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2015.05.28

最終回

母・妹とネットカフェに2年以上
──彩香さん・19歳

NHK「女性の貧困」取材班

母・妹とネットカフェに2年以上<br />──彩香さん・19歳

 働く単身女性の3人に1人が年収114万未満。――2014年1月27日に放送されたNHKクローズアップ現代「あしたが見えない~深刻化する”若年女性”の貧困」と、その続編として同年4月27日に放送されたNHKスペシャル「調査報告 女性たちの貧困~”新たな連鎖”の衝撃」は大変大きな反響を呼びました。
 その後、日本社会の将来を左右する深刻な事態として認識されるようになった「女性の貧困」問題の、最初の一石を投じた2本の番組に、取材しながらオンエアできなかった内容や、登場した女性たちのその後などを盛り込んで書籍化したのが『女性たちの貧困』です。
 本書の担当編集者は、原稿を読みながら、「これが現代の日本で起きていることなのか」と驚き、怒り、たびたび絶望的な気持ちになりました。でも、私たち一人ひとりにできることは、できれば目を背けたい現実をまず知ることだと考えます。

 全6回のダイジェストでお届けする『女性たちの貧困』。最終回となる今回は第6章「 “新たな連鎖”の衝撃」から、番組放送後の反響が特に大きかった、ネットカフェに暮らす、母親と二人の姉妹の話です。

前回の記事:「たった一人で出産、一度だけ抱いた赤ちゃん──真由さん・29歳」

*  *  *

 この店に、最も長い期間滞在しているという女性に出会った。その暮らしぶりや生い立ちに、私たちは今回の取材で最も大きな衝撃を受けることになった。

 彩香さん(仮名)、19歳。黒髪のおかっぱヘアに、マスク、パーカにジージャンを羽織って、ふわっとしたスカートをはいていた。ゆるふわ系ファッションの女の子。街角で出会えばどこにでもいる年頃の女の子という感じを受けた。「こんな子がネットカフェに住んでいるのかな?」。そう思いながら、ネットカフェの部屋から、出てきた彼女にそっと声をかけた。

「ここには最近来たのかな?」

「えっ、ここですか? う~ん、2年とか2年半とか、それくらいですかね。結構、長い」

 19歳の女の子が2年以上、ネットカフェに暮らしているという。ネットカフェ難民といえる状態なのだ。

 彩香さんは、廊下で話していると、周りの利用客に迷惑になるからと、自分が暮らしている部屋に、私たちを招き入れてくれた。

 畳1畳ほどの部屋。入口を入って、左右、そして目の前の壁という壁に、衣類がかけられていた。身に着けているのと同じ、ゆるふわ系の服が多い気がした。生活用品を持ち込み、暮らしていた。ほかには、バッグや冬物のコート。それに、一部、衣類に混じって、洗濯物も干されていた。入口には、黒いブランケットがかけられ、入口の木枠の上には、ブーツや靴がいくつも並べられていた。

 汚くしているわけではない。しかし、とにかく物が多い。左右にかけられた衣類などのボリュームが、さらに部屋を狭く感じさせてもいた。ここでも、女の子の部屋ゆえに、私たちは最大限、デリカシーを持って接しようと、女性のディレクターを中心に話を聞かせてもらうことにした。

「ここに来た理由は、住むところがないというのが一番大きいですかね、理由としては。最初はなんか、あんまりこういうところに来たことなかったから、ちょっと楽しいなぁというのもあったけど、今は、なんだろう、早く出たいという気持ちの方が大きい。

 やっぱりいろんな人がいるから、あんまりゆっくりできないし、部屋の更新代、お金のことばかり気にしちゃう。1日1日、その時間になる前に更新しないといけないから」

 1日あたりの料金は1900円と確かに安いが、ずっと暮らすにはそれなりの金額がかかるではないか。それなら、いっそのこと家を借りればいいのではないか、そう思ってアパートとか借りないの? と聞いてみたが、すでに彩香さんは、前に踏み出す気持ちが衰えているように感じた。

「家を借りたい気持ちも大きいけど、やっぱり一番最初にかかるお金、敷金なんかが結構高いから、自分で出すとなると、なかなか難しいかな」

 

母と妹も。“ネットカフェ家族”出現の衝撃

 実は、彩香さんは、一度、アパートを借りようと物件を探して回ったことがあるという。しかし、最終盤の契約の段階まで行ったときに、保護者の同意が必要になり、母親に反対されたという経緯があったのだ。そういうこともあって、彩香さんは、「なかなか難しい」とあきらめてしまったようだ。

 この話をしているときに、彩香さんは、同じネットカフェに、母親も住んでいるんだと私たちに打ち明けた。母と娘がネットカフェに暮らしているという現実を前に、私たちはどう反応していいかわからなかった。

 彩香さんの母親は41歳。一緒にこのネットカフェに来たという。私たちは、母親にも話が聞きたくて、彩香さんの部屋と同じ廊下沿いにある、部屋を訪ねた。彩香さんの部屋と同様、入口の上にある木枠には、ロングブーツとハイヒールが置かれていた。こちらの入口には、紫色のブランケットがかけられていた。

 コンコン。ドアをノックすると、奥から「どなたですか?」という女性の声がする。私たちがNHKの者だと告げると、母親は、ドアを用心深く開けた。

「さっき娘さんにお話を伺っていたところで」

「そうですか。娘が話すのはかまいませんが、私は結構です」

 母親は、私たちのインタビューは受けたくないという。もちろん無理強いできるものではないので、私たちは、カメラを回してのインタビューではなく、ここに至るまでの事情を聞くだけにした。

「お母さんは、お仕事は何かされているんですか?」

「派遣、やってるんですけど」

 母親は、現在は、派遣の仕事をしているといった。派遣といってもその内容は幅広いが、どんな職種なのかは明らかにせず、ただ、「1カ月とか2カ月とか、派遣でここからいなくなることがあるんです」といった。

 母親は、10年前に夫と離婚してから、娘を1人で育ててきたという。当時は、病院の看護助手として働いていたというが、結局、生活に行き詰まってしまい、ここに辿り着いたと打ち明けてくれた。

 さらに、私たちは衝撃的な現実に直面することになった。

 ネットカフェの店内で、彩香さんが頻繁に訪れる部屋が、実はもう1つあった。彩香さんや母親の部屋があるのとは違う廊下にある、奥まった場所にある部屋。真っ赤なブランケットが入口のドアにかけられていた。彩香さんが、ドアを開けると、薄暗い部屋の中から、「ちょっと、何?」という幼い女の子の小声が聞こえた。

 部屋から顔を出したのは、前髪をぱっつんにして、左右におさげを作った、可愛らしい女の子だった。なんと、彩香さんの妹、萌さん(仮名)だという。

「今、いくつなんだっけ?」

「私、今年で14歳になりました」

「14!? じゃあ、この4月で中学何年生?」

「中学3年生になります」

 学校には、半年近く通っていないという。

 同じネットカフェに、母と姉妹が暮らしているという衝撃的な現実。ネットカフェ難民という言葉は、以前も伝えられたことがあったが、母子家庭そのものがネットカフェに暮らしている、まさに“ネットカフェ家族”の出現だった。

「これって日本で起きていることなのか?」。記者やディレクター、カメラマンの取材スタッフ一同が、その場で目をぱちくりさせながら、この現実に向き合った。驚きや衝撃という言葉ではいい表せない。頭の中が大混乱して、幼い萌さんを前に、しばし固まってしまった。

 まさに、経済的な困窮が、親の世代から、子の世代へと引き継がれてしまっている、「貧困連鎖社会」の象徴ともいえる現実だった。

 

※この連載は今回で最終回です。単行本版『女性たちの貧困 “新たな連鎖”の衝撃』には今回紹介した家族の生活やここに至るまでの経緯ほか、女性たちの貧困の連鎖をめぐる数々の取材内容、また若年女性の貧困を考えるためのデータ集などを掲載しています。是非お求めください。

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