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2015.06.24

第十四回

図書館革命

小嶋 陽太郎

図書館革命

 何日か前、地元のテレビ局に取材をしてもらった。僕はテレビに取材をしてもらうほどのことはしていないのだが、学生を続け(卒業できない)ながら、こういうところで何か書くような活動をしているという点において、「卒業もしないでちんたらと何かやってるやつがいるぜ」ということで、テレビの目に留めてもらえたのだろう、ありがたい話である。
 取材に際して、大学に行った。
「小嶋さん、大学に来るのは久しぶりですか?」
「あー、そうですね。二月くらいに一度用事があって来た気がするので、たぶん四か月ぶりくらいですかね」
「四か月ぶりですか。どうですか? 久しぶりの大学は」
「緑がいっぱいで、こうやって見ると、なかなかいい大学ですねえ。マイナスイオンが出てますよねえ」
 などといかにも他人事らしいコメントをカメラに向かってしながら、久しぶりの大学を歩いた。日曜だったのにもかかわらず、お祭りサークル「和っしょい」(全国各地のお祭りに参加して、踊り散らして帰ってくる集団。たぶん)が熱心に踊りを練習するかけ声が聞こえてきたりした。
「どうです? 大学、なんか変わったところとかありますか?」
「変わったところですか……うーん、相変わらず緑がきれいだし、和っしょいは踊ってるし、とくには……わ!」
 な、なんだあれは!
 西門から生協前広場に向かって行く道の途中、左手に、見慣れない建物を、僕は発見した。
 全面窓の、外から中が見える開放的な構造で、色の薄い天然木が等間隔で窓の外側にピシピシとはめこまれている。地方の国立大学にある建物としては激烈におしゃれだし、何か、ものすごく重要で先鋭的なものが内部で保管されていそうな、モダンな雰囲気を発している。しかし僕の説明だと、まったくそのおしゃれさとかっこよさが伝わらないということに、いま気がついた。
 ともかく木がピシピシはめこまれて(これが重要)、都会にある現代的な美術館みたいな感じである(都会にある現代的な美術館がどういうものかは知らん)。
 近づくと、木のいい香りがした。たぶん、檜とか杉とか、その手の木である。
「なんですかねこれは、こんなの知りませんよ僕は」
 この四か月のあいだに、大学になんの革命が起きたのかと思ったが、それは図書館革命だった。
 図書館がだいぶ長いあいだ改築工事をしていたことは知っていたが、まさかこんなことになっているとは……。僕は生唾を飲み込んだ。
「どうします? 中、入ります?」
「非常に入りたいですね」
「図書館の中、撮影許可とってないんですけど、大丈夫ですかね?」
「まあ、撮っちゃだめだとしても個人的趣味で入りたいですよね」
 というわけで僕たちは図書館を見学することにした。
 僕は学生証を持っていたので、本来ならそれを専用の機械にピッとかざせばスマートに入館できるはずだった。しかし有効期限がはるか昔に切れていたので、僕の学生証をかざされた専用の機械は不愛想にもひたすら沈黙を貫いた。こ、このやろう、融通の利かないやつだな……。
 だから入館者リストに名前を書き、外部の人間よろしく入館許可証をもらって入らなければならんという学生にあるまじき屈辱を味わい、悔しい思いをしたことは、絶対に、誰にも言うまいと思ったことを、ここに記しておく。
 一階には雑談スペースがあり、いくつかある小さな丸テーブルを信大生が囲んで顔を突き合わせ、何事か話し込んだり、勉強をしたりしていた。彼らの向こうでは窓越しに木々の緑が揺れ、午前の淡い光が差し込んでいた。ごくキャンパス的かつアカデミックな光景に、僕は感動した。
 それから、
「よく寝っ転がってたソファがあるんですけど、それはもうないですかねえ」
 と僕が余計なことを言ったのをきっかけに、僕たち(記者さんとカメラマンさんと、同席してもらった角川書店の担当編集者のKさん、広報のNさんと、僕。という五人)はソファを探して図書館内をぞろぞろと歩き回ることになった。しかし、それはやはり見つからなかった。改築に際し、どこかに葬られたのだろうか。
 図書館自体は全体的に拡張され、明るく開放的になっていた。
 僕の知っている、外観も中身もしょぼい図書館はなくなっていた。
 人文関連の書棚を見たKさんが、「学生時代に戻ってもう一回勉強してえなあ」と言っていたのが印象的だった。
「このかっこいい図書館なら朝から晩までこもって勉強できそうな気がする」と僕も思ったが、たぶんそれは気のせいである。
 その後は僕がコロッケパンをひとりで食っていた階段下のベンチも改築工事によってなくなったことを、ひととおり嘆いたりなどした。
 最後に入館許可証を受付に返却し、僕は新たな図書館を後にした。
 次に来るときは学生証を更新して万全の態勢で臨むことを固く誓ったことも付け加えておきたい。

 

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