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2015.07.09

第十五回

某アイドル、Iさん

小嶋 陽太郎

某アイドル、Iさん

  梅雨ですね。
 どうやら2015年も半分が終わったようで、びっくりしています。
 あとこの前、かねてよりマズイと定評のあるそば屋で食事をして、本当にマズかったので驚いた。
 そんな何かと驚きがちな僕ですが、先日、某アイドルと一緒にラーメンを食べた。
 某アイドルというのも野暮ったい言い方なので仮にIさんとしておく(頭文字ではない。IDOLのI)。
 Iさんは某人気アイドルグループ(タモリさんの音楽番組に出るくらい人気)の、いわゆる中心メンバーである。僕はデビュー以来彼女が好きだ。
 そんなIさんと、まさかいっしょにラーメンを食べる幸運な日が来るとは思わなかった。なんでこんなことになったんだろう……。
 僕とIさんは小ぶりな四人掛けのテーブル席に二人で向かい合って座った。
 店内はがやがやとしていて小汚く、足元には前の客がこぼしたのであろう脂っぽいスープが水たまりというか脂だまりをつくっていた。
 実物のIさんはテレビで見るよりもさらに二億倍ほどかわいく、かつ美しく、しかし気取りがなかった。服装は芸能人らしくなく、いたってシンプルで、無印良品で上から下まで十分でささっと選んだというような感じだった。しかし決して地味という印象はない。そのナチュラルな飾らなさが本人の魅力を最大限に引き出していて、果てしなく素敵である。
 そんな彼女が汚いラーメン屋の汚いテーブル席に収まってラーメンをうまそうにすする姿には妙にぐっとくるものがあった。
 僕は意外にも緊張でガチガチになったりせず、かねてからの友人であるかのように自然にリラックスして彼女と談笑することができた。歳が近いということも大きかったのかもしれない。彼女はテレビでは見せない素の表情というものを見せて、ときにはけらけらと笑ってくれた。
 最初は他愛もないことを話していたが、いつしか話題は「Iさんがアイドルという職業をやっていることについて」になった。
「子供のころからアイドルに憧れていたというわけではない。ただ、どういうわけか成り行きでアイドルになってしまった。なってしまったからにはプロとして、グループとしての活動も、個人での活動も、よりよいものをファンに届けられるように、必死にやらなければいけないと思っている」
 そんなことを、まっすぐな目で彼女は語った。
 Iさんはどちらかといえば落ち着いた、クールな印象が強い、あまりアイドル然とはしていないアイドルである。
 知的な雰囲気ながらもところどころ凡人らしからぬ変わったところがあって、それが彼女のトリッキーな魅力にもなっている。
 僕は彼女の中に、アイドルという職業に対して、よく言えば客観的な、悪く言えば客観的すぎる、冷めたところがあるのではないかと思っていた。どうしてもアイドルになりたいという思いで飛びこんだ世界ではないのだから、きっとそうだろうと。
 しかし自分の職業について語る彼女の目にはプロとしての意識の高さと、グループに対する熱のようなものが垣間見えた。ふだん彼女がテレビでは見せない隠された一面を知れたような気がして、そんなIさんに、僕はますます好感を持った。
 同時に、どうして僕がデビュー以来、無数に存在するアイドルの中でIさんをずっと好きなのか、その理由がわかったような気がした。
 それはたぶん彼女が、自分の仕事や所属するグループ、その中での立ち位置に対して客観的かつ冷静な視点を持ちつつも、その奥に、ごく人間らしい熱さもバランスよく持っているからだ。
 だからこの日、Iさんの口から彼女の仕事に対する思いを直接聞いた僕は、とても腑に落ちたような気持ちになっていた。そうか、だから彼女はこんなに魅力的なのか……。
 それにしても、まさか本人の口からこんな話が聞けるとは、これはなかなか体験できることではない。
 僕は感動と、いくぶんの得意な気持ちを覚えつつ会計を済ませ、店の外に出た。
「お茶でも飲みながらもう少し話しませんか?」
 ちょうど喫茶店の横を通りかかったところでIさんが言った。
「いいんですか?」
 僕はIさんの誘いに乗って、喫茶店の扉を開けた。あまりに幸せな時間だ。
 こんなことが僕の人生にあって許されるのか?
 だから目が覚めて夢だと判明したときには本当にびっくりした。
 そしていまこれを読み返して、こんなところで好きなアイドルについて本気の考察を語っている自分の気持ち悪さにも驚いた。
 近頃の僕は、何かと驚きがちである。

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