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地球の中心で何が起こっているのか

2015.05.22 公開 ツイート

第3回

2列の火山列――プレート深度の違い 巽好幸

神奈川県の箱根山で活発な火山活動が続いています。火山性地震も頻発し、大涌谷付近を中心に地殻変動も観測されているようです。東日本大震災では日本列島が一瞬にして5メートルも東へ移動したといいます。いま、日本の大地で何が起きているのでしょうか? 世界が認める地質学の第一人者が解き明かす、地球科学の最前線――『地球の中心で何が起こっているのか』。この書籍の内容を全3回のダイジェスト版でお届けします。

前回の記事:日本には、火山が200個以上も存在する


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 私たちは、小学校や中学校で、「火山帯」のことを習ったはずだ。それによると、日本列島には、千島・那須・鳥海・富士・乗鞍・白山・霧島の七つの火山帯があるとされている(図3―2)。

 これらの火山帯は、日本列島周辺のプレートの配置を考えると、前者五つと後者二つにまとめることができる。太平洋プレートの沈み込みで形成される「東日本火山帯」と、フィリピン海プレートに関連した「西日本火山帯」である。

 もちろん、日本の火山帯が定められた明治時代には、プレートテクトニクスの概念は未だなかった。それにもかかわらず、火山の分布や日本列島の形などに基づいたこれらの火山帯区分は、細かい点はともかく、現在でも十分示唆に富んでいる。

 その例の一つが、東北日本弧に沿って分布する、那須、鳥海の2列の火山帯(火山列)の存在である。

 図3―2のような火山の分布だけを眺めていると、場所によってはこの2列を識別することが、人為的に見えるかもしれない。これは、地図上に火山をプロットする場合に、その火山の大きさを表現することが困難だからだ。つまり、立派な火山も小さい火山も同じ大きさのシンボルで表現されてしまう。

 一方で、火山の大きさも考慮するために、火山体の体積を見ると、2列の火山帯の存在は明瞭である(図3―3)。

 きっと明治時代の地理学者は、立派な火山が列をなして帯状に分布することに、何か重要性を感じたのであろう。東北日本弧で典型的に見られるこの2列の火山列の存在も、地球上の多くの沈み込み帯に共通する現象だ。

 でも、例えば富士火山帯は1列ではないか、と考える方もおられるに違いない。

 この問いに答えるには、もう一つ、沈み込み帯の火山分布に関する一般則を紹介する必要がある。それは、プレートの沈み込み角度と火山弧の幅の関係である(図3―4)。

 プレートの沈み込み角度は、いろんな場所で大きく変化する。この変化がなぜ起こるかは完全にはわかっていないのだが、重要なパラメーターの一つは、プレートの年である。

 何度も述べたように、プレートは古くなるにつれて冷えて重くなっていく。したがって、古いプレートが沈み込む所ほど、沈み込み角度も急になる傾向がある。

 さて、図3―4を見ると、プレートが高角度で沈み込む所ほど、火山弧の幅が狭くなる傾向が認められる。言い換えると、プレートの沈み込み角度と火山弧の幅は反比例関係にある。富士火山帯(伊豆―小笠原―マリアナ弧)では、地球上で最も古くて重い太平洋プレートがほぼ垂直に沈み込んでいるために、本来2列である火山列が重なってしまっているのだ。

 先に、火山前線(海溝側火山列)の直下では、プレート深度が110キロで一定であると強調した。一方、2列のうちの背弧側の火山列(東北日本では鳥海火山帯)についても、世界中の沈み込み帯のデータを集めると、プレートの深度はほぼ170キロと一定である。図3―4に示すように、このことこそが、火山弧の幅とプレート角度の反比例関係の原因なのだ。

 火山弧を作る2列の火山列は、いずれも、圧力(深さ)に依存した反応で形成されているようだ。そして、この一般則の「マジックナンバー」は、110キロと170キロである。この数字の謎解きは、次章までしばらくお待ちいただきたい。

 

※本連載は今回で最終回です。続きは書籍でお楽しみください。

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巽好幸 理学博士

1954年、大阪府生まれ。理学博士。専門はマグマ学。独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球内部ダイナミクス発展研究プログラムディレクター。78年、京都大学理学部卒業。83年、東京大学大学院理学系研究科(地質学)博士課程修了。京都大学総合人間学部教授、同大学大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授を経て、現職。2011年5月に幻冬舎より刊行された『パワーストーン 石が伝える地球の真実』を監修。

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