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2015.04.30

第2回

息子との食費は月に2万円
──非正規シングルマザー茜さん・29歳

NHK「女性の貧困」取材班

息子との食費は月に2万円<br />──非正規シングルマザー茜さん・29歳

 働く単身女性の3人に1人が年収114万未満。――2014年1月27日に放送されたNHKクローズアップ現代「あしたが見えない~深刻化する”若年女性”の貧困」と、その続編として同年4月27日に放送されたNHKスペシャル「調査報告 女性たちの貧困~”新たな連鎖”の衝撃」は大変大きな反響を呼びました。
 その後、日本社会の将来を左右する深刻な事態として認識されるようになった「女性の貧困」問題の、最初の一石を投じた2本の番組に、取材しながらオンエアできなかった内容や、登場した女性たちのその後などを盛り込んで書籍化したのが『女性たちの貧困』です。
 本書の担当編集者は、原稿を読みながら、「これが現代の日本で起きていることなのか」と驚き、怒り、たびたび絶望的な気持ちになりました。でも、私たち一人ひとりにできることは、できれば目を背けたい現実をまず知ることだと考えます。

 全6回のダイジェストでお届けする『女性たちの貧困』。第2回目は第3章「『母一人』で生きる困難」から、非正規で働くシングルマザー茜さんの話です。

前回の記事:第1回「四年制大学を卒業したけれど──愛さん・24歳」

*  *  *

 東京都心のターミナル駅で待ち合わせ、4歳の男の子と同席して話を聞かせてくれた29歳の吉田茜さん(仮名)もその一人だった。たまの休日、息子と花見に行く前に取材の時間を取ってくれた。駅近くの喫茶店に入り、「これからお母さんはお話をしているから静かにしていてね」と4歳の息子にいって聞かせると、息子は素直に頷うなずき、おとなしく一人遊びに興じていた。

 今回の取材の過程で会うことができたどのシングルマザーの子どもも、取材中に駄々をこねたり、ぐずったりすることがほとんどなかったのが印象的だった。もちろん知らない大人が来て、緊張しているということもあるだろうが、苦労している母親の姿を普段から見ていて、幼いながらも迷惑をかけたくないと考えているのだろうか。

 茜さんは、現在、IT企業で時給制の契約社員として働き、手取り月収は16万~18万円ほど。さらに約3万円の児童扶養手当と、子どもを育てるどの世帯にも支給される児童手当などを頼りにして生計を立てているという。離婚したのは1年ほど前。元夫からのひどい暴力が原因だった。着の身着のまま、ほとんど放り出されたような状態で家を飛び出してきたという。元夫に今の住所を知らせておらず、養育費ももらっていないとのことだった。

 児童扶養手当とは、父母が離婚したり亡くなったりするなどしたひとり親家庭に支給される手当だ。所得制限があり、子どもが一人で年間所得が57万円未満の場合、満額である月額4万1020円が支給される。所得が上がるにつれて支給額は下がっていき、230万円以上になると支給されない。子どもが2人、3人と増えるに連れて所得制限の限度額は上がり、支給額も加算されていく仕組みだ。所得とは、給与所得の場合は収入から給与所得控除等を差し引いた金額のことで、養育費をもらっていると、その8割相当額が加算される。57万円の所得の場合、収入はおおむね130万円となる。茜さんの場合、所得が満額受給の基準よりも多かったため、月約3万円が支給されている。

 茜さんの生活状況はどのようなものなのか。話からうかがえるのは、生活費を至るところで削りながら、なんとかやりくりをして今をしのいでいるという厳しい現状だった。

「一番削っているのは食費ですね。月2万円になるようなんとか節約しています。以前は、お昼ご飯を食べないで仕事の合間の休憩時間を過ごしていることがよくありました。食べたとしても80円のカップラーメンだけとか。朝食も食パンを自分で生地から作って、お店で買うよりも少しだけ安くなるように心がけています」

 

 児童扶養手当が満額受給ではない、「余裕が少しはある」とみなされるレベルの収入状況でも、食費を削らなければならない母子世帯の厳しさ。生きていくのに必要最低限の収入しか得られないぎりぎりの生活とはどんなものなのか、話を聞くうちにだんだんとその様子がわかってきた。

「生活のやりくりだけで、毎日本当に大変ですね。4カ月に1回、まとめて振り込まれる児童扶養手当で、月々のマイナス分をなんとか補てんしている状況です。理解ある友人から子ども服のお下がりをもらったり、化粧品をもらったりしています。また、給料日前になると、友人が気を使って子どもと食事に誘ってくれてごちそうしてくれます。いつも申しわけないと思いながら、甘えさせてもらっています。でも自分の収入ではその恩返しができない。それがとてもつらいんです」

 月6万5千円の家賃に、子どもの保育料が延長料金を含めて2万5千円。さらに光熱費や携帯電話の料金を払うと、手元に残るお金はどんどんなくなっていく。

「持病のアトピー性皮膚炎があり、通院にお金がかかったり、生活用品などを特別に気をつけなければいけないので、それにも多少のお金がかかってしまいます。また、離婚のときのストレスで、社会不安障害と診断されたのですが、医療費がかかってしまうので、通院を控えている状況なんです。息子とは旅行にも遊園地にも行ったことはなく、貯金をする余裕は全くないですね」

 確かに茜さんは、話をしている最中、少し神経質そうに目をしばたたかせることがあった。母親として一人息子をしっかりと育てていかなければいけない、その気負いが、大きなストレスにつながっているのだろうか。

 

子どもはなんとしても大学に通わせたい

 また、茜さんは今、契約社員という立場だが、離婚前は正社員として働き、収入も今より4万円ほど多かった。しかし、正社員のままだと、残業をしなければならず、また資格を取るための勉強をしなければならなかったり、休日出勤の可能性も出てきたりするため、契約社員に変えてもらったという。茜さん自身は子育ての時間を確保するためには、契約社員になってよかったといっていたが、果たしてそうなのだろうか。シングルマザーになったとしても、正社員のままで働き続けることはできなかったのだろうか。そうすれば、茜さんは今よりも経済的には余裕を持った生活ができたかもしれない。シングルマザーという、社会の中で厳しい立場にいる人が、さらに厳しい立場に追い込まれていくということに、疑問を覚えずにはいられなかった。

 最後に、今後の生活や子どもの将来のことを聞いた。茜さんは以前、外資系の企業に勤めていたこともあり、英語が得意だという。

「子どもが大きくなって、手がかからなくなったら、英語をさらに勉強して、そうした得意分野を生かせる仕事に就きたい。子どもはなんとしても大学に通わせたい」と小さな声ではあったが、力強く語ってくれた。茜さんの傍かたわらで行儀よく取材が終わるのを待っていた子どものためにも、彼女が想像する未来が訪れることを願わずにはいられなかった。

 けなげに社会の中を生きている母子世帯。統計からも厳しい状況が見て取れる。母子世帯の母の平均年間収入は223万円(平成22年全国母子世帯等調査)。一方で、18歳未満の子どもがいる全世帯の平均年間収入は673.2万円だ(平成24年国民生活基礎調査)。シングルマザーがいかに厳しい経済状況の中を生き抜いていかなければいけないかということがよくわかる。前述の茜さんの年間収入は母子世帯の母の平均とほぼ同じか、少し高いくらい。しかし、それでもどんなに切り詰めてもぎりぎりの生活を強いられ、満足に医者にかかる余裕すらもない。

 特に二十代のシングルマザーの8割が、年間の可処分所得114万円未満で暮らす貧困状態に置かれ、明日が見えない厳しい暮らしを続けている。

 

※第3回は5月7日(木)更新予定です

※書籍『女性たちの貧困』にはここで紹介した茜さんほか、国の支援制度を使って保育士を目指す28歳の敏枝さんの、そこに至るまでの過酷な経緯など、シングルマザーとなった女性たちの“貧困の連鎖”の実態が掲載されています。興味を持たれた方は是非、書籍をお求めください。

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