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2015.03.12

単純なる行動原理の徹底(堀江貴文著『我が闘争』)

羽田 圭介

単純なる行動原理の徹底(堀江貴文著『我が闘争』)

我が闘争
堀江貴文
小社刊/1400円(税別)

 

〈時間あたりの作業効率と判断のスピードを極限まで上げていかなければ、僕のやりたいことは到底実現できなかった。〉〈とにかく今、この瞬間に集中するのだ。〉

 上記の文が、幼少期からの著者の行動原理を体現している。

〈過ぎ去った時間に思いを馳せるなんて、暇な人間のすることだと考えていた〉氏が自叙伝を書く気になったのは、約一年九ヶ月を長野刑務所で過ごすにあたり〈出所後の人生でこれほど暇を持て余すことなんてないはずだから〉。〈横書きの便箋に鉛筆を走らせ、小さな文字で改行もせずにびっしりと書いた。驚くほど漢字が書けなくなっていたので、辞書は手放せなかった。〉というのは印象的だ。出所後に書き直したり面会人に清書を頼めばいいとはせず、自力で辞書を引く。今時、こんな真面目な書き手がいるだろうか。

 自伝を「書かせる」プログラムは出版業界で確立されていて、有名人や無名人のどんな経験談や回想でも、フォーマットにあてはめれば形になる。誰の本を読んでも毎度同じフォーマットを読まされる読者は、最近食傷気味だ。しかし本書のように、本当に面白い経験をし面白い考えをもった人が書いた自伝は、心底熱中させられる。

 仕事のことしか頭にない父親と、感情的な母親のエピソードが語られても、〈当時の堀江家が家族として機能していなかったわけではないし、それなりに楽しかった思い出もないわけではない。〉というふうに、記号的な苦労話や物語性に接続されるのは徹底的に回避される。文章は整理されていて、ひっかかりが一切ない。文筆家が量産する際に発生してしまう、手垢にまみれた表現やそれらを読まされるストレスとも無縁だ。

 中学の入学祝いでMSXパソコン「日立H2」をなんとか買ってもらった著者は、〈ゲームソフトを買うお金がないので、自分でプログラムを打ち込まない限り遊ぶことができない〉と、〈雑誌に掲載されていたプログラムを片っ端から入力した。キータイピングもまったくの自己流だけれど、日に日に早くなっていった。〉

 そう、ここに王道の成長譚が描かれる。中でも、新しいパソコンを買うため親から借金をし、返済するため新聞配達をするエピソードが面白い。〈「PC―88FR」を必要としているのは今の僕だ。1年かけて自分のお金が貯まるのを待つよりも、すぐに買える方法があるのであれば、そっちを選んだ方が合理的。〉〈借金をすることによって時間をショートカットする〉。とにかくスピードを重視した著者が新聞配達で学んだことは〈特に思い当たらない〉。〈嫌なことに費やす時間をなんとかしてなくすか、減らすかして、楽しい時間を少しでも増やすべきだ。人生には限りがあるのだから。〉

 一頃は「時代の寵児」というふれこみが先行していたが、少ない資本を駆使しフロンティアを開拓していった著者は、戦後日本復興史に出てくる偉人たちのよう。その行いのどれもに身体性がつきまとい、汗くささを感じるのだ。個人的には、そんなITの最前線での苦労、そして経営者としての具体的な奮闘記が描かれる中盤が最も面白い。

 世界の企業を相手にしたM&Aでも出し抜かれたりと、色々な苦労を重ねる。他にも、プロ野球界参入、衆院選立候補も真面目に取り組んだ氏は、〈新しい世界、新しいビジネスを考え続けてきた僕にとって、その旧態依然とした体質は敵以外のなにものでもない〉。

 当然のことながら本書では堀江氏の立場からの情報しか開示されていない分、堀江氏や他の誰かに刑事責任があったのかどうか等、素人には判断できない。しかし、一つだけわかることはある。ワイドショーや新聞の社会面記事レベルの情報量で、複雑な事件の真相を一般人が理解することは不可能だということだ。

 自分の意志で大きくしていった会社が─そして家庭も、自分の目の届かないところで静かに分裂する。それでも堀江氏は、目の前につきつけられた問題に対し、集中力とバイタリティをもって解決しようとする。

 問題の解決と成功はあらたなる増大に繋がり、また次なる分裂を生む可能性もはらんでおり─まるで細胞分裂の上限回数を決めるテロメアの長さの限界に挑むように、成長の道を歩まずにはいられない。

 本書には本当に格言が多いが、著者が格言を言う気などないことは明白だ。記号的なことを言っても人には伝わらず、論理的に親切に情報を開示してゆかなければダメだというスタンスで書かれているからだ。それこそ、不透明な空間内でなんでも秘密裏に決めてしまう「老害」的なものへの反抗だろう。内輪向けに書きがちな自分たち職業作家も見習うべき姿がそこにはあると、切に思った。

『ポンツーン』2015年3月号より

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