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2015.06.23

第2回

『調理場という戦場』(斉須政雄)が伝える仕事の要諦は“経営の神様”『道はひらく』(松下幸之助)に通ず

漆原 直行

『調理場という戦場』(斉須政雄)が伝える仕事の要諦は“経営の神様”『道はひらく』(松下幸之助)に通ず

成果が上がらないとき、やる気がないとき、いいアイデアが出ないとき、つい、ビジネス書に助けを求めてしまう方も多いでしょう。でも、ビジネス書を読んだだけでは、ビジネスのこと、仕事のことがすべてわかるわけではありません。本連載では、「一見ビジネス書には見えないけれど、実はすっごく仕事に役に立つ!」という本を選りすぐってご紹介。仕事のヒントは、思いもかけないところから吸収できます。
第2回は、一見、料理人が語る自らの半生、『調理場という戦場』(斉須政雄郎著)。評者は、『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』の著書もあり、ビジネス書の目利きであるライターの漆原直行さんです。

★紀伊國屋書店新宿本店と紀伊國屋書店南店ではpopとともに本書を展開中です。ぜひ足をお運びください。また、「見かけは違うけど」シリーズを展開してくださる書店様も募集しています。幻冬舎営業部までご相談ください。

 

■本書の新たな魅力
一見、料理人の修業時代からの成長物語。しかし、「誠実であること」「労をおしまないこと」「基本をおろそかにしないこと」など仕事、人生で決して忘れてはならない本質を教えてくれる本でもあった。


実力があれば幸運を平常心で拾える

 頑固なように見えて、実はとてもしなやかで、穏やか──本当の強さとは、そういうものなのかもしれない。本書を読み終えたとき、つくづくそう感じた。

 著者は東京・白金にあるフレンチの名店「コート・ドール」のオーナーシェフ、斉須政雄氏。18歳でフランス料理の世界に入り、23歳で渡仏した斉須氏は、12年間のフランス滞在でさまざまなレストランを渡り歩き、料理の腕を磨く。そして、帰国して程なく「コート・ドール」の料理長となり、後にオーナーシェフに就任。そうした斉須氏の料理人生が、この本で語られている。

 本書を簡単にまとめてしまうなら「現在、腕利きとなったフレンチシェフが、若いころに遠い異国の地で単身、修行に励み、一流の料理人となるまでの半生記」といったところか。とはいえ、単なる思い出話、立身出世譚と思ってしまうのは間違いだ。斉須氏は自身の体験をもとに、仕事や人生において“大切なこと”を誠実に綴っている。

 印象的だった一節を、いくつか紹介しよう。

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 優れた人が他人を判断する時に目を留めるところは「ひとつひとつのことをきちんと 処理しているかどうか」なのではないかと思うのです。

 掃除や雑用について、視点を変えて見てみると、人が手を染めたがらない作業の中に、多くのヒントがありますね。ぼくにとっては、掃除や雑用を通じて感じ、考え、整理された多くの体験が、あとで料理人として自立する上で大きな原動力になっていきました。

 実を結ばなかったアイデアは山ほどありますが、その死屍累々のアイデアのひとつひとつの点が、あとになって必ず線になってつながるんですよ。

 「これは、夢のような幸運だ」と思っているうちは、その幸運を享受できるだけの力がまだ本人に備わっていない頃だと思うんですよ。幸運が転がってきた時に「あぁ、来た」と平常心で拾える時には、その幸運を掴める程度の実力が宿っていると言えるのではないでしょうか。

 ひとつの優れた特性で勝負をする人のほうが、何でもできる人よりも商品価値がある。あれもこれもこなせるというのは、平均から脱することのないつまらなさでもあるからです。あれもこれもはできないけれど、これはできるよ、という料理の作り方をするほうが、お客さんは欲しがってくれるでしょう。
 それぞれの人はそれぞれにひねくれているはずです。その奇形な中から出てくる部分が個性であり、使いようによってはすばらしいものになると思う。奇形なら奇形でもいい じゃないですか。

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このような調子で、思わず「はっ」とさせられるメッセージが、数多く散りばめられている。シンプルでわかりやすい筆致にも好感が持てる。
 

「いい人が嫌い」と言える魅力

 それにしても、読み進めるにつれて、斉須氏は本当に正直な人なのだなと感じ入ってしまった。歯に衣着せぬ、という表現があるが、斉須氏はまさにそれを地で行くような印象だ。そんな斉須氏の正直さは、たとえば次のような一文によく表れている。

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 理路整然とした人のほうが優れているというのは、うそっぱちだと思っています。現実に何かをしている最中には、何がどう引っくりかえるかわからないんですから。
 純粋なことだけ教えればすばらしい力を宿すかというと宿さないんです。それと同じですよ。
 いいことができる人は、悪いことだってできます。ですからぼくはお店のみんなに、「いい子面した偽善者になるな」って言います。
 いい子は弱いから。
 ぼくは「いい人」が嫌いです。みんなに対しては「ぼくは、悪い人です」と言ってます。いじわるもしますし。
 いい人であるだけでは、あるべき姿のレストランを維持できませんよ。
 一緒に仕事をする時でも「いい人だと思っていたのに」という場面に必ず突き当たるはずです。でも、そういう「純粋で、いい人」が作るものだけをお皿に載せているのではない、もっといろいろな日常生活を取り込んで、料理は成り立っているのです。

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 実に痛快である。「『いい人』が嫌い」とは、なかなか言えるセリフではない。でも、臆することなくそうしたことをクチにできるあたりが、斉須氏をより魅力的な人物にしている。そして、だからこそ放たれる言葉は活き活きと響き、説得力となって読者の心に刺さるのだ。

日々の生活は、キレイごとだけで成り立っているわけではない。仕事も然りだろう。それを踏まえたうえで、斉須氏は、お客様に喜んでもらえる料理を提供する、という一点において絶対にブレることがない。プロフェッショナルとしての誠意の示し方を見せつけられたような気がした。

 

松下幸之助『道をひらく』との共通点

斉須氏の言説は、料理人といった職人的な仕事だけに留まらず、幅広くビジネスパーソン全般に役立つものだ。そして本書を読みながら、私は一冊の本が常に頭の片隅に浮かんでいた。松下幸之助の『道をひらく』だ。

 松下幸之助は、いまさら説明するまでもないほどのビッグネーム。パナソニックの創業者であり、“経営の神様”とも評される、日本経済界の偉人である。

 幸之助は数多くの著作を遺したが、それらのなかでも『道をひらく』はいちばんの代表作として紹介されることが少なくない。

 ここで『道をひらく』に掲載されている「素直に生きる」という一編を紹介したい。

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 逆境──それはその人に与えられた尊い試練であり、この境涯にきたえられてきた人はまことに強靱である。古来、偉大なる人は、逆境にもまれながらも、不屈の精神で生き抜いた経験を数多く持っている。
 まことに逆境は尊い。だが、これを尊ぶあまりに、これにとらわれ、逆境でなければ人間が完成しないと思いこむことは、一種の偏見ではなかろうか。
 逆境は尊い。しかしまた順境も尊い。要は逆境であれ、順境であれ、その与えられた境涯に素直に生きることである。謙虚の心を忘れぬことである。
 素直さを失ったとき、逆境は卑屈を生み、順境は自惚を生む。逆境、順境そのいずれをも問わぬ。それはそのときのその人に与えられた一つの運命である。ただその境涯に素直に生きるがよい。
 素直さは人を強く正しく聡明にする。逆境に素直に生き抜いてきた人、順境に素直に伸びてきた人、その道程は異なっても、同じ強さと正しさと聡明さを持つ。
 おたがいに、とらわれることなく、甘えることなく、素直にその境涯に生きてゆきたいものである。

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 『道をひらく』は、松下幸之助の人生観や労働観を綴った短文を集めた随筆集のような本だが、ビジネス訓話として、ビジネス系自己啓発書として、多くのビジネスパーソンに愛読されてきた。ビジネス誌などの「おすすめビジネス書特集」などでも、必ずといっていいほど取り上げられる一冊だ。

 そんな定番中の定番と、『調理場という戦場』は、どこか同じにおいを放っている。有り体にいってしまうなら「人にとって大切なことは、いつまでも変わらない」といったところか。誠実であること、労を惜しまないこと、基本をおろそかにしないこと、他人を慮ること、自分にも他人にもウソをつかないこと……そうした、人生において決して失ってはならないこと、忘れてはならないことが端的に語られている。それが普遍的な人世訓として、心に響いてくるのだ。

『調理場という戦場』は、真摯に仕事に向き合うための心構え、勘どころ、要諦といった事柄を理解したいときに役立つのはもちろんだが、部下や後輩をいかにして導いていくかなど、コーチングやマネジメントに当たる際にも、さまざまなヒントを与えてくれる一冊となるだろう。

 もちろん、自己啓発書、ビジネス書としてだけでなく、純粋に読み物としても良質だ。一人の青年が遠い海外で、徒手空拳で料理の世界に挑み、腕を上げ、次第に周囲に認められていく成長物語としても、非常に興味深い内容となっている。「料理は厳しい職人の世界」「料理の道を極めるのは難しい」などと常套句のように語られるが、そんなフレーズが陳腐に思えてくるくらい、ヒリヒリとした緊張感が行間から滲んでくる。このあたりは、実際に調理場という名の戦場で高品質な仕事を成し遂げてきた者でなければ醸し出せない説得力だ。読んでいるこちらまで痛みや焦り、葛藤を覚えてしまうほどのリアルさに、グイグイと引き込まれてしまう。

 職人的な頑なさが伝わってくるような筆致を「暑苦しい」と感じる人もいるかもしれない。しかし、読んだ者の心にくさびのように打ち込まれて、いつまでも微かなシビれを残す、確かな強度を備えた言葉が並んでいる。頑固だ。でも、とてもしなやかで、穏やかでもある。

 ちょっとイイ話を聞いちゃったな……そんな気持ちにさせてくれる一冊だ。

 

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