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2015.03.21

W杯という日常のひと試合 内田たる所以がそこにはある(内田篤人/三村祐輔著『淡々黙々。』)

本田 好伸

W杯という日常のひと試合 内田たる所以がそこにはある(内田篤人/三村祐輔著『淡々黙々。』)

淡々黙々。
内田篤人/三村祐輔
小社刊/1600円(税別)

 

 フットボールの取材を生業としながら、私は内田篤人のことをあまり知らない。おそらく、サッカーに興味がある一般の人と同等レベルの内田像しか持ち合わせておらず、本書を読む前にあえて情報のアップデートはしなかった。フラットな気持ちで「淡々黙々。」と向き合いたいという、言い訳のような理由を引っ提げて……。

 そして、(もはや周知の事実なのかもしれないが)改めて気付かされた。屈託のない笑顔と真剣な眼差しを見せ、情熱と冷静さを兼備する彼は「イケメン」だと人気を博しているが、内田という男はもはや私の想像とは掛け離れた突き抜けた存在であり、ふと「漢気」という単語が浮かんでくるような人物だった。

 内田は本書の最後にこう述べている。「サッカーは自分だけのためではなく、支えてくれる人のためにもしたい。今はシャルケ04のみんなに恩返しがしたい。そう思ってドイツで日々を過ごしている。淡々黙々とね」。内田が抱く「恩返しがしたい」という思いは、本書の軸であるブラジルワールドカップ目前に怪我をしてしまった2014年2月9日から大会最後の試合となった6月24日までの歩みの中で、彼が最も重きを置いたものだったに違いない。周囲の支えに対して、感謝してもし切れないほどの激動の日々があった。

 大怪我に直面して内田は成長した。時にはリハビリを共にした他競技選手の姿勢からサッカー選手としての立ち位置を再認識し、復帰に向けて調整を重ねる過程ではケアをしてくれたスタッフへの感謝の思いを強めた。うまくいっていない時、いかに自分と向き合って前に進んでいくのか。怪我から復帰し、W杯のメンバーに選出され、4年前には選ばれながらもピッチに立てなかった舞台で、内田は「いつも通り」の高いパフォーマンスを示した。それは偶然ではなく、必然によってもたらされたものだった。

 当初、本書の写真の多さが気になった。いたずらに厚みを増すことになっていないか、と。ただそうではなく、この写真は本書の大事なピースだった。言葉と場面がリンクし、写真が語り始めそうですらある。そして本書の大きな魅力は、共著という部分にある。本筋は三村祐輔氏が内田の言葉と経験を、内田視点で綴っていく。内田の気持ちを正確に記すドキュメントとしての完成度は言うまでもない。ただ醍醐味はその先だ。試合や練習後に内田がメディア陣に語ったコメントが、可能な限り本人の言い回しでまとめられている。あえて語尾を丁寧には直さず、ですます調や、時々タメ口だったりする。余談のような会話も残っていることで、当時の思いをすんなりと受け入れられるし、臨場感を味わうこともできる。

 これは、内田が内田たる所以を示し、そしてすでに本書のさらに先へと進んでいるだろう内田を感じさせる作品だ。内田は、1分け2敗でグループ敗退となった試合後、「4年間で日本は進歩したと思うか」と記者に問われ、「進歩しているとは思う」と答えた上で、後にも言葉を続けた。「世界は近いけど、広いという感覚はある」と。こういう彼の表現力には頭が下がる。「近いけど、遠い」のであれば、結局は遠いということになる。でも彼はそれを「範囲」で表した。広いからこそ、こちらもその分、様々な相手を知り、戦い方を学び、自分たちが貫くスタイルを出すこと、また出せなかった時にどうするのかを詰めていくことが大事なのだと示唆している。物事を的確に捉え、誰かを非難するわけでもなく、それを質問者にも、メディアを介して伝わっていく人々にも気付かせてくれるような、視野の広さと懐の深さを持つ人物だと感じさせる。

 そういう彼の言葉に触れ、「淡々黙々。」の意味が少しだけ分かったような気がする。W杯だから頑張るのではなく、シーズンの大半を過ごすクラブでやっている「いつも通り」が大切なのだ。毎日の練習を、週末の試合を、クラブでの生活を、淡々と黙々とこなし、そうした日常の延長線上にW杯というお祭りがある。内田にとってのブラジルW杯は、それ以上でもそれ以下でもなかったように思う。日々のクラブでのプレーや行いがいかに大事であり、それが先々でどのように活きていくのか。当たり前のようでありながらも、サッカー界にとどまらない世界のスタンダードを、内田はW杯と、そこに至るまでの道程で得た経験から示している。本人は、ありのままの自分を語っただけなのかもしれないが、私自身、背筋がピンと張るような感覚を抱き、同時に、内田はこれからの4年間、さらにはその先にどんな人生を歩んでいくのだろうかと、興味が湧かずにはいられない。本書は、ファンやサッカー選手のみならず、他競技の選手やビジネスマン、学生に至るまであらゆる人にお薦めしたい一冊だ。「淡々黙々。」という言動の価値を、内田の真髄を知ることになるだろう。

『ポンツーン』2015年3月号より

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