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2015.03.02

震災報道の現場を題材にしたタブーなき"熱い"ミステリ(真山仁著『雨に泣いてる』)

タカザワ ケンジ

震災報道の現場を題材にしたタブーなき

雨に泣いてる
真山仁
小社刊/1600円(税別)

 

 未曽有の大災害となった東日本大震災。「忘れない」と誰もが誓ったあの日から四年がたつ。被災地はいまも復興の途上だが、離れた場所で生活している日本人の多くが、早くもあのときのことを遠く感じ始めているのではないだろうか。しかし、忘れかけているからこそ、あのとき眼にしたこと、耳にしたことを次世代に伝えたいと考えている人も多いはずだ。あれからジャンルを問わず、多くの表現者たちが3・11とその後のこの国をテーマに作品を発表しているのもその表れだろう。

 真山仁もその一人だ。最新刊『雨に泣いてる』は、真山にとって、『コラプティオ』『そして、星の輝く夜がくる』に続き、震災を題材に取り上げた三冊目の作品になる。『コラプティオ』では政権内部という高みから、『そして、星の輝く夜がくる』では神戸から被災地に赴任した教師の目から、低い視点で被災地に生きる人々を描いた。今回は震災直後に被災地に入った新聞記者を主人公に、震災の報道現場で起きるドラマを真っ向から描いている。

 大嶽圭介は三十代後半の中堅記者。東日本大震災の特別取材班のサブデスクを命じられるが、現地に行くことを志願する。なぜなら、大嶽は駆け出しの頃、阪神・淡路大震災を取材し、自分のミスから取り返しのつかない記事を書いてしまったという経験があったからだ。東日本大震災は、大嶽にとって、記者としてのトラウマを克服する機会になるはずだった。宮城班のキャップを任され、仙台沿岸部へと向かった大嶽の前に、津波によって破壊し尽くされた光景が広がる。

 取材を始めた大嶽にもう一つの社命が下る。石巻と気仙沼の間にある「三陸市」で、行方不明になった新人記者を探せというものだ。その新人記者、松本真希子が取材していたのは自殺防止活動をしている駆け込み寺だったが、取材中に被災していた。幸い、松本は無事だったが、彼女を助けようとした住職が津波で亡くなっていた。ところが、その住職が過去に殺人を犯していたのではないかという疑惑が持ち上がる。

 震災報道とはどのようなものであるべきなのだろう。生き別れた娘を探す男性を前に何も訊けずにいた女性記者を尻目に、大嶽は根掘り葉掘り事実を訊き出す。女性記者に「あんな酷い取材はないんじゃないですか」と非難された大嶽はこう応える。「記者の仕事は、被災地に同情することじゃない。どれほど相手が悲しみに暮れていても、何が起きたかを訊き出さなければこの惨状は伝えられない。安っぽいヒューマニズムなんぞ不要だ」

 大嶽は、それが事実であれば書く、という原則を曲げない。しかし、亡くなった住職は人格者として知られ、多くの自殺志願者たちを救ってきた。震災という非常時に、その過去を暴き、記事にする必要があるのか。同僚や取材相手から非難を浴びながらも、大嶽は取材をやめようとしない。

 作者の真山仁は外資系の投資ファンドの日本進出を題材にした「ハゲタカ」シリーズで知られるが、すべての作品に共通するのは、私たちが直視しようとしない現実に鋭く斬り込む姿勢だ。『コラプティオ』では原発の輸出、『そして、星の輝く夜がくる』では被災地の教育現場、『雨に泣いてる』では震災報道がその「現実」にあたる。直視しようとしないということは、ある人びとにとっては触れられたくないこと、耳の痛いことでもある。その人たちの神経を逆なでしかねないだけに、真山作品の主人公は強くなくては務まらない。大嶽も記者としての原理原則に忠実で、ブレずに取材をしてきた辣腕だ。しかし、その大嶽ですら震災の現場に立ったとき、戸惑い、悩む。ましてや、住職の周辺を取材するうち、意外な事実に直面し、予想外の展開にたじろぐ。ブレず、強くあろうとする記者の「弱さ」が読者の不意をつき、やがて心にしみてくる。そこに真山作品の魅力の一つがある。

 昨年、真山仁は作家生活十年を迎えたという。元新聞記者というキャリアを持つ真山にとって、『雨に泣いてる』は、記者とは、報道とは、という問いを描いたこの作品は、自らの原点を見つめ直す機会だったのではないだろうか。加えて、この作品は真山のエンターテインメント作家としての成熟を示すものになっている。震災、記者、過去の犯罪といったモティーフから連想される展開を見事に裏切り、かつ、そこから震災の現場を取材すること、報道機関という組織の論理が浮かびあがってくる。まさに私たちが直視しようとしてこなかったことが生々しく書かれていながら、物語を読む楽しみをたっぷりと味わえる。真山作品の真骨頂である。作家生活十一年目のスタートにふさわしい、熱い物語だ。

『ポンツーン』2015年3月号より

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