自分サイズが見つかる進化系ライフマガジン

 こんな時間に電話がかかってくるのは珍しい。
「はい、データセンタです」
 受話器の向こうから、早口の言葉が飛び込んできた。
「霞が関です。そちらのサーバの稼働状況を調べてもらえますか」
 霞が関の監視チームからだ。
 停滞した頭を、どうにか相手のペースに引き上げようとする。
「ええっと……どのサーバですか？」
「どうも、アルティメイトクラウドのサーバが何台か落ちているようで……監視システムから軒並みアラートがあがってきているんです。急いで見てもらえませんか？」
 相手はかなり興奮しているようで、何を言っているのか聞き取りにくい。
「すいません……ラック番号で言うと、どこになるでしょうか……」
「どこだろう。第一から第二セグメントの……」
 ごそごそと音がした後、向こうで話し合っているような声がした。
「え、またつながらなくなった？ サーバだけじゃなくてルータにもつながらない？」
 電話の向こうの緊張が伝染（うつ）ったようで、長谷部も緊張してきた。
 何やら分からないが、どうやらとてつもない大規模障害が起きているらしい。
「……ともかくですね、アルティメイトクラウドのサーバが置かれている区画、分かりますよね。そこを一通り確認してください。サーバだけでなく、ネットワーク機器の電源ランプも。確認したら、折り返し連絡もらえますか」
「電源ランプを見たらいいんですね。落ちているサーバの再起動はかけますか？ もしもし……もしもし？」
 いつの間にか電話は切れていた。
 長谷部は受話器を見つめ、途方に暮れた。
 契約社員としてここの仕事を始めたのは、三月（みつき）ほど前だった。
 教わったのは、至極簡単な手順だけだ。
 サーバの電源が落ちたら再起動する。
 ハードウェアが壊れたら、業者に連絡し、交換の手配をする。
 業者がやってきたら、作業者が受付申請システムに登録された本人かどうか、身分証などで確認し、入館証を発行し、認証用の掌てのひら静脈パターンを登録し、該当のサーバが収容されたラックへ案内する。
 それ以外のことをすることはなく、むしろ勝手に何かすることは禁じられていた。
（せめて、樋口（ひぐち）さんが残っていたら……）
 一ヶ月前に辞めてしまった樋口は、元ＳＥをしていたらしい。一目見ただけで、機器の種類を言い当てられた。複雑な配線をする際に、やってきたＳＥにあれこれアドバイスもしていた。
 しかし、今さら文句を言っても仕方がない。経費節約のためか、現在このビルには、自分と受付の小川しかいないのだ。
 長谷部は急いでサーバルームに向かった。

＊第４回は4月17日（金）公開予定です。なお本作はフィクションで、登場人物、団体等、実在のものとは一切関係ありません。