ある初夏の昼下がり――そろそろ、次のライブに向けて新しいネタを作らなければと、追い詰められていた僕に、ワハハ本舗社長の喰始は言いました。

「次は刺青を取材してもらいましょうか」

「嫌です!」

"刺青=怖い"としか認識できない僕は即答したのですが、念のために「なんでそのテーマなんですか?」と聞いてみると、すごい答えが返ってきたのです。

「別に」

 こうして強制的にかつ、恐る恐る始まった刺青取材は、なんと足かけ12年続いています。

 今も取材継続中の大切なネタになっているのは、「刺青」というディープな素材だからではありません。取材の過程でお世話になった「彫師」の方々の魅力に引き込まれてしまったからなのです。

 ワハハ本舗は、変人奇人のるつぼ。それでもさすがに刺青に詳しい人などいません。手当たり次第にネットを使って調べてみますと、横浜に「刺青歴史資料館」なる施設があることが分かりました。

 公に資料館として開放しているのなら安全だろう。とりあえずここを足がかりに調査を始めようと思ったわけです。

 しかし、ここが"刺青界のエベレスト"だとは、この時は知るよしもなかった――。

 取材対象が対象だけに、普通の資料館とは一線を画いた趣のある資料館。中に入る勇気が中々湧いてきません。そっと館内を覗くと、強面のお兄さんの姿はどこにもありません。その代わりにソバージュヘアの40代くらいの受付の女性がひとり。昔はレディースだったに違いないと思わせる風貌ではありますが、ひと安心です。

 展示物は初めて目にするものばかりです。刺青に関する新旧・古今東西の写真や資料、縄文時代の日本人は刺青を施していたという古文書、刺青を施したミイラのレプリカなどなど……中でも目を引いたのが、愛くるしい顔に全身刺青を背負ったキューピー人形。なんと武闘派なキューピーちゃんでしょうか。

 一通り展示物に目を通し、気軽な気持ちで受付嬢に刺青の取材を申し込んでみました。

 すると、受付嬢は言うのです。

「取材なら、"三代目"にして頂けますか?」

 僕も芸人の端くれです、知り合いの中には三代目、四代目と呼ばれる落語家さんはいます。

 でも、今、彼女の口から出て来た、三代目は……あぁ~やっぱり危険な香りの方なのね。

 彫り師の「三代目・彫よし」さんが、この刺青歴史資料館の館長さん。僕が受付嬢だと気軽に声を掛けたのは、じつは彫よしさんの奥様だったのです。

「電話してあげるから」

 ――日を改めて、心の準備をしてから仕切り直したい。そんな小心者の僕の思いとは裏腹に、話はどんどん進んでいきます。

 奥様に地図を書いていただき、三代目の待つ仕事場へその足で向かうことになりました。しかし、刺青彫りの現場に行くことなど、もちろん初めて。緊張はマックスに高まります。

「失礼します、コラアゲンはいごうまんと申します!」

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