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2015.06.25

前編

生きるのがつらい人が多すぎる

pha

生きるのがつらい人が多すぎる

 仕事のために自分の生活を犠牲にするのっておかしくない?
 家族を作ることだけが正しい生き方なの?
 いつもお金に追いかけられてる感じって変じゃない?

 京大卒・日本一有名な“ニート”として知られるphaさんが、こんな問いを投げかけて、新しい生き方を提案したのが、新刊『持たない幸福論~働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない~』。
「そんなこと言われたって、会社は辞められないし、家族だっているし、お金は欲しいし……。自分とは違う世界の話だから、読ーまない」と、思いこんでいるかた、いませんか?
 シガラミを全部捨てたいわけじゃないけど、しんどくて溜息をつきたい夜もある――そんなあなたにこそ、phaさんの言葉が、静かに深くしみこむはず。
 phaさんのしなやかなマニフェストでもある「はじめに」を、2回に分けて紹介します。

 

◎なんでこんなにみんなしんどそうなんだろう?

 最近自分の周りを見ても、ニュースを見ても、生きるのがつらそうな人が多いなと思う。

 会社でうまく働けなくてつらい、薄給なのに仕事がキツくてつらい、職が見つからなくてつらい、収入が不安定で人生の先行きが見えなくてつらい、お金がなくて生活が苦しくてつらい、結婚したいけれど相手が見つからなくてつらい、結婚したけどうまくいってなくてつらい、子育てで疲れ果ててつらい、親の介護の負担が大きくてつらい、家族と仲が悪くてつらい、自分が抱えている病気でつらい、など、人によってつらい理由はそれぞれ違うけれど、常にみんな何かに追われているかのように余裕がなくて疲れていて、そうして疲れきった人たちの一部が、ときどき事件を起こしてしまってニュースに上がってきたりする。

 この社会では、なんでこんなにみんなしんどそうなんだろうか?

 そりゃあまあ二千五百年ほど前に既にお釈迦様が「生きることは苦である」みたいなことを言ってたくらいだし、ヒトという大脳が異常に発達して余計なことを考えすぎる生き物が生きるというのは根本的に苦しさがついて回るものなのかもしれない。

 しかしそれでも、これだけ文明が発達したんだから、もうちょっとなんとかならないものだろうかと思う。今の日本は物質的にも豊かで文化も充実していて治安もいいのに、こんなに生きるのがつらそうな人が多いのはちょっと変じゃないだろうか。

 お金の問題なんだろうか? みんなお金があれば幸せになるんだろうか?

 確かにお金は大事な要素だ。困っている人の悩みのほとんどはお金で解決できる。お金は万能だ。今の社会で生きるのが苦しい人が増えたというのは、昔に比べて景気とか雇用とかが悪化してお金のない人間が増えたからという面はあるだろう。

 でもだからといって「じゃあお金の力でなんとかしましょう!」という方向に行ってもあまり解決しなさそうな気がする。

「お金があれば解決します、だからもっと頑張ってお金を稼ぎましょう!」ってみんなに言っても、その方向性でなんとかなるのはうまく稼げる一部の人だけで、多くの人はそんなに稼げるわけじゃない。「もっと働かなきゃ、もっと稼がなきゃ」と焦って仕事に追われることで、逆に過労やストレスで不幸になる場合も多そうだ。しかも、そこそこお金を稼いでいたとしても、事故とか病気とか災害とか不安の種は無数にあるから、完全に備えようとするといくらでもお金がかかってしまって、何億円も資産があるような富豪以外は「お金があるから安心」という感じにはならなさそう……。

 また、お金に困る人が増えた原因の一つである、国全体を取り巻くような景気だとか経済だとかそういう要素は一人ひとりが頑張って変えられるようなものではない。「景気を良くするために国民みんなで死ぬほど働きましょう!」みたいな社会は地獄だなーと思うし、あんまりそこを頑張っても仕方ないだろう。

 そもそも、日本はなんだかんだ言っても世界の中では金銭的に裕福で恵まれているほうだと思う。それなのにこんなに生きるのがつらい人が多いのはなんでなんだろうか。

 

◎プレッシャーが強くてセーフティーネットが弱い社会

 今の日本で生きるのがつらい人が多い原因は、単純にお金がないとかいう問題より、社会を取り巻いている意識や価値観の問題が大きいと思う。今の社会では、生きていると常に外から内からプレッシャーをかけられているように感じる。

 例えば、
「大学を出て新卒で正社員で就職しないと一生苦労するぞ」
「ちゃんと働かないと年をとったらホームレスになるしかない」
「X歳までに結婚してX歳までに子どもを作らないと負け組」
「仕事も家庭も子育ても大人なら全部完璧にこなせるのが当然」
「人生が苦しいのは自己責任、真面目に頑張っていればそうはならないはず」
「病気になるのは自己管理が足りない、社会人として失格」
「年金は将来もらえるか怪しいから自分で備えておかないとやばい」
「親の介護や子どもの教育や自分の老後のためにX万円は貯金が必要」
 みたいな感じだ。

 なんか、普通とされている生き方モデルがすごく高いところに設定されていて、実際にそれを実現できるのは全体の半数以下くらいの人だけでしかないのに、「真面目にやっていればそれをみんな普通に達成できるはず」というプレッシャーが社会全体に漂っている気がする。しかも、それをうまくこなせずに「普通」から外れてしまった人をカバーしてくれるようなセーフティーネット的な仕組みもあまりなくて、「普通」から外れた人に対する世間の目は冷たいし、自分に厳しい真面目な人が多いから「普通のことができない自分はなんてだめなんだ……」って自分でも自分を追い詰めたりしてしまう。

 要は、多くの人が普通にこなせないものを「普通の理想像」としてしまっているから、みんなその理想と現実のギャップで苦しむのだ。そんな現状と合っていない価値観からは逃げていいと思う。そんな価値観に従うのは自分で自分の首を絞めるだけだ。

 そうした価値観に従うことで得をするのは、現在それをなんとか実現できている一部の恵まれたラッキーな人たちと、昔のそうした価値観がそれほど社会の現状とズレていなかった頃に育った古い世代だけだろう。そういう人たちはまあ、自分たち用の「宗教」としてそういう価値観を持っていればいいんだろうけど、レールにうまく乗れない人まで同じ価値観を共有する必要はない。価値観というものは本当はもっと多様なものだし、生き方というのはいろんな方向に広く開かれている。もっといろんな生き方があっていいはずだ。

「何故現状と合わない価値観が今の社会で支配的になっているのか?」という理由については、五十年くらい前の昔の日本社会では「みんな結婚して会社員の夫の稼ぎで妻子を養って子どもを育てて幸せな家庭を築く」という一つの理想モデルで大多数の人間の人生をカバーできていたんだけど、時代とともに社会状況が変化したせいで(少子高齢化や経済成長の鈍化や非正規雇用の増加など)、その枠組みで大多数の日本人をカバーすることが無理になってしまったからだ(社会学者の本田由紀さんの『社会を結びなおす』(岩波ブックレット)という五十ページくらいの薄い本でそのへんの流れがコンパクトに説明されているので興味のある方はどうぞ)。

 変化の速い現代では二十年ごとくらいに社会状況や人間の生き方がかなり変わってしまうから、みんな親の世代とはずいぶん違う社会を生きることになる。だから新しい社会状況に合わせるために価値観やライフスタイルを次々と更新していかないといけないんだけど、今の日本ではその入れ替わりがうまくいっていないのだと思う。古い生き方は一部の人間しか救う力がないのにそれに代わる新しい生き方もまだ力を持っていなくて、古い価値観がいまだに人々にプレッシャーをかけ続けて苦しむ人が増えている。それが今の日本の生きづらさの正体なんじゃないだろうか。そうだとしたら、現状に合わない古い価値観は徐々に捨てていって、新しい生き方を探っていく必要があるだろう。

 

◎合わない場所からは逃げていい

「真面目に学校に行ってちゃんとした会社に入ってずっと働き続けて家族を支える」みたいないわゆる「真っ当な」生き方は、世界にたくさんある生き方パターンの一つでしかないし、そのルートが向いてない人は無理にそれを目指す必要はない。自分に合わない場所で苦しむよりはそこから逃げてもうちょっと自分が楽にいられる場所を探せばいい。世の中に生きる場所は無数にある。僕自身も逃げて楽になった一人だ。

 働くことはまあ大事なことではあるけれど、人が生きるにおいて絶対的に必要なわけではないというか、あまり働かずに済むなら働かないほうがいいくらいなものだ。ちょっと日本人は滅私奉公しすぎというか、仕事に自分の時間やエネルギーを捧げることを美化しすぎるきらいがあると思う。

 じゃあ生きるにおいて本当に大事なことは何かというと、「一人で孤立せずに社会や他人との繋がりを持ち続けること」と「自分が何を好きか、何をしているときに一番充実や幸せを感じられるかをちゃんと把握すること」の二つだと僕は思う。孤立しないことと充実感を持つこと、それが仕事や会社や家族とうまく一致していれば問題はないんだけど、それはしばしば一致せずにズレてしまって、人を幸せにするためにあったはずの仕事や会社や家族が人を縛って苦しめたりするから厄介なのだ。

 生きるのが苦しくなったときは、世間の価値観や周りの意見にとらわれずに「自分が何が好きか」という感覚をしっかり持つことが大事だ。「自分はこれが好きだ、これをしているときが幸せだ」というものをはっきり持てば充実感を味わえるし、同じような趣味や価値観を持つ仲間もできるし、人との繋がりができればそれが社会の中の居場所として自分を支えてくれる。また、知り合いが仕事を紹介してくれたりだとか、好きなことの延長が仕事になったりすることもある。

 僕の場合の好きなものは、インターネットだった。二十八歳のときにふと「ネットがあれば仕事を辞めても孤独にはならないし、暇潰しにも困らないし、ある程度の収入も得られるんじゃないか」と気づいて、ずっと嫌々ながら勤めていた会社を辞めて、それ以来八年間定職に就かずふらふらとした生活をしている。

 そもそも昔からずっと学校や仕事が苦手だった。体力がなくて疲れやすくていつもすぐに横になりたくなるし、朝も弱くてなかなか起きられないし、集団行動をするのも苦手だから一人でのんびり過ごしていたくて、学校とか会社とか行くのだるいなー、毎日家でぼんやり本でも読んで過ごしてたいなー、とずっと思っていた。

 そう思ってはいたんだけど、「そんな風に思う自分は怠惰なだめ人間なんだろうか……」とか「もっと自分を鍛えれば、もしくは慣れれば、ちゃんとした社会人になれたりするのだろうか……」とか悩んだり迷ったりしていて、合わないなあと思いつつもなんとなく学校に通って、他にやりたいこともなかったのでとりあえず受験勉強をして大学に入って、働きたくないなあと思いつつもしぶしぶ就職したりした。

 そんな風にとりあえず「普通っぽい」進路を選んではみたんだけど、内心は「毎日会社に通わなきゃいけないのとか苦行すぎて意味が分からないし、こんな生き方あんまり面白くないな……」とずっと違和感を持っていた。我慢しながら会社員として働いていたけど仕事をやる気は全然なくて、職場でもかなり浮いていてあまり居心地は良くなかった。

 そんなときにハマったのがインターネットだった。その頃、二〇〇〇年代半ばは、ブログやSNSの登場でそれまでよりもずっと気軽にネットで他人と知り合いやすくなった時代だった。

 ネットには無数に面白い情報が溢れていて、自分と話の合う人たちが大量にいた。リアルで人と話すのは苦手だったけど、ネット越しでの文字のコミュニケーションには向いていたんだろう、ネットではわりと簡単に知人や友人を増やすことができた。ネットの中で文章を書いたりお喋りをしたり好き勝手に遊んでいたら、いつの間にか自分と同じようにネットが好きな友達がたくさんできていた。

 会社のオフィスでも仕事はロクにせずに一日中ネットばかり見ていた。ブログを書いたりとか、プログラミングを覚えてウェブサイトを作ったりとか、ツイッターやチャットでお喋りなどをしていたらそれだけですごく楽しくて、「仕事を辞めてもネットさえあればなんとかやっていけるんじゃないか?」と思うに至って、二〇〇七年の夏に会社を辞めてニートになったのだった。

 

*後編《「普通」の縛りから抜け出せば、もっと楽に生きられる》は6月28日(日)公開予定です。 

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