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2015.04.02

最終回

ゲームニクス実践編。子供を授業に夢中にさせる方法

サイトウ・アキヒロ

ゲームニクス実践編。子供を授業に夢中にさせる方法

日本のゲーム制作のノウハウを体系化したゲームニクス理論。このあらゆる分野に応用できる日本発の「おもてなしの知恵」で日本製品の魅力を見つめなおす、サイトウ・アキヒロ著『ゲームニクスとは何か』。その一部をダイジェスト版でお届けしています。(全5回)

これまでの連載で、ゲームニクス理論の2つの目的と4つの原則を見てきました。最終回となる今回は、この理論を学校教育という現実社会の中で応用した事例をご紹介します

*  *  *
 

総合学習のような複雑な授業や、クラス運営を見越した授業作りなどにも、ゲームニクスは役立てられます。この可能性を指摘したのが、千葉県の教育NPO、企業教育研究会(ACE)の方々でした。

 中でも、ゲームニクスと学習の可能性について熱心な姿勢を示してくださったのが、企業教育研究会の理事長で千葉大学教育学部准教授の藤川大祐氏と、同理事で千葉県富里市教育委員会の古谷成司氏です。

 両氏が指摘されたのは、指導要項では書けない「教師の技」を、ゲームニクス理論を応用することで、うまく下の世代に伝えられる可能性があるのではないか、ということでした。

 中でも注目していた点が、「授業のテンポ」の問題です。

 授業のテンポは、早すぎても遅すぎてもいけません。早すぎるとクラスの中で「できない子供」を切り捨てることになり、遅すぎると「できる子」は退屈してしまいます。そこで、伝統的に授業のテンポをクラスの平均的なレベルの子供にあわせることが奨励されていました。

 しかし、ちょっと考えれば分かりますが、「平均的なレベルの子供」というのは、実際にはどこにもいません。平均点と同じく、教師が勝手にこしらえた架空の存在です。そのため、実際にはこのことが、「できる子」にも「できない子」にも適切ではなく、「授業のテンポ」を阻害する要因になっていたのではないか、というわけです。

 

できる子とできない子がいる授業はどう進めるべきか

 それでは、どのような授業を行えばいいのでしょうか?

 ここで両氏は、まず、クラスを構成する子供たちに、それぞれ能力差があることを直視しました。そして、それをうまく利用することで、クラス内のコミュニティを活性化させ、授業作りに役立てるというテクニックについて示してくれたのです。

 古谷先生が実際に行っていた授業の例として、次のようなものがあります。

 まず授業の冒頭で、これから学習する内容に即した、基礎的なテーマの問題を数問、子供たちに投げかけます。基礎的な問題なので、すぐに子供たちは解いてしまいます。

 これで子供たちのやる気が出てきたところで、今日のテーマとなる問題を与えます。できる子はすぐに理解して問題を解いてしまうでしょうし、しばらく考えてから理解できる子もいるでしょう。中には最初から、さじを投げてしまう子供もいるかもしれません。

 そこで、できた子ができない子に教えてあげたり、本当にできない子だけを集めて教師が指導したり、暇そうな子にはプリントを配って応用的な問題をやらせたりと、クラス内のコミュニケーションを活性化させながら、授業を進めていったのだそうです。

 しかし、こうした授業をうまく進めるには、教師の側に相応の力量が必要です。まず子供たち一人一人の能力や学習履歴をしっかりと把握する必要がありますし、子供たちを惹きつけて授業を進めていく話術なども必要になります。それがなければ、授業は空中分解してしまうか、教師の自己満足に終わってしまうでしょう。

 そのせいか、若い教師ほど、教科書どおりに「みんな一緒」で授業を進めてしまいがちだといいます。その結果「授業のテンポ」が悪くなってしまうわけです。

 ここで重要なのは、家庭学習や基礎学習と異なり、クラスでの授業というのは、集団の中で競い合ったり、協力しあったりと、ある種の社会活動を通して学習している点です。

 本来はこうした「教師の技」は、研究授業などを通して先輩教師から盗んでいくものでした。なぜなら指導要項に、言葉で書けないようなテクニックが多いからです。

 しかし、教員数の世代間不均衡などが原因で、こうした“口伝”が難しくなっているわけです。何か新しい取り組みが不可欠になっているのです。

 

理想の授業は、典型的なRPGのストーリー展開!?

 いったい、これに対してゲームニクスがどのように役立つのでしょうか?

 実は、先ほどの古谷先生が示した授業例の中に、すでに答えが隠されているのです。

 先ほどの授業構成が、典型的なRPGのストーリー展開に即していることに、気づかれた方はいらっしゃるでしょうか?

 最初に簡単な問題(=クエスト)で、テンポよく授業(=冒険)を進める。その後、いきなり難しい問題(=クエスト)をポーンと出して、子供たちを放り出す。その後は子供たちが考えながら、友達同士で教えあったり、先生に聞いたりして、問題を解決していく(=フィールドを探索したり、街の人と会話をしながら、さまざまな手がかりを入手して、謎を解いていく)。すでに問題を解いてしまった子はプリントなどで、さらに難しい問題に挑戦する(=ゲームクリア後に登場するクエストやダンジョンなどで、ゲームを極める)。

 ──このように補足すると、授業と典型的なゲームシナリオには、相関性が高いことが分かります。

 学校の授業は1時間で終わるわけではありません。年間を通したカリキュラム設定が必要です。これは1年間で体験する連続RPGストーリーのようなものです。しかも学校の授業だけではなく、宿題などの家庭学習も含めたトータルデザインが必要になるというわけです。

 これを、ひとつのゲームプロジェクトと捉えるならば、ゲームデザイナーにとっても、なかなか挑戦しがいのあるミッションでしょう。

 ただし、テレビゲームと授業には、大きく異なる点があります。

 それは、教師という名のゲームデザイナーが、子供たちというプレイヤーを見ながら、随時展開を変えていける点です。いわゆる「インタラクティブ性」を採り入れた展開ができるのが、実際の授業作りだというわけです。

 

※本連載は今回で終了です。この事例の詳細や、ゲームニクス理論に興味を持たれた方は是非、書籍版『ゲームニクスとは何か』をお求めください。

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