去、伊達さんの過去、町民やそれを取り巻く人々、最終的には広報紙の未来にまで繋がっていく様は読んでいて本当に気持ちがいい。

 五月号の特集は、「防災」。取材対象は、40年間続いているという由緒ある高宝町の自主防災組織だ。率いる田村さんは、三年前に愛妻を亡くすも立ち直り、以来、若者も巻き込んで精力的に活動に取り組んできた。ところが、結子さんの取材直後に、いきなりの解散宣言。ここで辞められては、せっかくの取材が無駄になる。なんとか心変わりの謎を解こうとする結子さん。

 六月号では、人気アニメやゲームの舞台となった場所を盛り上げる聖地巡礼誘致に関するいざこざを。九月号では、写真だけは上手いと褒められた結子さんの取材写真を消した犯人探し。十二月号は地方医療の深刻な問題点を。そして一月号、さらには広報紙そのものの存在理由にまで踏みこむ。何故か毎回、無事広報紙を出すために事件を解決してはさらに困った立場に陥る結子さんの運命やいかに。

 正直、今までなんの関心もなかった、地方の町の広報紙がこんな風に編集され、こんな思いを載せているのかと、目から鱗。

 作中、鍵の一つとなる全国広報コンクールも、内閣総理大臣賞も、調べてみたら実在した。岩手県藤沢町(現・一関市)の「まちの総合情報誌Fujisawa」は2009年度の内閣総理大臣賞を受賞していたし、福岡県赤池町(現・福智町)の「広報あかいけ」は特選・内閣総理大臣賞を3度も受賞する広報紙界のエースだった。念のため調べてみた「こうほう日和」は、あくまで物語上の存在だったけれど、そこに存在する悩みは実在する。そして、それぞれの地域に真摯に取り組む広報マンがいる。物語として読んでいたつもりが、現実に着地している。そのさじ加減が心地よい。

 どんな仕事にも、責任と誇りがあり、関わる人たちにさまざまな影響を及ぼす、という当たり前のことに気づかせてくれる。やはり、専門職のお話は面白い。

 狭いようでいて広い、そして深い広報紙の世界、まだまだ書けるタネがある気がする。高宝町の今後と、結子さんの未来、そして気づかぬは本人ばかりなり、な、結子さんを取り巻く三角関係も気になる。ぜひぜひ続刊を。

『ポンツーン』2015年7月号より

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関連書籍

天祢涼『謎解き広報課』
田舎の町役場に就職した、都会育ちの新藤結子。やる気も地元愛もゼロの新人が任されたのは広報紙づくり。「来年で仕事を辞める」と心に決めながら、取材と締め切りに追われる結子。ある日、町立病院の院長から「難病で死んだ息子を記事にしてほしい」と頼まれるも、死因に不審な点があることに気付く――。仕事熱が高すぎる上司・伊達、暴言連発の町長・鬼庭、東京から左遷されてきた新聞記者・片倉たちに囲まれながら、事件解決に奔走する彼女の公務員生活1年目。 クセモノ公務員が勢揃いのお役所ミステリーです。

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