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2015.05.24

第1回

不妊治療に今必要な
“ヒト精子”研究

黒田 優佳子

不妊治療に今必要な<br />“ヒト精子”研究

「女性なのに精子の研究?」などと言っていられない私の使命

 私は産婦人科医師として、29年目になります。思い返せば、私が医学部専門課程の学生のときでした。授業で「発生学」、わかりやすくいうと「生殖学」を学んだとき、「1匹の精子と1個の卵子が受精して命を造り出す、なんて素晴らしいことでしょう。命の誕生って神秘的、ものすごいことだわ」と、大きな衝撃を受けました。

 この深い感動が、現在のライフ・ワークである“ヒト精子の研究”の原点なのです。

 命が誕生するのではなく、命を誕生させる「受精の仕組み」に心から魅せられました。その強い思いが、産婦人科専攻への道に繋がりました。日々の臨床で学ぶなかで、私の探究心はさらに深まり、大学院と東大医科学研究所での研究生活にまで及びました。

 その間一貫して、全く注目されていなかった“ヒト精子”に色々な不思議を感じて研究を推し進めてまいりました。当時、生殖(受精)の研究においては、卵子にばかり目が向けられており、精子に至っては全くといってもいいほど関心が持たれていませんでした。

 それから30年あまり経った今でもその状況は変わっておりませんが、私自身の研究への志も変わらず、地道に“ヒト精子の研究”を続けております。

 これまでの精子研究と生殖医療(不妊治療)の臨床経験のなかで開発した精子検査法や精子分離法をはじめ一連の治療法に関しては、旧姓黒田の名前をつけて「黒田メソッド」と称させていただいております。

 研究を始めた若いころは、折に触れて「女性なのに精子の研究?」と言われ、少し悲しく思ったこともありました。しかし、半世紀以上を生きた今では、周囲の方々からのご理解と支援の輪も広がり、「黒田先生は数少ない精子専門の婦人科医だから、世のため人のために頑張って精子の研究を続けてもらわないとね!」と言っていただけるまでになり、日々の原動力に繋がっております。

 私は人とのご縁を大切にしながら一期一会を大事に生きてまいりましたが、今日まで母校の枠を超えて多くの良き研究指導者や支援者に巡り合えたことは、私の人生にとって心の財産です。このたびの執筆に関しても、指導者や共同研究者の先生方に背中を押され、勇気を持って筆を執りました。

 ここで話は変わりますが、2014年のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』の主人公・黒田官兵衛は智謀に長け、作戦力と人望、そして不屈の精神力により、何度もの死線を乗り越えて戦国時代を生き抜いた人物です。

 じつは、私の亡父は、福岡(黒田)藩の縁に繋がります。昨年1月に発刊された『日本に今一番必要な男 黒田官兵衛』の編集者から私のもとに連絡が入ったとき、何か不思議な縁を感じました。それがこのたび、私が“本を書こう”と思ったもう一つのきっかけなのです。

 これまでも不妊治療に関する本は数多く出版されてきましたが、そのほとんどは婦人科医が女性側の不妊原因・検査と治療法を中心に解説したものでした。
これらの本では精子に関する記述はごくわずかでしたし、さらに顕微授精の登場により、精子の問題はほぼ解決できたと考えられてきました。

 私が最も問題に思っていることは、「生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology: 以下ART。主たる3つは「人工授精」「体外受精」「顕微授精」。詳細は本書96ページ)に携わる婦人科医で精子を専門とする者が極めて少ない」ということです。

 本書の前半は、私の専門である“臨床精子学”の立場から「ヒト精子に関する正確な知識と不妊治療の問題点」を解説したものです。卵子側ではなく「精子側からの視点で、現状の不妊治療、とくに顕微授精(詳細は105ページ)の安全性を検証」していますので、当然、治療に対する評価と問題点の把握もこれまでの本と大きく異なります。

 本書の後半は、ARTのリスクマネジメントとして「できるだけ顕微授精を避ける、もしせざるを得ないときは穿刺注入する精子の品質管理を徹底する」ことを提唱し、その具体策として「精子選別」「精子精密検査」および「顕微授精を避けた新しい受精法」を解説しております。

 できるだけ平易に解説することを心がけましたが、一部専門的な記述が含まれます。読みにくいようでしたら、とばしていただいて結構ですが、本書にはとても重要な内容が書いてありますので、ぜひ最後まで読んでいただけましたら幸いです。

 今の私は、稀代の軍師の智謀と人望を先祖から譲り受けたいとさえ思って、私に与えられている使命を果たさなければと確固たる思いでいます。

 というのも、それほど「今の不妊治療は問題を抱えている」のです。現状のままでは、これから生まれてくる子どもたち、ひいてはその子どもたちが支えていくべき日本という国の将来が危ういことになるでしょう。

 私は、そのことに焦眉の急ともいえる危機感を持っております。そこで、『日本に今一番必要な男 黒田官兵衛』のタイトルを借りて、「日本に今一番必要なことは、不妊治療のイノベーションである」と申し上げたいくらいなのです。



※生殖補助医療(ART)の実際——主たる3つの方法(p.76より抜粋)

「受精」と「授精」では意味が違います
「人工授精」や「顕微授精」は“授ける”という文字を用いるのに対して、「体外受精」は“受ける”という文字を使って区別しています。このように、なぜ違う文字を使うかといえば、治療としての「受精」と「授精」では、根本的な原理に違いがあるからです。つまり、精子を人為的に卵子のなかに入れることは「授精」、精子が自身の力で(自然に)卵子に結合することを「受精」というように、2つの文字を使い分けているのです。(中略)

人工授精
人工授精は、細い管を用いて子宮頸管を通して精子を人工的に子宮内に届けようとする技術です。上述した分類に従えば、子宮に精子を送り込むという点では“授ける”ですが、卵管を遡上した精子が自身の力で卵子に侵入するという点では「受精」になります。

体外受精
培養液中で卵子が精子を“受け取り”自然に結合するのを体外で見守るという意味で、「受精」というのです。

顕微授精
顕微授精では顕微鏡で見ながら卵子を固定し、医療従事者(主に胚培養士)が精子を1匹選び、極細のガラス針に精子を吸引して卵子内に穿刺注入します。人工授精、体外受精は最終的に精子が自身の力で卵子に自然に結合するのに対し、顕微授精はヒトが卵子に精子を授けます。この意味で「授精」を使います。
私は、医療従事者、患者夫婦の両者ともに、授精の言葉の重さを真剣に考えていただきたいと思っています。

 

 

この連載は『不妊治療の真実 世界が認める最新臨床精子学』のダイジェスト版です(全5回)。詳細に関しては書籍をご覧ください(もくじはこちら)。
第2回「問題がありすぎる不妊治療の実態」は5月28日(木)公開予定です。

 

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