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2015.02.26

『健さんからの手紙』重版記念 第1回

一生懸命生きている人の役しか
僕はやりません

近藤 勝重

一生懸命生きている人の役しか<br />僕はやりません


 2014年11月に急逝した高倉健さんと、18年間にわたって書簡のやりとりを続けてきた著者。ときには教鞭を執る大学での講義に健さんがお忍びで参加したりと、互いを大切な友人として温かな心の交流を続けてきた。
 そんな二人の書簡、とくに単なる通信の手段を超えて人生・人間の作法を教えてくれる健さんからの手紙を軸に、名優の素顔に迫った本書。
 数々の感動的なエピソードの中から、健さんの想いが伝わる話をダイジェストでお届けします(全4回)。

 


「生きるって、切ないですねぇ」

 健さんはよくそう言っていました。切ないという言葉には、とりわけ感慨がこもるようでした。

 私自身もそう思います。生きていれば、いろいろさまざまなことが身の上に起こります。でも、何とか顔を上げて生きていこう。そういうときに本当に信じられる人がいるかどうか。これが結構大きいんです。生きていくとは、ある意味、他者が信じられるということでもあるからです。

 家族でも、親でもない、他人。身内じゃないんです。特別な他者と言えばいいのでしょうか。他者であることに意味があるんです。

 私にとって健さんはそんな一人でした。

「一生懸命生きている人の役しか僕はやりません」

 健さんの口から何度か聞いた言葉です。

 そうなんです。健さんはいつも懸命に黙々と生きながらも、つらい事態に直面して、ぎりぎりの判断を迫られる役を演じてきました。そしてその状況を踏み越えていくときの人への想いの強さ。それが健さんの映画の大きな魅力でした。私はその想いをいただいて生きてきた気がします。

 事件記者のときなど、健さんの看板のかかった映画館に飛び込んでは気持ちを立て直し、取材の現場に戻っていったものです。

 よく言いますよね、映画館を出るときはみんな健さんになっている、と。確かにそうなんですが、私自身はスクリーンの健さんを眺めつつ、自分の甘さやいたらなさ、否定できない裏表の顔、それゆえの悪あがきや卑屈さを今さらのように自分の中に見定め、感じ取って、少しはましな人間になって映画館を出て行っていたようにも思います。

 その後に健さん的なモラルがどれだけ維持できたかはともかく、健さん、とりわけスクリーンの健さんは信じられる特別な他者だったのです。
 個人的な関係では著書を贈って手紙のやりとりをしたり、時に電話をいただいたりしているうちに直接お会いでき、以後は電話で約束事もできる間柄になりました。

2012年11月22日、著者の授業を聴講した高倉健さんと。

 その一つに、健さん自ら早稲田大学へやって来て、大学院政治学研究科のジャーナリズムコース(通称、Jコース)での私の授業(「文章表現」)を聴講してくれたことがあります。

「聴講生 高倉健」は大学にも内緒でした。公になったら、大騒ぎになるかもしれないからです。

 大学当局にも伏せる話に、健さんが付けた条件は一つだけでした。

 学生数を聞くので、十五人だと言うと、「十六番目の生徒として一番後ろの席で聴かせてください」と、ただそれだけだったのです。

 そして約束どおり一人で現れました。早稲田大学のキャンパスが黄葉で染め上げられた晩秋のことでした。


「想い」という言葉の大きさ

 健さんは「想い」にあふれた人でした。

 その「想い」に少しふれておきますが、「おもう」は和語ですから、平仮名で「おもう」と書く人もいれば、「思う」「想う」、あるいは「憶う」と書き分ける人もいます。司馬遼太郎氏の『関ヶ原』(新潮文庫)は、「いま、憶いだしている」という書き出しです。

 健さんは「おもう」は「思う」でも、「おもい」を「思い」とはあまり書きません。「想い」です。

 解字的には想の「相」は、「木」をじっと見つめている「目」を表しています。その下に「心」ですから、心でじっと木を見つめている。その目は心の目とも理解できます。

 木の上は空です。下には大地が広がっています。「想い」ってとっても大きな言葉なんです。本当に大きな大きな心の働きなんです。

「思」の「田」は頭です。頭で考え、心で思う。意味深い漢字ですが、健さんは「想い」を胸に人との出会いを大切に生きながら、時にひっしと立っている「名木」に出会うと、立ち止まっては見上げ、幹や枝ぶり、さらにはその木の持つ力の源泉まで学ぼうとしていたのです。

 私は健さんの死去に際して、二本の記事を毎日新聞に書きました。

 一本は先述のとおり「評伝」です。「想い」にとことんこだわっての健さんの生き方にふれました。

 もう一本は、毎日新聞の夕刊で長年連載しているコラム「しあわせのトンボ」です。ここでは健さんの残した言葉の数々にふれました。

 訃報に接して数日、私は改めて健さんからいただいた手紙を読み直しました。
健さんからの手紙は、年賀状や贈答品に添えた封書などを入れると五十通ほどになります。

 一通一通目を通しているうち、「想い」を頂戴した文面の手紙を中心に、私なりに捉えた「高倉健」を描いてみたくなったのです。

 そして手紙をもとに広がる話から、みなさんに健さんの生き方や人柄は心の産物だということを感じ取っていただければ、と本書の執筆にかかったしだいです。

*第2回は 2月28日(土)更新予定です
 

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