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2015.07.23

第1話-1

わたしはカップラーメンを食べない

木下 半太

わたしはカップラーメンを食べない

『悪夢のエレベーター』をはじめとする「悪夢」シリーズほか、次々とヒット作を生み出している木下半太さんの最新作、『鈴木ごっこ』が映画化!8月1日(土)からオムニバス映画『家族ごっこ』内の同名作品(出演:斎藤工さんほか)として上映されます。

これを記念し、物語の発端となる『鈴木ごっこ』緊迫の第1話を、映画初日まで毎日カウントダウン公開します。小説と映画で異なるラスト。あなたは観るのが先?読むのが先?


*  *  *
 

 四月一日。

 気が滅入るような小雨がシトシトと降り続く午後十一時、わたしは膝の上で両手を握り締めてじっと食卓を見つめていた。

 それは美しい食卓だった。誰もが憧れるような。すべての家族が笑顔になるような。

 ──インターホンが鳴った。

 とうとう、やってきた……。緊張でキリキリと胸が痛くなる。

 わたしは両足を引きずるようにして玄関へと向かい、重いドアを開けた。

 玄関の灯りの下に、男が三人立っていた。顔色が酷く悪く、滲み出る負のオーラに、彼らがひと目で不健康だとわかる。

 彼らを乗せて来た黒いワンボックスカーが、住宅街の中を静かに去っていく。

 わたしは、無言のまま男たちをリビングまで案内した。男たちは背中を丸め、顔を強張らせながらキョロキョロと家中を見渡したあと食卓の木の椅子にぐったりと腰を下ろした。

「腹減った……」

 気まずい沈黙を破ったのは、わたしの向かいに座っているスーツの男だった。

「カップラーメンならキッチンの戸棚にあったで。冷蔵庫の中は空っぽやけど」

「ふうん」

 スーツの男が、わたしの関西弁に反応して眉を上げた。

 年齢は三十代前半だろうか。紺色のスーツの生地は明らかに安物で、手首のロレックスも偽物だ。細身で筋肉質、肩幅も広い。耳が隠れるほどの長さの髪を整髪料で丁寧に撫でつけている。美形ではあるけれど、眼光は鋭く冷たい印象がする。チンピラ風のキツネといったところか。

「ヤカンはありますかね」

 左隣に座るネルシャツの中年男が、愛想笑いを浮かべた。

「調理器具はひと通り揃ってるみたいやね。湯沸かしポットもあったし」

「僕が作りますね」

 ネルシャツの中年男がぎこちない動きで立ち、いそいそとキッチンへと移動した。シャツの下にはチノパンを穿いている。年齢はスーツの男よりも上だ。四十代後半、もしくは五十歳を超えているかもしれない。白いものが混じった髪は無造作に伸び、不精髭も薄らと生えていた。目の下の隈が酷く、くたびれたトカゲみたいな顔で、小柄でそこまで太ってはいないがお腹はぽっこりと出ている。この異常な状況に動揺しているのか、一番落ち着きがない。

 また沈黙が訪れた。ネルシャツの中年男がドタバタと戸棚を開けたり、ヤカンを出す音が響く。

 パーカーの青年が怠(だる)そうに欠伸(あくび)をした。年齢は二十歳前後。少年の面影がまだ残っている。背は高いがリスのような小動物系の童顔で、学生にしか見えない。グレーのパーカーの下にはアメコミのイラストのTシャツ。ジーンズは膝が破けている。短髪で健康的に日焼けをし、いかにもスポーツやアウトドアが好きという感じだ。

 お湯が沸き、食卓に並べられたカップラーメンにお湯が注がれる。

「みんな、硬め派? それとも柔らかめ派? どっち?」

 スーツの男がぶっきらぼうに言った。

「……何の話ですか?」

 ネルシャツの中年男がおずおずと訊き返す。

「麺の加減だよ。ちなみに俺はちょっとだけ硬めが好みなんだけどな」

「私も硬めが好きですね」

「じゃあ、カップラーメンは二分四十五秒ぐらいで食べるのか」

「そこまで細かく言われても……」

 どうやら、スーツの男は神経質な性格のようだ。さっきから、しきりに貧乏揺すりをしている。

「どっちでもいいんじゃね。硬くても柔らかくても」パーカーの青年が話に割り込む。「て、言うか、オレは今まで、きっちり時間なんか計ったことねーし。カップラーメンなんだから味なんかそんなに変わんないっつーの」

 若者特有の軽い口調だ。まるで他人ごとのように、食卓の下で足をブラブラとさせている。

「近くにスーパーはあるのでしょうか」

 ネルシャツの中年男が不安げに目をしばしばとさせる。

「コンビニならあったで。ここに連れて来られるとき、ワゴンのカーテンから覗いたんやけど」

 わたしは無理やり会話に参加した。コミュニケーションを取るなら早めのほうがいい。どうしても、主導権を握る必要があるのだ。

「どのコンビニだ」

 スーツの男が、高圧的な口調で噛みついてくる。

「たぶん、サンクスやったと思うけど……」

「たぶん? 目撃したのにどうしてわからないんだよ」

「チラッと見ただけやし」

「たとえ一瞬でもわかるだろうが。それとも、二十四時間営業していないようなマイナーなコンビニだったわけか? オーナー店長がずっとレジに立っているような、なんだか少し切ない感じのコンビニだったのか?」

 嫌だ、この男。早口で捲し立てられたら何も言えなくなる。

「どうでもいいじゃん」

 パーカーの青年が、もう一度欠伸をする。

「よくない」スーツの男が苛つきを隠さずに細い目で全員を睨みつけた。「今日から一年間、俺たちはこの家に住むんだぞ」

 
*  *  *

→次回第1話-2はこちら

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関連書籍

木下半太『鈴木ごっこ』
「今日から、あなたたちは鈴木さんです」。巨額の借金を抱えた男女四人が豪邸に集められた。彼らの責務は、ここで一年間、家族として暮らすこと。見知らぬ者同士が「家族ごっこ」に慣れてきたある日、貸主から次なる命令が下った。「隣の奥さんを寝取れ」。失敗したら四人に未来はない--。貸主の企みの全貌が見えた瞬間、想像を超えた“二重の恐怖”がつきつけられる! まさかのラスト7行で震撼!この恐怖にあなたは耐えられるか!?


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映画『家族ごっこ』 8月1日(土)公開!

「鈴木ごっこ」をはじめ、どこかズレた5組の家族が描かれるオムニバス作品。出演は注目を集める斎藤工、柄本時生をはじめ、でんでん、鶴田真由らベテラン勢も見逃せません。さらにはノンノモデルとしても活躍する新木優子、小林豊(「仮面ライダー鎧武/ガイム」)ら若手が勢いを与えます。監督は『グレイトフルデッド』が世界30以上の映画祭で上映、イギリス・ドイツでの配給も決定した内田英治監督と、今作が初メガホンとなる小説家・木下半太(「悪夢のエレベーター」「サンブンノイチ」)がタッグを組む異色作。また、今もっとも勢いにのるサブカル系アイドルグループ“ゆるめるモ!”がエンディングテーマを担当。メンバーの櫻木百は出演し演技も披露しています。シュールなファミリーたちの物語、どうぞご期待ください。

→映画「家族ごっこ」公式サイトはこちら

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