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2015.04.29

第1回

『僕がコントや演劇のために考えていること』(小林賢太郎)に名著『知的生産の技術』の神髄を見た!

漆原 直行

『僕がコントや演劇のために考えていること』(小林賢太郎)に名著『知的生産の技術』の神髄を見た!

成果が上がらないとき、やる気がないとき、いいアイデアが出ないとき、つい、ビジネス書に助けを求めてしまう方も多いでしょう。でも、ビジネス書を読んだだけでは、ビジネスのこと、仕事のことがすべてわかるわけではありません。本連載では、「一見ビジネス書には見えないけれど、実はすっごく仕事に役に立つ!」という本を選りすぐってご紹介。仕事のヒントは、思いもかけないところから吸収できます。まず第1回に取り上げるのは、一見、演劇本。でも実は仕事に役に立つ、『僕がコントや演劇のために考えていること』(小林賢太郎著)。評者は、『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』の著書もあり、ビジネス書の目利きであるライターの漆原直行さん。あらたな魅力を発見してくださいました。

★紀伊國屋書店新宿本店と紀伊國屋書店南店ではパネルとともに本書を展開中です。ぜひ足をお運びください。また、「見かけは違うけど」シリーズを展開してくださる書店様も募集しています。弊社営業部までご相談ください。

■本書のあらたな魅力■
一見、アーティストによるクリエイティブ論。しかし、その本質は、実践的な「知的生産の技術」を網羅するものだった!
 

お笑いや演劇に興味がないからと遠ざけているともったいない

緻密な仕掛けで観客を魅了する劇作家・パフォーミングアーティスト、コントグループ「ラーメンズ」としての活動でも知られる小林賢太郎氏。

 著者は、劇作家でパフォーミングアーティストの小林賢太郎氏――個性派コントユニット「ラーメンズ」でブレイクの後、演劇のプロジェクトやソロパフォーマンスなど、劇場でのライブ感を大切にした活動を精力的に展開している人物である。

 今回取り上げる『僕が演劇やコントのために考えていること』は、そんな小林氏が創作をする際の基本的な考え方やスタイル、こだわりといった事柄を「99の思考」として、シンプルかつ率直に綴ったショートエッセイ集のような本だ。

「身なりを整える」「経験と環境にお金を使う」「勉強に発想が負けてはいけない」「代案のない否定は意味がない」などなど、端的な視点を99個ほどそろえて、それぞれを1~2ページ程度でコンパクトに語っていく。たとえば、こんな具合に。

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アイデアは思いつくというよりたどりつくもの

 アイデアは「ひらめく」とか「おりてくる」と表現されることがありますが、僕は「たどりつく」ものだと思っています。
 日常のすべてにたどりつくためのヒントが隠されています。大事なことは、そのヒントをうっかり見落とさないよう、いつでも意識しておくこと。たとえば、部屋の時計の針の音に意識を集中してみてください。秒針の「チ、チ、チ、チ……」という音です。気にしだしたらずっと聞こえていると思います。今まで聞こえていなかったのは、気にしていなかったからです。こんなふうに、アイデアのかけらも、意識しなければどんどん通りすぎてしまうのです。
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 このトピックについては、これが文章のすべてだ。このうえなく、シンプル。でも、じんわりながらも確実に心に刻み込まれる箴言ではないだろうか。同書には「セリフは一文字でも少なく」という項目もあるのだが、まさにそれを地で行くような筆致で、研ぎ澄まされた言葉が端正に並んでいる。


覚悟が求められるのはビジネスパーソンもクリエイターも同じ

 何事においても、覚悟を決めている人だけが醸す出すことのできる「説得力」のようなものが存在する。

 わかりやすいところでは、職人の世界や芸事の世界がそうだろう。ひとつの物事に専心し、愚直に取り組み続ける。ときには誤解されたり、そしられたりすることだってあるかもしれない。それでも、神に帰依する求道者のごとく、謙虚に、誠実に、素直に、目の前のタスクに当たる姿勢は、確実に周囲にも説得力となって響くようになる。

 ……と、妙に大上段に構えた感じになってしまったが、「その道何十年」なんて人は大概カッコよく見えるものだし、万難を排して自分の仕事にコミットしようとする人は、周囲からの信頼も自然と厚くなるもの。そしてこれは、別に職人や芸事に取り組む人だけに限らず、一般的なビジネスパーソンの世界においても同様ではないだろうか。たとえ地味な裏方仕事であっても、それに粛々と当たる姿はとても清々しいものだし、共感や説得力となって、ジワジワと周囲に伝播していく。

 そうした視点で見ると、今回紹介する『僕がコントや演劇のために考えていること』は、前述の「覚悟」が行間から滲み出し、読んでいるうちに思わず居ずまいを正してしまいたくなるような本だといえる。穏和な筆致の裏側にある鋭利な感性に、ピリピリとしびれてしまうのだ。

 また、教訓としても読めるようなこの手の本は、とかくお説教的な、ある種の押し付け感や暑苦しさを醸すものだが、そうした印象がほとんど感じられないのも魅力だ。それはきっと、本書が精神論を語るようなものではなく、思いのほか実践的な“知的生産の技術”について、数多くの示唆を与えてくれる内容に仕上がっているからだろう。

 そもそも本書に通底しているのは、自分が優先したいこと、より多くの時間を割きたいことを見極めて、生活におけるさまざまな営みに優先順位を付けながら、良質なアウトプットに繋げていこうとする、小林氏の誠実な創作姿勢だ。それはつまり、いかにして余計な事柄から自分を遠ざけて、本来やらなければならない仕事に専念するか、という考え方といえる。

 このような考え方は、ビジネス書やビジネス雑誌などでも頻繁に話題にされてきた「ライフハック」の文脈と、かなり相通じるものだ。


自分なりの方法論の掴み方

本書で語られている事柄は、とどのつまり、どうすれば自分のクリエイティビティを最大化できるか、という点を極限まで考え抜いた小林氏なりのライフハックといえる。そしてその内容は、(おそらく小林氏本人は意識していないだろうが)ビジネス文脈で語られる知的生産術やライフハックと極めて近似になっているあたりが、非常に興味深い。ビジネスパーソンが何気なく読んでみたら、期せずして良質なビジネス書に触れたときのような満足感を得てしまった……なんてことが起きるだろう。思わず「おっ」と膝を打ってしまうような気づきを与えてくれるに違いない。

 ここでもう少し雑感を付け加えておくなら、本書を初めて通読したとき、奇妙な興奮を覚えたのだ。この本、何かに雰囲気が似ている──そう感じて、すぐに思い当たった。梅棹忠夫氏が著した『知的生産の技術』だ。1969年の刊行以来、現在に至るまで読み継がれている同書は、すでに本稿でキーワード的に用いている『知的生産』という言葉を広く世に知らしめた、実用書、ビジネス書領域における名著中の名著である。

 『知的生産の技術』に、こんな一節が登場する。
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わたしは、ながねん学校にはかよったけれど、先生たちは学問の内容をおしえるばかりで、勉強のしかたという点では、意識的にせよ無意識的にせよ、結果的には意外に秘密主義であったようにおもう。ノートのとりかたひとつにしても、わたしは、先生から直接おそわったという記憶がない。(中略)みんな、「みようみまね」でやってきたのである。
 あるいは、それでよかったのかもしれない。おしえてくれないからこそ、学生たちは自発的・積極的に、自分でくふうをし、あるいは先生や先輩のやりかたを「ぬすんで」、どうやらきりぬける方法を身につけるようになるのである。

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 一方、『僕がコントや演劇のために考えていること』にある「つくり方をつくる」というくだりでは、劇団に属したことも、お笑いの学校で学んだこともない小林氏が、師匠もいなければ教科書もないところから、見よう見まねで舞台作品を創作していったことが語られている。トライ・アンド・エラーを自分なりに積み重ねていくことで、「僕にとってとても重要なルールをつかまえることができました」と語る小林氏は、こう続ける。

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それは、「コント」とか「演劇」という概念の完成予想図を持たずに、自分のつくりたいものを純粋に形にする、というやり方です。つくりたかったものがたまたま世の中で「コント」とか「演劇」と呼ばれているものに近かったから、そう名乗っている。そういう感覚でつくっていくことで、僕らしいものが生み出せると気づいたのです。つくり方をつくったのです。
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この2冊に共通するのは、自分なりに創意工夫を重ねて、既成概念に縛られることなく、自分なりの方法論を掴み取ろうとするマインドだ。ストイックでありながら、しなやか。筆致にもどこか同じような匂いがあって、誰が読んでも一読しただけで理解できるような穏やかさをたたえつつ、無駄を省いたソリッド感も兼ね備えている。

「自分は別に、お笑いや演劇にも興味がないし、著者の活動のついても詳しくは知らないし……」などと距離を置いてしまってはもったいないような、とても高純度なライフハック本であり、ビジネス書としても秀逸な一冊。やはり、覚悟を決めている人物は、何を語っても説得力が違う……ということなのかもしれない。

 

※※※

『僕がコントや演劇のために考えていること』目次

小林賢太郎という職業 
「面白い」の領域は無限 
つくり方をつくる 
テレビにはあんまり出ないようにしています 
小林賢太郎は劇場にいます 
予備知識のいらない笑いであること 
人を傷つけない笑いであること 
耐久性のある作品であるために時代を反映させない 
情報を制限して、観客のパーソナルに入り込む 
アイデアは思いつくというよりたどりつくもの 
ルールを発明できれば、なんでもないものが宝の山になる 
難しい方を選ばないと、誰かが出した結果しか出せない 
ないものをつくるという最高難度の仕事 
変な人であることを認めつつ、自分の普通さを死守する 
自分は何が好きなのかを知り、なぜ好きなのかまで考える 
経験と環境にお金を使う 
1行でも自分のためになると思ったら、その本は買いだ 
お客さんを楽しませるために、お客さんになる 
自分で決める力をやしなう 
身なりを整える 
仕事は重ねない、重なったら机を変える 
朝6時からのゴールデンタイム 
集中できててもできてなくても、つくりかけの作品からからだを離さない 
〆切とは、完成品の更新をやめるときのこと 
完璧じゃないと気持ち悪い 
「オリジナルを生み出す」ということから逃げない 
我慢ではなく努力、後悔ではなく反省 
「誰とやるか」「どこでやるか」より「何をやるか」 
つるまない、つるめない 
うちはうち、よそはよそ 
代案のない否定は意味がない 
できない理由を並べずに、できる方法を考える 
人のせいにしない 
知識は経験と組み合わせて糧にする 
勉強に発想が負けてはいけない 
「想像筋」は調べないことで鍛えられる 
「ものしり」なことと、その人の話が面白いかどうかは別 
ワードハンティングは「意味」と「音」と「形」で 
完成品を素材にする 
「力のある表現」と「激しい表現」とは違う 
「ウケる」と「売れる」と「有名になる」を分けて考える 
見た目と実力のバランス 
舞台、テレビ、映画、架空のトライアングルに惑わされない 
演劇アレルギーは治さない方がいい 
「おどけ」は必要ない 
東京と大阪、笑いの違い 
コントができても漫才ができるとは限らない 
お笑い用語にとらわれすぎない 
コントの台本は地層のように重ねてつくる 
つくる順番は「しくみ」「オチ」「素組み」「装飾」 
セリフはヒント集、答えは書かない 
セリフは1文字でも少なくする 
褒められ方を想定する 
自分の「なんとなく」を信用しない 
やっちゃいけないことはない、ただしデタラメは通用しない 
「ふつうのもの」がほしい 
あってもなくてもいいものは、ない方がいい 
劇場のサイズにきちんと反応する 
音楽は情報として強すぎる 
観客が「芸」を感じる瞬間を織り込む 
観客は拍手のしやすさに拍手をする 
楽しみ下手なお客様のためにできること 
芸術だって経済的な成功は大事 
散らさないチラシの効果 
「自分ひとりだけが知っている特別なもの」と、数万人に思わせる 
タイトルに仕事をさせる 
ポスターやチラシの質を上げることは、作品の内容も質が高いという宣言 
表現力とは、ほぼコミュニケーション能力 
優秀なパフォーマーは、自分を客観視する能力を持っている 
緊張はするべき 
身体は、高価で精密な道具としてあつかう 
役者には演技の見本ではなく言葉で伝える 
演技者は著作物を尊重し、著作者は演技者に尽くす 
台本は「覚える」というより「知っている」という状態にする 
劇場の空間を五感でつかみ、観客を迎える 
上演が始まってからの作品の成長について 
客席に優劣をつくらないためにファンクラブをつくらない 
楽屋挨拶に行くときは手ぶらで 
返事や挨拶には機能がある 
打ち上げは飲み会じゃない 
スタッフとの信頼関係と距離感 
海外に憧れて、憧れ終えてから見えた自分のやるべきこと 
芸術は僕を守ってくれない、しかし芸術は僕を裏切らない 
芸術教育は指導者だって成長過程なのです 
デッサンから多くのことを学びました 
マジックから多くのことを学びました 
30歳までは貯金はしないで、すべて自分につぎ込みました 
40歳までは下積み 
やりたくない仕事は、やるべき仕事に矯正してしまう 
売れるためにやった逆境の利用 
売れる準備ができているか 
絶対に売れない方法は「辞める」ということ 
芸で食っていくには「憧れ」よりも「覚悟」が大事 
夢を大人に説明する義務 
顔と名前を出して仕事をすることのリスク 
ネット上の誹謗中傷は、自分の活動が公のものになったあかし 
エンターテインメントの役割は「手助け」 
つくることは生きること 
作・演出・出演 小林賢太郎

 

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