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2015.04.09

第九回

若き我らの熱き血潮の季節

小嶋 陽太郎

若き我らの熱き血潮の季節

 四月ですね、春です。
 春といえば入学式だ。
 僕は入学式というものを人生で四回ほど経験したが、小学校と中学校は覚えていない。そして大学は、「なんか行って、帰ってきた」ということしか覚えていない。つまりこれからするのは高校の話ということになる。
 中学から高校に上がるというのはものすごく緊張することであって、みんな「最初が肝心だ」と思いながら新生活に突入していく。僕も同様で「最初が肝心だ」とは思ったが、入学式よりもまえに催される新入生オリエンテーションでいきなり左右異なる靴下を履いていくという失態を演じた。いちばんはじめだからもちろん上履きなどもなく、ぼろい体育館で、僕は靴下の右足にだけラインが入っていることを周囲に悟られないようにもじもじしながら高校生活に関する説明を聞いた。しかしそんなことはここに書くに値するほどのことではない。
 では何がここに書くに値することかというと、それはオリエンテーション会場の体育館に下駄を履き首に鎖を巻いた学ランの男が乱入してきたことである。しかもひとりでなく複数人だった。首に鎖を巻いているやつと巻いていないやつがいて、全員が全員まったく同じ格好をしているわけではなかったが、下駄と学ランはたしか統一されていた。
「これはまたずいぶんイカレた集団が突入してきたな、テロだろうか」と僕は思った。
 するといきなり音楽が流れ出した。そして、学ランテロリストたちはホヤホヤの新入生たちの間を「背筋を伸ばせ!」とか「セイガンしろ!」とか言いながらぐるぐると巡回し出した。僕は突然襲来した学ラン野郎たちに怯えながら、「セイガンてなんだ?」と思った。
 そのうち音楽に乗せて「若き我らの熱き血潮が云々」みたいな(そんな歌詞ではなかったと思うけど、なんかそういう感じの暑苦しい)歌が聞こえてきた。テロリストのうちのひとりが僕のとなりに立っていた新入生の前で立ち止まり、「キサマー! 歌わんかー!」みたいなことを言った。僕はびっくりしたが、どうやらテロリストたちはランダムに新入生の前で立ち止まっては同じことを言っているようだった。体育館のいたるところから「キサマー!」という声が聞こえてきたから、そうだ。
 おそらく彼らは「若き我らの熱き血潮」の歌に合わせて、僕たちが歌うことを要求しているらしい、と僕は推測した。しかしそんな汗臭そうな歌を僕たち新入生はだれひとりとして知らん。歌えと言われても困る。そんな僕たちの思いを無視して彼らは「歌えと言ってるだろー! 声を出せー!」と言って下駄でぐるぐると新入生の間を歩き回り、男女の区別なく適当な人の前で立ち止まっては十センチほどの距離で「キサマーーー!」と唾を飛ばして新入生を罵倒した。
 とうとう僕のまえにもテロリストのうちのひとりが立ち止まった。心臓が急速に鼓動を速めるのがわかった。「キサマー! その靴下はどうしたーーー!」と言われたらどうしようと思った。けど、ふつうに「歌わんかー!」と言われただけで事なきを得たのでほっとした。
 テロリストたちはしばらく理不尽な罵倒をかまして、ある程度気がすんだのか、そのうちどこかに行った。「なんだあいつら……」と思ったが、数日後に催された入学式にも彼らは出てきて、何か大きな声を出していた。
 そして入学早々僕たちは彼らに十数曲の汗臭い歌を覚えさせられ、校庭に整列させられてバカでかい声で歌わされた。少しでも歌詞を間違えたり声が小さかったりすると前に引っ張り出され、恥ずかしい思いをしながら歌わなければいけないという過酷なものだった。
 僕の学校はもと男子校だったから応援団という悪しき(と言ったら怒られそうだ)風習が残っていて、新入生は入学早々、一か月に及ぶ理不尽な罵倒と応援練習を乗り越えなければならんという話である。
 ちなみに、応援練習が終わると応援団員は新入生にとてもモテる。
 応援団員は新入生にとって最初の一か月は恐怖の対象でしかないが、それが終わった後にちょっとやさしくすれば応援練習時とのギャップがすごいので先輩に憧れやすい一年女子には効果てきめんで、素晴らしい効果を上げることができるという仕組みである、たぶん。
 卑怯だぞ、キサマラーーー!
 あと応援団はしきりに「セイガンしろ!」と言っていたが、「セイガン」とは何だったのかいまだに謎だ。と思って調べたら「正眼」という言葉があったので、それのことだろうか?
 ともあれ僕の通っていた高校は、そういうおもしろい高校だった。
 彼らは今年もちゃんと理不尽に猛り狂って「セイガンしろ!」とか言っているだろうか。

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