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2012.03.15

第三回

色気より加齢の味方だ、Tバック

内澤 旬子

色気より加齢の味方だ、Tバック

 この冬の民放ドラマで主演していた、小泉今日子の顔の皺が話題になった。
自分が芸能ネタと接触するのは、mixiかYahoo!などが提供するニュース一覧がほとんどなので、おそらくその手のところで目にとまったのだろう。

 鎌倉を舞台にした、四十代の男女の恋物語であるそのドラマを、飛び飛びにせよ見ていたので、気になった。

 つい出来ごころで無記名投稿のページも引っ張り出して読んでみたら、凄い書かれっぷりに圧倒された。世間はというか、おそらく若い世代がほとんどなんだと思うが、中年が色気づくことが、嫌でしょうがなく、そして同時に加齢した外見を非難する。

 そういう若い人たちも年月を経て加齢すれば、それがどれほどどうしようもないものなのかがわかるだろうに、こればかりは実際に加齢せねばわからないから、始末におえない。というか、その頃には自分はまごうことなき皺だらけの老人となっているはずで、彼らの加齢をせせら笑ってやる気力があるかどうかもわからない。達観の境地から見下ろして、せせら笑ってやりたいもんだが。

 ただ、私とて特にそのドラマがとくに面白いと思ったわけではない。正直に言えばイマイチであった。結末も見ていない。中年の恋愛についてはこのエッセイの趣旨から外れるのでこれくらいにして、問題は皺である、皺。

 テレビを見ていて彼女の皺にさっぱり気付かなかったのだ。年月の経過とともに歳はとったが、でもやっぱり綺麗な顔のひとだなあと思ってたくらいだ。
 そんな大騒ぎするほどの皺があったとは思えなかったのだ。厳しすぎだろう、みんな。

 疑問はのちほど氷解した。前回も登場した山崎さんの家に久しぶりにお邪魔したら、幅が一メートルくらいある巨大薄型テレビが鎮座していたのだ。なんでもパーティーの座興のゲームの商品だったとのこと。とうぜんハイビジョンである。

 これで吉田都のDVDを鑑賞しようということになったんだが、DVDの切り替えに手間取っているときに、地上波のトーク番組かなにかで、西村雅彦の顔のアップが映ったのだ。

 う、わああ、皺だらけじゃないですか。なんすか、これ。思わず悲鳴をあげながら画面を凝視する。
 出る人出る人、毛穴までくっきり映っている。げ、えええええ。

 ちょっと見ないうちにすっかり大人っぽくなった息子さんが、つぶやく。
「はじめてみるときは、うわ、でっけって思っちゃうんだよね。でももう慣れた。いまはだいたいこれが標準サイズみたい……」

 そう、ついこのあいだまで、彼女の家だって結構小さい液晶テレビだったのだ。うちなんか箱のテレビだった。地デジ化と同時にしばらくテレビと縁を切っていたが、実家で一台余らせているテレビがあるからあげると言われ、持ってきた。母親の部屋に置いていたものなので、小さい。幅四十センチもない。この方がみなさんの皺もみえなくて心安らかに暮らせるというものだ。

 しかし世間の、私が思っているよりずっと多数の人々は、でっかいハイビジョンテレビを持っているらしい……。軽い衝撃を受けた。みんながこれで見ているから、小泉今日子の皺も話題になったのか。ようやく理解できた。

 自分がテレビに映るかどうかは別としても、これだけの大画面のアップで他人の、同世代の、顔の皺やら毛穴やらを見ていたら、そりゃ自分の肌のスキンケアも気になるだろう。大鏡を部屋に入れるのと似たような原理である。

 ところで。小泉今日子といえば、2009年のTバック宣言なのだ。彼女が四十代になって下着をTバックに変えたことをエッセイに書き、それをラジオで朗読したとか。
 Tバックという名称は、エロいというよりもっとえげつない感じがして馴染めないので、以下から下着メーカーが使っているソングという名称を使いたい。

 さてこのソング。ちょうど私も彼女と同時期に導入を検討していたのである。だからこそ、この宣言が忘れ難く頭に残っているのであり、今回の皺騒動にも心動かされてしまったのだった。同年代の憧れの女性として、根強いファンが多い彼女であるが、私はなぜかこのTバック宣言から、彼女が気になるようになってしまった。
 しかし私の場合の導入にいたる経緯は、彼女のように晴れがましく意思的な感じではない(エッセイをちゃんと読んだわけではないのだが、ラジオでは、彼女らしく胸を張ってという感じだった)。

 私の場合、やむなく、誰にも言わず、ひっそりと採用、という感じである。ただし、小泉今日子が履いているということが、心のどこかで感じていた後ろめたさを払拭してくれことは確かなのだった。
 採用理由は当然のごとく、尻である。このエッセイ、主題がバレエなのか尻なのか、だんだん自分でもわからなくなってきているが、しばらくお許し願いたい。

 加齢によって筋肉にサシの入った尻は柔らかい。A5の黒毛和牛もかくやと言わんばかりの頼りなさで、どんなに下着の線がでないといわれるショーツを履こうが、ショーツラインが食いこむようになっていたのだ。
 いや、若かりし過去には、鏡がないから、尻肉がどうなっていたのか、比べようがない。もしかしたら当時から食いこんでいたのかもしれない。
 ゴムの入ったものは論外として、レース処理されているもの、薄いヘム生地になっているものなどなど、買える範囲で試してみたものの、どうにもショーツに包まれている部分と、非包部分とが、分断され、なめらかなシルエットにならない。
 ヒップハングのボーイズショーツなるものも、もちろん導入したのだが、これもダメだった。尻下部から腿にかけての肉がふわふわなので、腿の付け根に食い込んで、変なシルエットになる。
 なにをどう履いても、不自然に食い込んでへこむところが出てしまうのだ。
 しかも恐ろしいことに、下着でずっと肉を固定し続けると、そのような形に変形してしまうという説を耳にする。そうかもしれない。だってもう最近では寝起きの顔についたシーツやまくらの皺の跡がとれないったらないのだ。
 食いこみの段々が尻についたまま、復帰しないなんてことも、このままサシが入りまくると起こりかねない。

 ガードル導入も考えた。着用したところ、矯正用のは信じがたいほどの締め付けなのだ。無理無理無理。貧血を起こしてしまう。

 適度に締め付け持ち上げて、運動もできるといわれているガードルを履いてみる。尻の垂れは是正されるようだが、締め付けもゆるいためか、下に履いたショーツの、ゴム部分の食い込みはそのまま反映されてしまう。

 あかん……。ガードルの下になにも履かないで着るという手もあるのだが、心理的抵抗が強い。

 大昔、ドミトリーのホステルで西洋人の男たちがパンツ履かずに、デニムを直ばきしてるのを見たときの嫌悪感が、蘇る。いや、いまはパンティーライナーなるものがあるんだから、それつければいいんじゃないか。

 しかしそうすると、ヨガをするときはどうしたらいいのだ。ガードルの上にヨガパンツ履くのも嫌だし……。
 こうしてぐるぐるうじうじと考え巡らした末に、ソング導入、となったのである。不本意とまではいわないが、誇らしい気持ちはない。とりあえずソングならば、尻に食い込みをつくらないから、不本意な形に尻を分断・変形させることは、ない。ただそれだけである。

 ソングの上にガードルつけるもよし、ヨガパンツ履くもよし。問題は、更衣室などでとなりの人に見られたりするのが恥ずかしいくらいだが、それも用心すればなんてことない。最近ではソング専用の形をしたパンティライナーまであるのだった。便利である。

 

 

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