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ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち

2015.03.28 公開 ツイート

第4回

「きずな」に依存する子どもたち 高橋暁子

SNSを避けて通れない現状とどう付き合っていくべきかを、元教員のITジャーナリストが独自の観点で解き明かす『ソーシャルメディア中毒』。その一部をダイジェスト版でお届けします。(全5回)

前回「自撮りで満たす承認欲求の、暴走と過激化」では、SNSによって満たされる承認欲求が、“暴走”してしまった事例を挙げました。今回はネットへの“依存”のパターンと、それがどのように日常生活に支障をきたすのかを見ていきます。

*  *  *
 

 成城墨岡クリニック院長墨岡孝氏によると、ネット依存は次の4種類に分けられる。

・オンラインゲーム依存
・コンテンツ接触型依存
・ギャンブル参加型アプリ依存
・きずな依存(ソーシャルメディア依存)

 まず、「オンラインゲーム依存」だ。オンラインゲームとは、オンラインで多数のプレイヤーを集めて行うゲームのこと。リアルタイムで集まった数人で、チームを組んで戦うことが多い。闘いのために時間になったらログインし、プレイする必要があるため、闘いが夜中の場合は寝ないでプレイする人もいる。一人がいないとチーム全員が死んでしまうことも多いため抜けることができず、結果的にやり続けてしまうケースが多いのだ。仲間から頼られる喜びも感じられるところがくせ者だ。

 次は、「コンテンツ接触型依存」だ。動画やブログなどを延々と見続けてしまうタイプのものはこれに当たる。可処分時間が多く、生活に特に目標意識がない場合になりがちだという。

「ギャンブル参加型アプリ依存」は、オークションやソーシャルゲームなどにハマるタイプの依存だ。アイテムなどの獲得や収集に喜びを感じるタイプで、途中でやめたいと感じても、これまでの努力が水の泡になると思い込んで使い続けてしまうことが多い。かつて問題となった「コンプガチャ」もこれに分類されるだろう。

 最後が「きずな依存(ソーシャルメディア依存)」だ。SNSを使うと孤独が癒やされ、絆を感じ、「いいね!」やコメントなどをもらうことで承認欲求、自己表現欲求も満足できる。しかし、他者と比較することで落ち込んだり、使い続けなければ仲間はずれにされる恐怖とも表裏一体。相手がいるからこそハマりやすく、人間関係に影響する故に、一人だけやめるのが難しい点も問題だ。

 実は、日本人はネット依存の中でも、この「きずな依存」が多い傾向にあるといわれている。前述の通り、近年のSNSの普及により、圧倒的に増えているのだ。

 日本人は、昔から自己主張するよりも周囲に合わせて和を尊び、同調圧力に弱く、村社会を築いてきた。相手への気遣いや気配りが何よりも大切にされる日本人の性質に、SNSがマッチしたのだ。

 なお、オンラインゲーム依存は男性患者が多いが、きずな依存には女性患者が多いという。男性は一般的に勝負ごとで勝つことにこだわり、ゲームを好む傾向にある。女性はコミュニケーションを好む傾向があり、SNSにハマりやすいというわけだ。

 

なぜネット依存が問題なのか

 アルコール中毒や薬物中毒などの依存症は、肉体的にも精神的にもそのようなものに依存している状態だ。これらが問題なのは疑いがないが、なぜネット依存が問題となるのだろうか。何かに極端にハマるだけなら、あまり支障はない。アイドルの追っかけになったり、アニメなどにハマったりしても、そこまで問題になることはない。

 しかし、ネット依存は問題になる。ネット依存になると、社会生活、人間関係、家族関係への悪影響が出る上、肉体的・精神的にも不調を訴えるようになるからだ。これは、墨岡クリニックのネット依存判定において重視している項目とも合致している。

 では、ネット依存になると、具体的にはどんな症状が現れてくるのだろうか。

 たとえば、健康面においては視力低下や肩こり、慢性疲労、不規則な食事による栄養失調、運動不足による過度の肥満、エコノミークラス症候群予備軍も見られる。運動をしないため、骨がもろくなり体力も落ちる。

 夜更かしによって昼夜逆転、睡眠不足や睡眠障害に陥り、遅刻、欠席、授業中の居眠りなどが続いた結果、学業不振になり、最終的には不登校や退学、退職につながってしまう例や、「ネットだけやっていたい」とひきこもって家から出なくなる場合もある。

 ネットに振り回されてしまうため、人間関係にひびが入ることもある。友人と仲違いしたり、恋人と別れたりする羽目になることもある。母親がハマれば家事をしなくなり育児放棄に、父親などの会社員がハマれば仕事を放棄し、退職してしまう例もある。家庭内暴力や暴言などが続いた結果、家庭崩壊や離婚に至ることもあるのだ。

 ソーシャルゲームの課金などにお金をつぎ込んでしまう人や、親にお金を無心したり、盗む子ども、ネットカフェに入り浸ったり、お金がないのにネットカフェを使用して警察に補導される子どももいる。

「ネットのことしか話さなくなり、会話に出てくる相手もネットの友達ばかりになった」

「ネットをやめるように言ったらすごい言葉で怒鳴られ、端末を取り上げたら大暴れして、暴力をふるわれた」

 患者の家族はそんなことを語る。ネット依存によって、日常生活や社会生活が送れなくなったり、人間関係が崩壊してしまったりすることがよく分かる症状といえるだろう。

 小学5年生の女子C美は、家に帰ってから翌日学校に行くまで、スマートフォンを決して手放さない。利用しているのはLINEだ。クラスのLINEグループでのやりとりにハマり、トイレでもお風呂でも布団の中でも握りしめている。

 学校にいる間は、休み時間などにトイレにこもって利用する。

 見かねた保護者が取り上げると泣きわめいて暴れ、禁断症状が起きたように叫び続ける。スマートフォンを渡されると、途端に落ち着いて画面に戻る。おかげでC美はほとんど眠れず、体調不良で欠席する日が続くようになった。LINEをやめさせようとすると、「LINEを見ていなかったら何があるか分からない。見てない時に大変なことが起きたら責任とってくれるの?」と叫ばれたという。

 このようなことはあちこちで起きているのだ。

 

※最終回「ソーシャルメディアが呼び込む孤独」は4月4日(土)の更新予定です。

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ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち

全国でネット依存の可能性がある人は421万人、中高生は10人に一人といわれています。ミクシィの誕生から10年。SNSはコミュニケーションインフラと化した一方で、若者を中心に問題が後を絶ちません。なぜ事件は頻発するのか、なぜ依存してしまうのか。その危険性と不自由さを暴くと共に、SNSを避けて通れない現状とどう付き合っていくべきかを、元教員のITジャーナリストが独自の観点で解き明かす『ソーシャルメディア中毒』。その一部をダイジェスト版でお届けします。(全5回)

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高橋暁子 ITジャーナリスト、情報リテラシーアドバイザー

元小学校教員で、Facebook・Twitter・LINEなどのSNS、子どものネット・スマホの安全利用や情報モラル教育に詳しい。書籍・雑誌・Webメディアへの執筆のほか、学校での講演、社会人向けのセミナー、企業コンサルタント、テレビやラジオへのメディア出演など、活動は多岐にわたる。『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(日本実業出版社)、『ソーシャルメディアを武器にするための10カ条』(マイナビ新書、共著)など著書多数。

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