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「キョーレツ」なふたり 小野美由紀さん×佐々木俊尚さん

2015.05.05 公開 ツイート

キョーレツ対談 後編

自分なりのやり方で自己肯定感を組み立てる 小野美由紀/佐々木俊尚

 2月にデビュー作となるエッセイ『傷口から人生。 メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』を出版した文筆家の小野美由紀さん。『自分でつくるセーフティネット~生存戦略としてのIT入門~』などで、鋭い分析から、社会の規範なき今、私たちはどうやって生きるべきかを示唆し続けてきた、作家の佐々木俊尚さん。今回の対談では、本の感想から、ドロップアウトした人が生きやすい社会、ロールモデルなき時代にいかに自分の生きる姿勢を組み立てていくか、といった話が展開されました。前編、中編、後編の3回にわたってお届けします。

⇒前編はコチラ⇒中編はコチラ

 

自己肯定するには、生きる姿勢を自分で組み立てろ!

佐々木 コミュニケーションの話で言うと、少し前までは、別に自分をアピールしなくても、いい上司がいてちゃんと自分の仕事ぶりを見てくれていた。「プロジェクトX」を見ていると、工場の隅でもくもくとガラスを磨いてる寡黙な工場労働者みたいな人が出てきて、みんな彼を尊敬してる、みたいな。でも、そういうモデルがすごい勢いで崩壊しちゃって、黙ってやってれば見てくれるってのがなくなってしまった。それで今度は、急にコミュニケーションスキルが必要だっていうんで、みんなキラキラ女子のふりをして、何かを演じるようになっちゃってるわけでしょ? 

小野 そうですね。

佐々木 でも、これもね、時代が変わる前の、「逆ぶれ」でしかないと思ってるんです。そんな嘘ついてまで自分をキラキラ女子に見せて、飾ってコミュニケーション能力が高いように思わせるのではなくて、もっと自分自身の自然な姿をさらけ出せて、そこでなんらかのちょっとしたスキルや、ある種の考え方がもう少しみんなで共有されるようになれば、そこまで無理しなくていい社会がいずれ来るんじゃないかっていう期待感もある。で、その考え方っていったいなんなのっていう。その考え方を作りたいわけなんですよ。あ、人間関係ってこういうもんだよね、社会ってこういうもんだよね、っていうある種の共通理念みたいなのが今失われてると思うんだよね。その失われた理念をもう一回取り戻したい、というか、もう一回最初から作りたい。そうするとキラキラ女子じゃなくても、小野さんが普通にそこに座って話してるだけで、なんとなくまあ小野さんぶっきらぼうに見えるけど、いい人だよねって。

小野 ははは(笑)

佐々木 そういうことをわかってもらえる共通理念みたいなものが出てくるのを僕は期待している。

小野 コミュニケーションってものの評価基準が変わってくる。

佐々木 そうそう、そういうこと。

小野 前回、佐々木さんは最初はコミュニケーションが得意じゃなかったとおっしゃっていました。けれど、働くうちに、あ、これは有効なんだ、っていう生きるための技術を身に付けていって、最終的に、自己肯定感というか、こうすれば生きられるという確信を得られたわけじゃないですか。

佐々木 確信っていうほど強くはないけど、まあこうやっていくしかないかな、ぐらいの思いはあるかな。

小野 自分の中のフレームを、組み立てていったんじゃないでしょうか。「自分はこうやったら社会とうまく接続できるぞ」みたいな。生きるためのフレームというか、ものの見方を身に付けた。

佐々木 でも、それは一回できたら終わりじゃなく、絶え間ない努力の積み重ねがずっと必要だと思うけどね。

小野 私は私で、本に書いてあるように、一度ドロップアウトしたあとに「他人っていうのはエラー。ぶつかることで得るものがあって、世界の見方が更新されていくんだ」という自分の姿勢を少しずつ構築してきたわけですけれども。生き辛い人がそれでも生きるには、自分なりの姿勢をゼロから構築する必要がすごくあるなと思います。今は、若い人が自己肯定感を得るのがすごく難しい時代だなあって思うんですよね。たとえば親子問題、就活、学歴、いじめ……。そんなふうに、成長の過程で、うっかり肯定感を得る機会を失ってしまったときに、どうにかして、そうした生きる姿勢みたいなのを自分で積み上げていって、ずっと更新していかないといけない。けれど、そういうこと言ってくれる人ってなかなかいないなあって思いますね。

佐々木 そうなんだよね。前回からの流れで言うと、ある種の組み立てなんだよね。かつては、企業社会だったり、家族だったり、「自分をそこにはめればとりあえず肯定される」っていう所与の構造があったんだけど、今はその構造がないので自分で組み立てないといけない。かといって、なかなかうまく組み立てられるもんじゃないから、表面上の自己肯定感だけ得ようとすると、自己啓発本とか読んだ瞬間だけ「私は大丈夫!」ってなるんだけど、翌日にはすべて忘れてるみたいなね。あんなもの読んでても、そこの構築はできない。気分だけだから。

小野 そうですね。

佐々木 やっぱり今必要なのは、そういう組み立てをちゃんとするってことだと思う。しかも、それを小野さんのように自分自身でできる人もいれば、できない人もやっぱりたくさんいるから、そのための構造みたいなのをね、もう一回ちゃんと社会の理念としてみんなで作った方がいいんじゃないかなと。

小野 その組み立て方法は一つですか? みんなそれぞれあるものですか?

佐々木 わからない、一つかもしれないし、たくさんあるかもしれない。たとえば、政治哲学、公共哲学っていう分野で言うと、コミュニタリアニズム(共同体主義)とかリベラリズム(自由主義)とかさ、いくつかフレームあるわけじゃない。それは人によって考え方が違う。あるいは、たとえば今でも、自由な選択肢がある生き方がいいのか、あるいは日本の伝統とか歴史みたいなものに自分を投影して、そこに安心感を得るのがいいのか、ってこれも革新と保守みたいな、そういう分け方もあるわけだよね。どっちを選ぶかは個人の自由だけど、でも今のような日本の伝統と歴史に依拠するって言っても、あまりにも日本って国が大きすぎるので、単なるネトウヨになっちゃうみたいな問題が起きるわけで、それは違うよねと。

小野 はい。

佐々木 たとえば、郷土愛が軸になるパターンもある。自分の生まれ育った山梨のどっかの山があり、そこに帰って農業をやる、もしくは、長期のプロジェクトに参加する。そこでもしかしたら、自分の中に強い軸が生まれるかもしれない。いろんなパターンがあると思う。その「組み立て」が、個人個人に帰せられちゃっていて、それを自力で作らないといけないから、それは結構キツい。仕方ないから、みんな自己啓発本とか、「全米が泣いた」みたいな安易な感動に行っちゃってるわけだけど、そうじゃないものがいくつかのフレームとして提示されてくっていうのが大事なんじゃないのか。

小野 ほんとだったら学校でできれば一番いいことなんでしょうけどね。

佐々木 学校の先生はそんなの知らないからしょうがない。教育っていうのは常に、前提としての社会構造があって、その社会構造に基づいてどういう人が必要かって教育が行われるわけでしょ。日本の戦後教育は、大量生産、大量消費の仕組みが産業の構造としてあって、それに適合したある程度一律に同じような顔をした労働者を生むために構築されたわけだから、その枠組みが消滅したあとに、どういう教育をしたらいいか、誰もわからないっていうのが今の現状。かといって、全員が個性を大事にとか言ったって、そんなの、個性を大事にして食べていけるやつは一握りしかいないだろうって話になる。

小野 さっき私が「姿勢」って言ったものと、「個性」はごっちゃになりがちですよね。

佐々木 別に個性がなくたっていい、自由じゃなくたっていいって考え方は当然あるし、もっと自分が依拠できる社会が必要だ、という考え方だって十分ありうると思うよ。

小野 そうですね。

佐々木 何に頼って生きていくのかっていう話だよね。「宗教」って頼る先として相変わらずあるよね。世界的に宗教離れとか言われてるけど、それはややこしい教義に愛想尽かしてるだけで、パワースポットブームだったり、宗教的な感覚に頼りたいって気持ちに傾いている人ってすごく多くて。あれはやっぱりある種の不安感の表れなんじゃないか。神社に行ったりするとなんとなく、自分が何かに属してる気持ちみたいなのが生まれてくる。

小野 依拠する対象、ないしは共同体って意味だったら、宗教って全然ありですよね。

佐々木 ありだよね。

小野 依拠するものがない時代に、個人個人が、生きるための姿勢を身に付けるにはどうしたらいいか、それを『傷口から人生。』で伝えたかったんですが、この本を読んだ方からいただいた感想の中には「小野さんみたいにお母さん殴れば済むってもんじゃないよ」とか「あんたは文章力があったからそれができただけでしょ」みたいなのもあって。

佐々木 そういう反応って、全員が同じじゃなきゃいけない幻想の表れだよね。

小野 そうですね。

佐々木 全員が小野さんと同じにする必要はない。別に君だってその本書いて、全員に母親殴れって言ってるわけじゃないよね。

小野 なんらかの原因で自己肯定感が得られなかったり、ドロップアウトしたり、今までよしとされていた方法で自己の組み立てができないんだとしたら、自分流のやり方で組み立てていかなきゃいけないよ、みたいなことが言いたかったんですけど。

佐々木 いろんな組み立て方があって、これが小野美由紀風の組み立てだったんだっていう話だよね。

小野 そうですそうです! まさにそれを言いたかったんですよ。組み立てをしていくときに他人のせいにしたり、社会が悪いとか言ってもしょうもないよっていう。

佐々木 言ってもいいんだけど、別に何も得られるものはないよね。

小野 そういうことですね。(了)

 

⇒前編はコチラ⇒中編はコチラ

 

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小野美由紀 ライター・コラムニスト

1985年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文学専攻卒業。2011年、震災を描いた絵本「ひかりのりゅう」の発売のためクラウドファンディングを立ち上げ、2014年に出版。著書に『傷口から人生。』(幻冬舎文庫)、『人生に疲れたらスペイン巡礼』(光文社新書)がある。

佐々木俊尚 作家・ジャーナリスト

新聞記者時代、著者の人間関係は深く、狭く、強かった。しかしフリーになり、リーマンショックと東日本大震災を経験して人とのつながり方を「浅く、広く、弱く」に変えた。その結果、組織特有の面倒臭さから解放され、世代を超えた面白い人たちと出会って世界が広がり、妻との関係も良好、小さいけど沢山の仕事が舞い込んできた。困難があっても「きっと誰かが少しだけでも助けてくれる」という安心感も手に入った。働き方や暮らし方が多様化した今、人間関係の悩みで消耗するのは勿体無い! 誰でも簡単に実践できる、人づきあいと単調な日々を好転させる方法。

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