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2012.07.15

第六回

減らさねば削らなきゃ願いが
飢えを喚ぶねじれ、不惑も半ばで初体験

内澤 旬子

減らさねば削らなきゃ願いが<br />飢えを喚ぶねじれ、不惑も半ばで初体験

 生まれてから四十四年、ダイエットというものをしたことがなかった。
 私が中学生の時には、ダイエットはもうすでに女子ならだれもが目指すものであり、体重測定の前日から飯を抜くのが当たり前という世情だった。
 しかし残念ながら、私にはダイエットの必要がないどころか、一歩間違えば生命の危機に陥ると心配されるほどに、痩せていたのだった。
「うーちん(当時のあだ名。小学校時代はホネホネロックと男子から呼ばれていた)はダイエットの必要がなくていいなあ」と毎日のように言われたものだ。
 医者にかかれば拒食症を疑われることもしょっちゅうで、胸もぺったんこ。だれしも心の底から自分をうらやましがっているのではないことくらい、中学生の知能だって十分すぎるくらいわかる。優越感に浸ったことなんぞ、一度もない。
 二の腕が手首と同じ太さしかなく、気味悪がられるので人前で出すことができなくて、どんなに暑くても長袖シャツを着ていた。当時は汗もほとんどかかない体質だったのは前回書いたとおり。

 一度でいいからダイエットというものをやってみたかった。

「昨日からなんにも食べてない、マジハラヘッター」とか言いながら机につっぷしてみたかった。
「ねーねーポテチ十枚でご飯一杯分のカロリーって知ってた? やーばーいー!!」なんて教室に駆け込むなり叫んでみたかった。
 ダイエットを語るときのクラスメートたちは、とても楽しそうに見えたのだ。
 私から見ても結構細めの、ダイエットなんて必要ないように見える女の子も、なんだかんだとダイエットしていたのだが、くどいようだが十代の私には、どこをどう探しても、なにひとつ脂肪がなかったので、どんなにやってみたいと思ったところで、どうにもならない。
 むしろ少しでも食べ過ぎれば胃酸過多となる胃をなおして太らねばならないのだが、そんな悩みを解消する情報なんて、深夜ラジオを聞こうがティーンズ雑誌をめくろうが、取り上げちゃくれない。悩みを分かちあえる痩せすぎの友もいなかった。

 胃酸過多は、大学生になるころにようやく治るのであるが、何を食べても一向に太らなかった。
 幼少時から常にたくさん食べろ、なんでも食べろ、とにかく食べろ! と親から言われ続けて育ったため、気がついたら兄から「おまえ、ちったあ遠慮しろ !」と叫ばれるくらい、出された皿に、いの一番に箸をつけ、最後に残ったひとつを躊躇なく食べる、行儀の悪い女に育っていた。
 今も男性と食事をすれば、あまりに早くたくさん食べるため、驚愕される。
 過食症というわけではない。吐いたこともない。一人で部屋にいれば、食べたい欲求を抑えたことはないが、それほど食べるほうでもない。何かを食べ続けることもないし、夜食もめったにとらない。
 以前に部屋をシェアした女の子は、外ではとても少食だったのだが、いざ一緒に住んでみたらご飯をよくお代わりするわ、なんだかんだとじつによく食べる人で吃驚した。食べ方のとても綺麗な人だった。
 ともあれ、自分は家の中での食はどうやら細い方らしいと、そのときわかった。

 おそらく誰かから供された食事はとにかくおいしく食べきらないと、怒られる、失礼に当たる、と刷り込まれているんじゃないかと思う。
  
 あれから四半世紀どこじゃなく、三十年以上経ってから、まさか自分がダイエットをすることになるとは、思わなんだ。いや、ダイエットと呼べるレベルかどうかも怪しい。それでも一応生まれてはじめて、病院の検査以外で食欲を抑制するということに挑戦したのだった。

 時は2011年10月。ちょうどバレエ廃人として、原稿もうっちゃり(申し訳ない!)、毎日ひたすら筋肉を動かしまくっていた頃である。
「ちょっとハヤシが頼みたいことがあるみたいで、あとで電話がいくと思うんだけど……」
 バレエスタジオの更衣室でヤマザキさんに呼び止められた。ヤマザキさんがハヤシというときは、旦那さんつまり配偶者のことで、彼はクロワッサンという女性誌に移動したばかりの編集者。
 春には病後の養生特集ということで、同じく大病をした森まゆみさんと対談させていただき、病後にはまってるということでヨガをやってる写真まで曝してしまった。

 これがきっかけでヤマザキさんからバレエ教室にお誘いいただいたのであるから、感謝している。けれども、雑誌に自分の写真を曝すのは、それなりにプレッシャーあり、さらにヘアカットなどなど、自腹の準備が伴う(もちろん強制されるわけではない)。
 で、今度はなんざんしょう……? ハヤシさんからの電話に身構える私。
「今度ね、下腹を凹ませてくびれを作るという特集なんですよ。それでね、バレエの動きが効くんじゃないかということで、バレエを始めたばかりの内澤さんに……」

 んー。下腹ですかあ。
 たしかにここんところのバレエ廃人生活で、左右の腰骨の脇にえくぼはできた。腹周りの筋肉は進化している。
 しかし私の腹の基礎はヨガで作られたのだった。まるで筋肉がない、隠れ下半身デブ状態だったころから、およそ五年かけて背筋腹筋、そして腹の中に潜む腸陽筋を鍛え、縦に三つ割れるようになった。
 ヨガを始める前から比べてデニムは二サイズ落ちた。体調と月経周期によって左右するものの、月のうち一週間くらいは、七十に近かったウェストも、六十を切るようになっていた。
 ちなみにヨガでサイズダウンを目指したい方のために付記すれば、友人たちとの飲食や映画鑑賞も削り、週に三回以上ヨガに時間と金を注ぎ込んでの結果である。失ったモノもたいへん大きい。
 もちろん週に一回やるだけでも、健康にいいし、身体も気持ちいいものだが。
 さておき。 
 私としては、体調を良くするためにヨガに入れ込んだわけで、ウェストがここまで細くなってくれるとは、想定外だった。ラッキーだが、これ以上ウェストを細くするよりは、垂れたまんまの尻肉をなんとかしたいのだ、尻肉を!!
 ウェストや膝下が締まった分(そして大鏡を見るようになって)、目について仕方がないったらない。

 下尻肉削減の特集の時に呼んでくださいよ!! そしたら全力で協力しますよ!!
男性に向かってガンガンまくしたてる話題ではないのは、承知だが仕事なんで、仕方がない。
  
 しかし待てよ。ふと冷静になる。九月十月と受賞鬱にバレエにかまけて、まるっきり単行本の仕事を進めていない。しかも大きな連載が二本とも終わっているではないか。つまりは、現金収入の当てがないってことだ。単行本の刊行日も決まっていない。印税が入るのはどう見積もっても半年以上先のこと。かなり危うい経済状況なのである。撮影に協力すれば、些少ではあってもギャラはいただける。

「ん、でもまあ、やってやれないこともないですけど……」と、急にトーンダウンする私。
 そうですか?  ハヤシさんは私の口調の変化を見逃さない。それなら企画進めますよ。いやー助かります。とりあえず何ポーズか撮影をお願いすることになりますから、下腹は出さないでおいて下さいね。と、最後にさりげなく厳しい指示を残して、あかるく電話を切られた。

 ぬうう。
 翌日バレエクラスでバーレッスンをする自分を見る。見るったら見る。へたくそなのは当たり前だからいいのだ。四ヶ月くらいで、サマになるほど上達していたら、おかしいだろ、というくらいバレエは難しい。いやヨガだって難しいんだけど、ヨガは一応ポーズに段階がある。バレエのバーレッスンは、漫画や本を見る限り、やってることは初心者も上級者も一緒なのだ。
 どうやったところで、四十すぎの中年が始めて数ヶ月足らずで正しく美しいポーズをとれるわけがないんだから、いいのだ。やる前からそれは居直り切っている。
 しかもK先生に監修として撮影に立ち会っていただくことになったので、百人力である。力を入れる場所と向きが間違ってなけりゃ、いいだろうよ。

 問題は、下腹である。
 私の下腹は、コンディションさえよければざっくりと削れるのであるが、一日で数センチ太くもなるのだった。昔はそんなことなかったんだが。アルコールを飲んだ翌日は確実に脂肪となる。夜食に甘いモノを食べてもポテチを食べてもその分は確実に腹につくのだ。そんなに簡単に?? とびっくりするくらい、早い。

 そしてちょっと外食を控えて、モソモソと自宅で納豆だの玄米だの豆腐だのを自炊して、ヨガやバレエを続けていれば、しゅるりんと落ちる。
 落ち具合は月経周期による。低温期ならば翌日には落ちる。高温期ならば、三日はかかるだろうか。
 いつからそういう体質になったのかは、わからない。なにしろ鏡で身体のサイズチェックをするようになったのは2009年からなのだ。
 野放し状態で最高潮に下半身が太ったときから、どれくらいサイズダウンした後に鏡と婦人体温計とメジャーと体重計でのチェックを始めたのかもよくわかっていないのだ。データ不足も甚だしい。 
 病前は汗をかかなかった上に、運動もまるっきりしなかったので、体型は歳とともに崩れゆくのが自然の理、と捉えていた。 
 それで一向に構わなかったのだ。文字通り身動きできなくなるまでは。癌にならずに身体に不自由さえ感じなければ、今もそのままだったかもしれない。

 不思議なことにというか、ムカつくことに、尻肉は腹肉ほど急激に増減しない。ただまあバレエを始めてなんとなくは、垂れ具合がマシになったか、という具合。気のせい、くらいのものだ。尻下肉が筋肉痛になることもほとんどない。力入れてるはずなのに。まだまだ工夫が必要なのかもしれない。

 話を腹肉に戻す。撮影日が決まるまで、まだ間がある。大人用バレエウェアで、あれこれごまかすとはいえ、それなりの格好で撮られるのだ。少しでも見映え良く、腹も削れた状態で撮っていただきたいのは言うまでもない。
 なにしろクロワッサンは、都内ならどこのコンビニでも売ってる女性誌なのだ。誰が目にするのかわからない。

 高温期になって、腹が膨れ気味のときに撮影が入る可能性を考え、ここはひとつ、あらかじめ少し痩せておいたほうがいいのではないだろうか。あらかじめ二キロか三キロ落としておけば、高温期になって多少太くなっても大丈夫だろうと予想したのだ。

 ダイエットと言っても単純だ。これをやりゃ太ると言われていることをやらないだけだ。
 普段まったく我慢せずに、食べたいときに食べているケーキを食べない。
 外で人とお酒を飲むときに締めにご飯やうどん、デザートなどを食べない(両方必ず食べていた)。
 自宅にいるときは夜九時過ぎたらなにも食べない。
 家で食べる米粒と小麦粉の量を減らす。
 タンパク質はたくさん食べる。脂はなるべくとらない。

 てなもんである。恥ずかしながら、こんなことすらしたことがなかったのだ。もう中年なんだから、多少は気をつけるべきなのに。

 運動はそれまでも週に二回以上バレエ、一回はヨガに行くようにしている。これ以上やると、また廃人に逆戻りして、貧困を招きかねない。仕事しないとな。

 

 

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