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2012.10.01

第七回

筋肉を、自由自在に操りたいのに
股関節よ、痛まないでくれ

内澤 旬子

筋肉を、自由自在に操りたいのに<br />股関節よ、痛まないでくれ

  バレエ教室に通い始めておよそ半年、2012年に突入した。
「ジュンコさん、痩せた?」
 とヨガのインストラクターの先生方から、言われるようになった。ちょうど年末にベトナムに行った際に、体調を崩して下しまくったので、そのせいなのだと思ってた。

 四十を越すと無理がきかない。体調を過信して衛生管理が十分でないものを食べてはいけないのだ。思い知らされた。若いつもりでいるわけではないのだが、海外に出れば、つい貧乏旅の癖が頭をもたげる。自分が憎い。
 顔がゲソゲソにそげた。取り戻そうと、一生懸命食べても、太るのは腹と下半身、というジレンマ。辛いです。

 とはいえ、下痢から一ヶ月も経てば、なんとか体重もやつれも戻ってくれた(自分がやつれ顔に慣れただけなのかもしれないが)。それなのに、インストラクターの先生方からの「痩せた、締まった」コールはおさまらない。えー?体重はむしろ増えたんですけど、まだこけてます?と聞くと、
「いや、上半身全体がこう……。背中の筋肉がすごいんだ。これバレエ筋だよ、きっと。うわー。やっぱバレエ、筋肉つくなあ……」

 ああ、背中か。
 普段服を着てる人には見えないところである。ヨガを始めた六年前は、ダブダブのTシャツにジャージを着てモソモソしていたというのに、今やもう照れも躊躇も消え失せて、上半身はユニクロのブラキャミである。スタジオは暖かめの温度設定になっているし(そうでないところもある)、動けばすぐに身体が熱くなる。
 というわけで冬でもブラキャミ一丁。下はヨガパンツかスパッツを着用。体型がはっきりわかればわかるほど、よし。ポーズをとった時の骨盤の角度や膝の開きなどをチェックしやすいことが、なにより大事ったら大事。

 バレエではあれだけベビーピンクのタイツは無理だの、レオタード勘弁だの、グダグダしている割に、ヨガではぜんぜんお構いなし。慣れも大きいが、ヨガウェアにはガーリーテイストがない、というのが極めて大きい。むしろもっとかわいい(この場合のかわいいは、正統派のそれではなく、フラボアやウンナナクールみたいなちょっとはずした配色や形の”かわいい”を指す)ヨガウェアが出てもいいと思うのだが、なかなか見つからない。

 それはさておき、背中である。

 鏡に映して首を捩じってみたところで、特に変わったとも思えない。わからん。しかしある日のこと。両手を床につけて身体を浮かせる、鶴のポーズ(説明がとっても難しいので、のちほど図を掲載する予定です)からのバリエーションに挑戦していて、先生が私の背中を見て「うわすげっ」と小さく声を上げたことで疑問氷解。力を入れたときの様子がすごいらしい。このポーズ、同じ先生のレッスンでもう二年は確実にやっている。つまり先生は私が力を込めた背中を眺め続けているということだ。漫画のバキの背中みたいにいろいろレリーフ状に浮き上がってきたんだろうか。
 もともと背中には骨と皮しかなかったのだ。そこを鍛えたら脂肪レスのまま筋肉だけが育っているらしい。それが果たして理想の体型なのかというと……まあ、なにもないよりは、ずっといいと考えるとしておこう。

 それから足だ。トウシューズは履かなくても、ポワント、爪先立ちをするうちに、細くはならないのであるが、締まった。つまりはタプタプしたものが減った。アキレス腱がごっそりと浮き出るようになった。ヨガで片足立ちのポーズをするうちに、筋肉はそこそこ締まってきていたのであるが、バレエで脚の筋肉出力の桁がひとつ上がったため、ぎんと浮き出てきた。

 これは嬉しい。十八歳のときに円覚寺に参禅して、雲水(修行僧)たちの美しい足首を見てアキレス腱に目覚めた。以来男女問わず、太さ問わず、アキレス腱が出ている足を求めて床上五センチに目を泳がせるアキレス腱フェチである。
 ところが自分の足はといえば、上半身が痩せてるわりにのっぺりして太い。嫌で嫌でしかたがなかった。腰痛が治ってからハイヒールを履くようになったのも、すこしでもアキレス腱を出したい気持ちからだったりする。あらゆる高さのヒールを試着して、アキレス腱が一番浮き出る高さまで研究したっけ。
 そうか、足を鍛えれば出るものだったのか。
 二十五年前、いやいや十年前でもいい。昔の自分に教えてやりたい。いやいや、今だからいいのだ。体型がどう変わろうと、所詮は中年。自己満足のため以外のなんにもならないということが、とてもはっきりしている。そして老いはもう目前に迫っているどころか始まっている。

 もし自分が若いうちに体型いじりに目覚めたら、勘違いして余計な邪念や欲を出して空回りして、自滅していたに違いない。十代の頃に抱えていた体型コンプレックスは、実に面倒だった。あの焦燥を抱えたまま突っ走れば、思い詰めるわりに根性のない自分の性格上、絶対やばいことになる。そう察し、二十代になる頃にはそこからいかに降りて距離を置くかを考えるようになっていたんだったっけ。

 体型も体力も一度すべて諦め果て、癌ができたことによって全ての焦燥も一度捨て去った後に、ヨガをはじめているので、結果に過剰な期待を持たずに済んでいるのだ。
 もちろん一度焦土と化したはずの地平にも、元気になれば春の雑草のごとく欲は次々と芽を出す。だからこそバレエもやっているわけであるし、掲げた目標もあるのだが、成果への期待度は、やはり昔と比べれば冷めきっているのだった。
 尻肉を上げて、スキニーパンツを綺麗に履きたいとはいえ、下がったままならパンツの下にガードルを着ければいいだけのこと。それでもダメなら履かなきゃいいだけのこと。加齢者だけが持ちうる居直りである。

 ところでバレエにおけるポワント、爪先立ちであるが、これが想像をはるかに超えるものなのだった。普通爪先で立ちましょうと言われて、踵を床からせいぜい六、七センチ上げれば命令を果たしたと考えるものではないだろうか。

 バレエでは違う。完璧に上げ切らねばならない。つまりは指の付け根の重心をかける部分から垂直に立つくらい。それって普通の人間は一瞬しかできない動作なのでは?と思うのだが、これでさらに両腕を上げて、二十秒くらい静止させられたりする。ぐらぐらするとかいう前に、爪先で立ちきっていられない。踵が落ちて来てしまう。
 ヨガで爪先立ちになることは皆無なのだから、私の爪先立ち能力はまるで未開発なのだ。ヒールの靴を履いたところで七センチが限度だった。それ以上は未知の世界。
 K先生のように、小さいときからバレエのレッスンを本格的にして、トウシューズでちゃんと踊るくらいまでになると、ヒール靴も十センチ以上のほうが、「気持ちいい」んだそうだ。よくわからないのだが、バランスが取れてしまうらしい。すげえ、としかいいようがない。
 トウシューズで立つときはもちろん、バレエシューズでレッスンするときも、脚をスッと上げるとき、足の甲はキュッと反る。先の先まで形が整うというか。DVDでプロのバレリーナの甲を見ると、普通の人からすれば「曲がってる?」の域になる。たいへんかっこいい。バレリーナの美しさを語るときに、足の甲の反り具合を挙げるひとも多い。

 ちなみにトウシューズというものは、幼児の頃からバレエ教室に通っていても、本来十一歳くらいになるまで履かせてもらえないものらしい。何年もかかって全ての筋肉をバレエ用に強化し、甲もちゃんと「出て」からでないと、危険なのだ。甲がきちんと出ると、そこでバランスをとるから爪先にかかる重心が分散されるとか。

 書いていてまったく意味がわからないというか、想像がつかない世界である。もちろん私の受けているレッスンは、バレエシューズで行っている。トウシューズを履くことは、まずないであろうし、今のところ恐れ多くて履いてみたいとも思えない。

 ともあれ甲は、どうやら足の裏の筋肉を鍛えていくうちに出てくるらしい。先輩方の足を見れば、大人になってはじめた方でも、結構綺麗に甲がでているのである。いいなあ。私の足はいまだ小指の裏までは力が入らないし、どう力を入れても真っ直ぐのまま。ちいともサマにならん。
 バレエ漫画「テレプシコーラ」で、主人公の女の子が自宅で足の裏の筋肉を鍛えるのに、バスタオルを足で掴んでたくし込んでいくエクセサイズシーンがある。なるほど。毎日ではないにせよ、気がつくと家でにじにじにとやるようになった。
 『Miyakoレッスン 吉田都のエッセンス・バレエクラス』新書館では、足の指と付け根でタオルの端を掴み、もう片端を手で持って引っ張り合うというエクセサイズが紹介されいてる。これはさらに難易度が高い。ちょっと引っ張ればタオルはすぐにほろりと足から外れてしまう。足裏の筋肉がつけば、立つときに床をしっかり「掴んで」立てるとのこと。はあ、バレエシューズ履きながら足裏で床を「掴む」感覚を持つって。どれだけやればいいんだよ……。

 

 

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