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2015.03.14

震災に暴かれた悲劇の謎に挑む硬派記者の矜持(真山仁『雨に泣いてる』評)

香山 二三郎

震災に暴かれた悲劇の謎に挑む硬派記者の矜持(真山仁『雨に泣いてる』評)

雨に泣いてる
真山仁
幻冬舎刊/1600円(税別)

 

 2011年3月11日。昼過ぎ、東京の片隅で起き出した筆者が寝ぼけた頭にカツを入れていたとき、それは起きた。いつもと違う激しい揺れに肝を冷やしつつTVをつけたら、いきなりマグニチュード8.8という数字が飛び込んできた。そしてさらに、東北の太平洋岸を襲う大津波の映像が……。

 東日本を襲った未曾有の震災は大きな爪跡を残すだけでなく、今なお被害を生み続けている。その実情はマスコミを通じて余すところなく伝えられてきた──といいたいところだが、残念ながら隠蔽や歪曲によって正しく伝えられていない情報も少なくない。

 福島第一原子力発電所の事故はその最たるものだろう。しかしそのいっぽうで何とか現状を伝えようと努めていた人々も多かった。津波で新聞の印刷が出来なくなり、壁新聞で号外を出した石巻日日新聞は代表的な例だが、むろん東京の新聞社とて呆然と立ちすくんでいたわけではない。

 本書『雨に泣いてる』は震災発生時東京にいた全国紙・毎朝新聞の大嶽圭介記者が被災地に取材に赴くところから幕を開ける。

 大嶽は新米記者時代に阪神・淡路大震災を取材、ある少女の救出劇を報じるが、その「奇跡の生還」記事が裏目に出るという痛手を負っていた。そのトラウマを払拭する意味でも今回は現地取材にいかないわけにはいかなかった。何とか特別取材班のキャップのひとりとして宮城県を担当することになるが、彼の家庭は崩壊寸前。被災地に出かけようとするところへ妻の藍子から三行半を突きつけられる。翌日、反対を押し切って仙台に向かうものの、津波の被災地の惨状に愕然とする。

 大嶽は仙台支局の中岡デスクから、石巻と気仙沼の間にある三陸市に出かけたまま連絡を絶っている新人記者を捜すよういわれる。その記者・松本真希子は毎朝新聞の社主の孫で、同行した三陸通信局の広瀬記者はすでに遺体で発見されていた。翌朝三陸市に向かった大嶽は松本記者の取材先、自殺防止活動を続ける駆け込み寺・少林寺のある花登半島に渡り、松本の生存を確認するのだが……。

 大震災が発生したとき、新聞社はどう対応するのか。本書ではまず、経験を積んだスタッフが招集されて特別取材班が組まれ、現地スタッフと連携を取りつつ取材に挑む、という記者たちの動きがヴィヴィッドに描かれていく。それはあたかも、重要犯罪発生時の警察の初動捜査のようでもある。東日本大震災が題材という点では異色だが、新聞記者小説としては誠にオーソドックスな展開といえよう。

 断続的な余震に見舞われる中、ときとして被災者の反感を買いながらも彼らは取材を続ける。それが使命だというのは簡単だが、精神的にも体力的にも、これほどタフさを要求される仕事はないだろう。松本記者の心服する少林寺住職の意外な素顔が暴露されるとなればなおさらで、大嶽は記者倫理のありかたまで問われることになる。

 震災を背景にしたミステリーでは、阪神・淡路大震災の発生時に奇怪な連続猟奇殺人事件が起きるという谺健二の長篇『未明の悪夢』が思い起こされる。谺氏はそこで、多数の犠牲者が出る震災時にあえて殺人事件の謎に挑むという難題に挑んでみせたが、本書の場合、地元の被災者を始め、数多くの人々を救済してきた地域の偉人の過去を掘り起こすことの是非が問われるのだ。もちろん著者はそこに謎を仕掛け、ミステリーとしてもヒネリのある作品に仕上げている。こちらは水上勉の名作『飢餓海峡』を髣髴させる社会派ミステリーの正統派というべきか。

 新聞記者小説としては、大嶽と松本の世代差──硬派記者と跳ねっ返り記者の衝突エピソードも興味深いところではあるが、まずは記者出身である著者の原点に還る作品として、硬派の社会派タッチを堪能されたい。

 

※『パピルス』2015年4月号からの転載記事です

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