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2015.03.04

Vol.8

指先から媚薬

鈴木 涼美

指先から媚薬

 小学校の5年生から6年生の途中までロンドンのセント・マーガレット・スクールという1クラス10人程度の非常にこじんまりした英国らしい女子校に通っていた。もちろん個人的にどうしても留学してみたいとか思っていたわけではないが、父親の仕事の都合があり、意思はあるが意思決定の権利はない10歳であった私は、ロンドンに強制連行されたのである。『姫ちゃんのリボン』が見られなくなるしスマップの出るMステも見られなくなるし同級生のタテイシくんにも会えなくなるという理由で、私としては非常に不本意な物理的移動ではあったものの、そこは子供のかわいいところ、あるいは私のかわいいところで、ちょっとブツブツ言いながらも、実際行ってみたらめっちゃ楽しんで馴染んでロンドンで育つために生まれてきたんじゃないかしらとまで思っていた。

 母は、日本の私立の小学校のくだらない宿題や起立・礼なんて無視して子供は豊かに育てばいい、と信じている人だったが、その豊かさの前提条件として、本をたくさん読むことと英語が喋れることが必要だとも頑なに信じていた。だから私は英国滞在の3カ月前から、学校から帰ってきてから寝る前までは母とは英語で口をきかなくてはいけない、じゃないと熱湯風呂、みたいな過酷なトレーニングを経て(熱湯風呂は嘘)、とにかく現地校で友達100人つくりなさいという指令を受けて、いざ英国に勇んで入っていったのである。

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