毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

★がついた記事は無料会員限定

2009.07.01

story 2 level(前編)

Lilu

story 2 level(前編)

  追いかけるよりも、追いかけられたほうが、女は幸せ。――と親友のエリコが嫌みったらしく言うたびに、私は内心、プッと笑ってしまう。でも、片想い中の男に心をへし折られてしまった時は、あぁやっぱりそれは真実なんじゃないか、と思うこともある。
 でも、やっぱり、なんでだろう、私はそれじゃ、ダメなのだ。

「待ち合わせ時間を過ぎてからドタキャンの電話って、最悪じゃん、その男……」
 白い半そでシャツに紺色のベストとスカ―ト、首元にスカーフを巻いた制服姿のエリコが、ランチセットのパスタをフォークにクルクルと絡めながら私に言う。
「ん、でも、急に撮影が入ったって言われちゃったら何も言えないし。仕方なくない? それに彼……」
「ほーら、そうやってすーぐ、彼をフォローする! どんなに彼が悪くっても、ミワ、いつもそれじゃん」
 言い終わる前にエリコに叱られてしまった私は、内心ムッとしながらも黙ってアイスコーヒーをすすった。
 惨めだ。フリーランスでカメラマンをやっている彼に、「週末は混むからさー嫌なんだよねぇ」と平日の今日、美術館に誘われたOLの私は、わざわざ仕事を休み、今日のために買った白い麻のパンツをはいて、東京ミッドタウンの前で彼を待っていたのだ。待ち合わせ時間を1時間以上過ぎたころ、彼からキャンセルの電話がかかってきた。
「よく、そんな男と付き合えるよね……。私、絶対ムリだわ、そんな風に扱われるの」
 エリコはそう言うと、ミートソースで赤く汚れた皿にスプーンとフォークを品良く並べ、ごちそうさま、と胸元で両手を一瞬合わせた。「そんな男」と私は、付き合っているわけではなく、ダラダラとセックスフレンドのような状態が続いてしまっているのだけど、それを説明するのも面倒なので「普通、そうだよね」と私は適当にうなずいた。
 ヤバい、昼休みが終わっちゃう、とテーブルに千円札を置いてバタバタと去って行ったエリコの後ろ姿をぼんやりと眺めながら、エリコとはしばらく会わないようにしよう、と私は心の中で決めていた。ドタキャンされてひとりでカフェにいた私とランチしてくれたのに、悪いけど。
「お飲み物のおかわりはいかがですか」と店員が声をかけてきたので、冷房された店内に肌寒さを感じ始めていた私は、ホットコーヒーを注文した。
 暇だ。こうして会社をズル休みして、いつものルーティーン―朝9時半に出社して、6時に退社、約束のない日はスーパーで夕食の買い物をしてから帰って、料理して、テレビ観ながらご飯食べて、お風呂に入って、眠くなったら寝る―から外れてみると、いかに自分の人生がつまらないものなのかを思い知らされる。だって、こうしてポカンと空いた時間の中にやるべきこともやりたいことも、思いつかないのだ。あんなにも平凡な日常なのにもかかわらず、そこから一歩外れてしまっただけで、私はゼロになってしまう。
 でも……。運ばれてきた白いコーヒーカップに口をつけながら、私は思った。エリコだってそうだ。そう思うと、私は不安でソワソワし始めていた胸を、ホッとなでおろすことができた。
 短大で知り合った親友のエリコと私は、身長も体重も、容姿のレベルも同じくらいで、他の友達から「二卵性の双子みたい」だとよく言われる。私たちは卒業後、それぞれ事務員としてメーカー会社に派遣されるOLとなり、会社は違えど年収もほとんど変わらないので、お互い「一緒にいて一番ラク」だと言い合いながら仲良くしている。
 でもいつからか……。ううん、ハッキリ分かっている。エリコが付き合って1年の彼氏と婚約した頃から、彼女の“上から目線”が私の気にさわるようになった。私が今ダメな恋愛をしているのは自分でも分かっているが、私と同等であるはずのエリコに叱られたり、アドバイスされる筋合いはない。それに、男に愛され、大事にされることの幸せをいくら語られたって、エリコの婚約者の姿を思い浮かべた途端に、羨ましいなんて思えなくなる。
 もちろん、エリコにそんなことは言えないが、イイ男を手に入れることを諦めて、自分よりもレベルは下だけどその分自分を愛してくれる男と結婚することが、そんなに素敵なこととは私には思えないのだ。
 一方、「そんな男」とエリコが下に見ている私の好きな男、鹿村栄治は、私たちなんかじゃ手に入れられないハイレベルな男。38歳、バツイチのカメラマンで、元奥さんは有名モデル。私なんかじゃ。付き合ってもらえなくても当然だとすら思ってしまう。そして、彼に関係を持ってもらっているだけで、私はどこか優越感を覚えてしまう。
 きっとエリコはそのことに気付いている。だから毎回あんなにムキになって、彼をけなすのだ。自分よりもイイ男と寝ている私のことを、もしかしたら妬んでいるのかもしれない。
「お飲み物のおかわりはいかがですか」とさっきの店員に再び聞かれた私は首を横に振り、カフェを出ることにした。

つづく

★がついた記事は無料会員限定

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

おすすめの商品
  • ピクシブ文芸、はじまりました!
  • 文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
  • 無理しないけど、諦めない、自分の磨き方
  • 時短、シンプル、ナチュラルでハッピーになれる!
  • ビジネスパーソンのためのマーケティング・バイブル。
  • 有名料理ブロガー4名が同じテーマでお弁当を競作!
  • ドラマこそ、今を映すジャーナリズム!
  • 砂の塔 ~知りすぎた隣人[上]
  • 小林賢太郎作品一挙電子化!
  • あなたがたった一人のヒーローになるためには?
文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作!
ピクシブ文芸、はじまりました!
エキサイトeブックス
今だけ!プレゼント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!